幽霊戦隊ゴーストファイブ
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|DATE: 11/03/2012 23:15:02▲

幽霊船の船長的な。
(海賊船の船長=女性という方程式はどこからですか史実ですか俺得)
[ 重吉 ]
死んだ私は太陽にほえる
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|DATE: 11/25/2012 16:27:33▲
まさか誕生日企画で死ぬ羽目に…でもヒナラブ。
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魂迎
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|DATE: 12/06/2012 03:33:57▲
- [ 本文 ]
-
あぁ…そうかと、ネジは急に腑に落ちた。
腹が裂けた。
腕も、足もどこかが無くなっているが、血が流れ過ぎて、痛みもない。
死んでも、おかしくない状態なのに、今の今まで、自分が死ぬと思いもしなかった。
どうしても、どうしても死なないと、ずっと思っていた。
どんな窮地に陥っても、どんな敵に囲まれても、絶対に、死なないとそう思っていた。
だが、今。
柔らかい微笑を浮かべて、ヒナタがいる。
そう、今なら、黄泉路の坂を下ってやってもいいと思った。
そう、あなたが、一緒なら。
この自分を置いて、先に逝ってしまい、ネジはずっと腹を立てていた。
だから、簡単には、絶対に、ヒナタの元にはいかないと心に決めていた。
でも、ヒナタが迎えに来た、この時なら。
そうして、瀕死のネジは、唇から今生終りの息で、小さく呟く。
「…………おそ…いっ」
最後の最期まで、彼らしい減らず口を叩く。
そんなネジに、ヒナタは目を瞠り微笑を深くし、彼の魂へ手を伸ばしたのだった。
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[ 熊猫 ]
日刊ゴーストファイブ 告知
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|DATE: 12/14/2012 13:56:39▲
幽霊戦隊ゴーストファイブ THE MOVIE《クラーケンの至宝》
日刊連載(たぶん)決定!!
毎日一話ずつ(たぶん)掲載されますのでお楽しみに!!
「幽霊戦隊ゴーストファイブを見る時は部屋を明るくしてPCから離れて見てくださいね☆
ホワイトアイズのお約束でした……こ、これでいいの…かな?///」
「船長それぴーしーじゃなくてぱそこんって読むんですよ」
*[日刊ゴーストファイブ]は毎日0時0分に自動更新されます。
*挿絵は若干早めに上がりますのでアルバムにて「次回予告」としてお楽しみください。
*これにより21:00~24:00までに投稿された作品については
翌日0時以降に投稿時間を改めさせて頂く場合があります。ご了承ください。
※日刊ゴーストファイブは
至宝/幽霊戦隊ゴーストファイブより派生した悪ノリです。
- [ 本文 ]
-
【ゴーストファイブ主な登場人物・他】
 |
日向ヒナタ/ゴーストレッド:
幽霊船「ホワイトアイズ」号の13代目船長で「火」のゴーストを操る、
優しく純粋な心を持つ少女である。
内気で恥ずかしがりの面があるが、
人命救助のために無茶をしてクルーから叱られることもしばしば。
生まれつき片目が見えず常に眼帯をつけている。その眼帯の下を知る者は数少ない。 |
 |
日向ネジ/ゴーストブルー:
「ホワイトアイズ」のクルーで「水」のゴーストを操る。
船長ヒナタとは双子の父親を持つ従兄妹同士。
ヒナタを守るためにはどんな手段も厭わないところがある。
生真面目な性格で警戒心が強い。少年ネジに強い疑念を抱いている。 |
 |
日向コウ/ゴーストブラック:
「ホワイトアイズ」のクルーで「天」のゴーストを操る。
「ホワイトアイズ」の航海士、そして船長を支える参謀でもある。
穏やかな性格で、先代船長の時代からヒナタとネジを温かく見守っている。 |
 |
日向トクマ/ゴーストグリーン:
「ホワイトアイズ」のクルーで「地」のゴーストを操る。
コウと同年齢だが陽気な性格でふざけている時が多く、
余計な一言が多いためホヘトやコウによく叱られる。
しかしその性格に多くのクルーの心は救われている。
ホワイトアイズのムードメーカ的存在。 |
 |
日向ホヘト/ゴーストイエロー:
「ホワイトアイズ」のクルーで「風」のゴーストを操る。
ゴーストファイブ最年長で、幼くして親を失ったヒナタとネジを
実の子のように愛情かけて育ててきた一団の父親的存在である。 |
黒子:
ゴーストファイブの戦闘や普段の生活をサポートするクルー。
黒子は大勢いてたまに画面の隅を動き回るが映っていないことにするのがお約束である。
リトルネジ:
海を漂流中「ホワイトアイズ」に拾われた少年。
記憶障害で自分のことは何一つ覚えていないが、マーメイド・ラグーンの地形に詳しいことから「ホワイトアイズ」に同行することとなる。
幼い頃の日向ネジに似ていることからホヘトが「ネジ」と名づけた。
船長ヒナタに並ならぬ執着を見せる。日向ネジとは犬猿の仲。
クラーケン:
海の悪魔と呼ばれる巨大な大蛸。マーメイド・ラグーン近海に踏み込む船を沈める破壊者。
人魚の棲家を守っている。
人魚姫:
美しい歌声を持つ美しい人魚。この声で船乗りを魅了し海へと誘う。
近寄ればたちまち恐ろしい姿へと変貌し、鋭い牙と爪で人を襲い切り裂いて食べる。
クラーケンの至宝:
どこかの海の最も深き場所で眠るとされている宝。
その実態は生物とも金銀財宝とも、はたまた海を流れる海流の名前とも言われているが、いずれも多くの船乗り達の恐怖と野望の対象であることに間違いない。
マーメイド・ラグーン:
珊瑚礁が円状に隆起してできた塩湖の海域。
かつてラグーン周辺には多く人魚が住んでいたと近隣諸国に伝えられている。
周辺の海は数十年前までは美しい珊瑚礁が続く海だったと言われるが、
現在では珊瑚の死骸が白く浜を覆う死の海となった。
塩湖は深い海溝となっており誰も立ち入ったことがないが、ここにクラーケンの至宝が眠ると噂されている。
マーメイド・ライン:
このあたりの海に流れる海流の呼び名。穏やかな海流で荒れることもなく水難事故も起こりにくいと有名な海流。
しかしここ近年マーメイド・ラグーン周辺で数多の船の沈没事故が相次ぎ、徐々にその範囲を広げつつあった
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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]
日刊ゴーストファイブ 00/13
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|DATE: 12/14/2012 14:04:22▲
- [ 本文 ]
-
かつて七つの海を統べる強大な力をもつ海賊団が存在した。
その海賊団の名は「ホワイトアイズ」
世界の海を旅し、海に眠る財宝を手中に収めていた彼らは、そこから得た利益を貧しい小国の民に分け与えるなどし、広く平民に愛される海賊団でもあった。
しかしそれをよしとしない多くの海賊たちは、裏でホワイトアイズを沈める計画を立てていた。
調停を結んでいた海賊達の裏切りに合い、最強の海賊団ホワイトアイズは集中砲火を浴びせられ、たちまち船は火の海と化した。
女子供も容赦ない海賊達から二人の幼い子供を守るため、ホワイトアイズの屈強の男たちは子供を燃え盛る船から連れ出した。
船長ヒアシとその弟、ヒザシはホワイトアイズの誇りを守るため最後まで船に残り戦った。
幼いヒナタとネジは燃えながら沈んでいく船と、誇り高い父親達の最後を泣きながら見送った。
それから13年後~ヒナタとネジは逞しく成長していた。
呼びかけに答え世界に散った仲間たちは再び集結し、ホワイトアイズは新しく生まれ変わった。
復活を果たしたホワイトアイズの名は瞬く間に世界に広まっていった。
しかし、新生ホワイトアイズには先代と大きく異なる点があった。
13代目船長である日向ヒナタは海賊団ではなく貿易商に依頼された荷を世界各地へと送り届ける運び屋としてホワイトアイズを再興させていた。
貿易商たちは元海賊に重要な荷を預けることに当初は抵抗のあったものの、船長の人となりと確かな実績の積み重ねで今や絶対の信頼を得ていた。
そんなある日のこと、大国の重要極秘事項の依頼が舞い込んだ。極秘事項のため彼らには一切の情報を与えられていなかった。
普通の荷ではない、故にホワイトアイズに依頼がきたことは明白。彼らはその依頼を受け出航したのだった。
それが長い航海の始まりになるなどと、誰が思っただろうか…
順調な航海の途中、突然の嵐がホワイトアイズを直撃した。荒れ狂う海を船員たちは必死に船の体制を立て直そうと懸命に動いた。
その最中、あまりに巨大な為、甲板へと固定されていた積荷はワイヤーロープが負荷に耐えられず引きちぎれてしまった。
積荷は木箱から外に飛び出し、クルーたちは海へと落ちてしまわないよう、木箱からでた石櫃に集まった。
しかしその混乱に乗じたかのように海はさらに荒れ狂い、一行は仕方なく石櫃の中にあるものだけでも依頼人に送り届けるためその封を破り、蓋をこじ開けたのだった。
見るとその石櫃には何もなかった。しかし、不思議なことに石櫃はどこまでも深く底が見えないほど暗かった。そして石櫃の暗く深い底からどす黒く蠢くものが外へと出ようとしていた。
これは良くないものだ――一瞬で悟ったクルーたちは急いでその石櫃の蓋をとじようとした。だが、完全に閉じる前に内側からその蓋は弾き飛ばされ、勢いよく飛び出した黒い放出物はそれぞれが意志を持っているかのように空を覆い、放射状に散ってたちまち見えなくなった。
静まったかに見えた甲板で、ふたたび石櫃がガタガタと揺れだした。騒然とするなか、何かが石櫃から出てきた。
それはさっきまでのものと明らかに異種のものであるとひと目でわかった。
それは光り輝く金色のオーラを放った人の形をしたものだった。
人の形をしたそれはこの石櫃が何であるのか彼らに知らしめた。
これは「パンドラの箱」であると・・・そして自らを絶望の中、最後に残った希望「エルピス」と名乗った。
「パンドラの箱」かつて神々が人に災いを与えるため、この世に与えたもうた物―――この箱ははるか昔一度だけ開いたという――
長い苦しみの歴史がようやく終わり、休息を迎えられたというのに再び放たれた厄災は長き年月の中で新たな進化を果たしていた。
個をもった彼らは、より人らしいモノへと姿を変えたのだ。恐ろしい化物の姿へと・・・
残された希望であるエルピスは、再びこの箱へと厄災を封印する役割をホワイトアイズ一行に命じた。
原因を作ってしまった償いにと船長ヒナタはその申し出を受け入れた。
エルピスの言うことが真実ならば、この先に待つ運命は間違いなく絶望…
エルピスはヒナタの強い意思と、その勇気に好意を示し彼らに贈り物を与えた。
エルピスの幽体の一部でもある5つの属性エレメンツを、持つにふさわしい資質をもった船員たちに力を与えた。
元は神の作りし存在であるエルピス、その幽体を宿した彼らは生命の樹の恩恵を受け、時間の枷を外された。
時間の経過による老いも死も存在しない、いわば生きながらにして死んでいるようなものだとエルピスは語った。
しかし再び箱に厄災が満ちたときエルピスもまた封印され、彼から分け与えられた力は再び彼に帰属するという。
人として生きるのはそれからでもいいだろう―とエルピスは彼ら語った。
5つの霊体を与えられた5人とホワイトアイズの乗組員たちは、世界を厄災から救うため、新たな航海へと出航したのだった。
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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]
日刊ゴーストファイブ 01/13
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|DATE: 12/15/2012 00:00:00▲
- [ 本文 ]
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ホワイトアイズ一行は今日も大海原を行く。世界に散った厄災を全て石櫃に収め終えるまで彼らに安息の日は訪れない。
船長ヒナタは船室から出ると見張り台へとよじ登った。使い込まれた望遠鏡をキュッと引き伸ばして片目で覗く。穏やかな海、どこまでも続く水平線。
いつもの見慣れた海だった。
「……今日も異常なし……あっ!あれは………?」
望遠鏡を下ろそうとしたヒナタの目に常にないものが映った。
「子供……??」
「だれか錨を!!」
指示を聞いたクルーは急いで錨を海に沈めた。
「どうしたんです船長~」舵をとっていたトクマが間の抜けた声をあげた。
「子供が海に!早く助けないと!!救命ボートを…」
「その必要はない」
ヒナタの背後で冷静な声が響くと同時に、長い黒髪の青年が船を飛び降りた。
「ネジ兄さん!!」
青年が水面に降りる前に水柱が上がり、彼はそれを階段のように使うと、船の残骸にしがみついて気を失う少年のところまで移動した。
そっと手首に指を添え、脈を測る。微弱だが生きているのが確認された。
ネジが手で合図を送るとヒナタはほっとした表情を浮かべた。
その表情を見てネジは少年を抱え上げると来たときと同じように水柱をひょいひょいと駆け上がり船へと戻った。
「便利なもんだなぁ~~その能力!」
トクマが口笛を吹いてネジの背中をバンと叩いた。
ギロリとネジが睨む。
「なんだよー怒るなよ、褒めてるんだぜ?これでも」
そんなトクマを一瞥すると、ネジはヒナタに言われるままに船室へと入っていった。
医療用のベッドに横たえると、ネジは少年の服を脱がし清潔な寝巻きに着替えさせた。
着替える際には外傷がないかどうかチェックしたが大きな傷はないようだった。
しかし…
「ひどい熱だ…」
高熱にうなされながらも少年は目を開いた。
「君…大丈夫?」
心優しいヒナタは思わず身を乗り出して少年の顔を覗き込んだ。
その顔を見た少年はうなされながらも何事か口を動かすと再び意識を手放した。
ネジは常に寄せている眉間の皺をさらに深くして少年を見つめた。
それから数日後―――
ホワイトアイズは近隣の港へと入港していた。
補給と情報収集、そして今回拾った少年を医者に診せ、この船を降りてもらうために。
ヒナタは少年を連れて町医者を訪れていた。
「熱は解熱剤で収まるでしょう。衰弱が激しいようですが、きちんと食事をすれば元気になります。栄養価のあるものを食べさせてあげてください。
……しかし記憶の方はいつも戻るか…こればかりばどうにも…」
「……そうですか…」
ヒナタは隣に座る少年に目をやった。
気がついた少年は一切の記憶を失っていたのだ。生まれた場所も、自分の名前も、帰る場所すらこの少年は何も知らない。
この子をこのままこの島に置き去りになど……ヒナタは心を痛めた。
「ヒナタ様…」ヒナタの考えていることを知ってか、少年はすがるようにヒナタを見つめた。
でも私たちは普通の人間ではない…自分の甘さで幼い命を危険に晒すわけにはいかないのだ。
「……実は私たちは旅の途中でして…この子を連れて行くことはできないのです…幸いこの子は船乗りの知識があるようで…どこか雇ってくれるところが見つかるまでここで面倒を見ていただけないでしょうか……もちろん当面のこの子の生活費はお支払いいたします…」
「ふむ…そういえば人の手を欲しがっていたものが知り合いにおったような……、わかりました。彼は私が責任もってお預かりしましょう」
「ありがとうございます、よろしくお願いします!」
そんな二人のやり取りを少年は絶望した面持ちで眺めていた。
護衛を務めるネジはそんな少年を静かに見つめていた。
町医者を後にしたヒナタは何度も何度も後ろを振り返った。
窓の外から少年がこちらを見つめているのがわかった。
不思議と少年は駄々を捏ねるわけでもなく、ヒナタのいうことをただ黙って聞くと頷いた。
「いい加減にしてください船長…あなただって解っているからあの子を預けたのでしょう?」
「はい…でも…なんだか可哀想で………何も解らない場所に一人の残されるだなんて…あんまりです…」
トボトボとネジの後ろを歩くヒナタが泣き出しそうな顔をしていた。
少年は涙も見せなかったというのにあなたが泣きそうになってどうする。
とネジは思わず舌打ちした。
「大丈夫だ!どこでだって生きていけるさ!だからあなたが泣く必要はない!」
思わずヒナタの手首を掴みネジはヒナタを引き寄せて言った。
「……あ…ごめんなさい…ネジ兄さ…ん」
「……いえ……オレも言いすぎました……すみません…」
その夜―――
「でね、街でちょっと気になる話を聞いたんですよ…」
話し好きのトクマは、街であらゆる情報を掴んで持ち帰ってくる。
必要な情報とおなじくらい余計な情報も多い。とにかく話が長いのだ。
「……必要なことだけ話せよ?トクマ」
彼が何かを言う前に幼なじみのコウが一言添えた。
もちろん必要な情報は彼らにとっては厄災の事の他にならない。
「………わぁったよ…ちぇっ…」
壇上から引き摺り下ろされたような顔をするとトクマは語りだした。
「人食い人魚と大蛸か……」
一通り話を聞き終えるとコウが考え込むように反芻した。
「出現し始めた時期も重なる点が多いし…これは行ってみる必要がありそうですね」
コウはそう言うとヒナタを見た。
ヒナタは集まる視線に対し、強く頷いて見せた。
「それが本当なら今回は一度に二体の相手をしなければなりません……装備を今一度確認してから出航しましょう」
「分かりました、至急物資の確認作業をして足りないものは明朝追加で補給し、準備が出来次第出航だ。トクマ、その場所はきちんと把握しているのか?」
「愚問~~っオレを誰だと思ってんだよ」
トクマは海図を広げると迷わず一点を指差した。
「ここだ!」
翌朝甲板は物資の積み込み作業が急ピッチで行われていた。
そのころ停泊するホワイトアイズの船尾に近づくちいさな人影があった。
船尾には誰もおらず、侵入者は身軽に船と港との隙間を軽々と飛び越え船内へと入った。
侵入者に気がついたのはホワイトアイズが既に港を出航してから随分沖へと出た頃だった。
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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]
日刊ゴーストファイブ 02/13
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|DATE: 12/16/2012 00:00:00▲
- [ 本文 ]
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「……どうするコイツ?」
トクマが面白そうにコウに振ってきた。
そんなトクマをじろりと睨むとコウは現実を捉えながら言った。
「どうするって…もう引き返すことはできない…、かと言ってこんな沖で下ろすわけにもいかないだろう。もしものときのためにボートは無駄にはできないし…」
「しかしなぁ…みすみす危険な場所に子供をつれていくなど…」
最年長のホヘトが子供に目をやりながら頭をバリバリと掻いた。
大人たちの会話を少年はヒナタの影に隠れながら聞いていた。
「……オレっ、船のことならなんでも手伝うからっ!それにあなたたちが行こうとしている場所のこと、オレはよく知ってる!だからお願い……ここにいさせて!」
たまらず少年はヒナタの陰から出てきて言った。
「だってさ、どうする?船長」
トクマはヒナタへと返答を求めた。
一同の視線が集まる。
「……わかりました、あなたの同船を認めます。ただしここでは私や皆の言うことをちゃんと聞くこと。そしてこの一件が終わったらあなたをさっきの島で降ろします、いいですね?」
「はい……」
毅然としたヒナタの言葉に少年は一つ返事で頷いた。
「で、この小僧なんて呼んだらいいです?名無しじゃ用を言いつけるのもいちいち面倒じゃないですか」
「……ホヘトさんこの子に名前をつけてあげてもらえませんか?」
「え?オレがですか、船長?」
「うん…だって……ね」
幼い自分をここまで育ててくれたホヘトはいわばヒナタにとっては実の父親も同然だ。
ヒナタはホヘトに対してはいつまでも子供のような仕草を残していた。
そんなホヘトにネジの視線が刺さる。
「(睨むな、睨むな…)うーんそうですねぇ……」
ホヘトは少年の前にしゃがみこむとその顔をじっと見た。壁に寄りかかるネジの顔がちょうど少年の顔に並ぶ。
「っ!!!!!決まりましたよ船長!」
以外に早い決定に一同は目を瞠った。
「この子の名前は【ネジ】だ!!」
ジャジャーーンという音がどこかで聞こえた気がした。
「え?」一同の声がハモる。
「あ、あの…ホヘトさん…ここにもネジ兄さんがいるんですけど……」
ヒナタは恐る恐るホヘトへと声をかけた。
「いや~~だってこの坊主どこかで見た顔だと思ったら、ガキのころのネジにそっくりなんですよ、コウ、トクマお前らよく見てみろよ、なぁ、そう思わないか?」
「え?そうでしょうか―――ネジはもっと憎たら…あ、いや…ゴホン 」
「どれどれー?俺にも見せてくれよ」
大の大人三人に見つめられ少年は思わずヒナタの影に隠れた。
「もうっ…皆さん子供相手に大人気ない!…怖がらせないでください!!」
「……確かにそうかもしれません」
「確かにどころかこんな可愛げのないガキがこの世に二人もいるなんて驚きだよなぁ、オイ!」
トクマはカラカラと笑うとネジに近づいた。
「お前もそう思ってんだろ?似た者同士仲良くしてやれよな。小僧に船のこと色々お前が教えてやるんだぜ!」
「……どこが……まぁ船の雑用はオレがしっかり仕込んでやりますよ、この船で勝手な真似をさせるわけにはいかないですからね」
肩に置かれたトクマの腕を払うと、ネジはヒナタの影に隠れる少年の腕を掴み取り引きずり出した。
「痛っ……」
「…ネジ兄さん、子供相手に乱暴なことは…」
「こいつの教育係はオレです、船長は口出ししないでください」
「ごめんなさい……」
ピシャリと言われヒナタはシュンとうなだれた。
「ネジの言うことは最もです。もと海賊船に隠れて乗船するくらいの度胸も体力もありそうですし、そんなに心配することもないでしょう大丈夫ですよ」
うなだれるヒナタの小さな頭を優しくコウが撫でるとヒナタも少しだけ浮上した。
「う、うん……それもそうね。男の子だものね…じゃあネジ兄さん、ネジくんをよろしくお願いします」
「…………やはりその名前は決定なんですね、まぁ船長がそれでいいのであればオレは別に構いませんけど…」
諦めた様子のネジは幼いネジを連れて下層部へと降りていった。
出港して数日後のこと………
一行は目的のマーメイド・ラグーンへ続く航路マーメイド・ラインに入った。
あとはこの海流に沿って行けば自ずと【彼ら】に遭遇するはず…
ヒナタはあたりを見渡し固唾を飲んだ。
今まで何度となく厄災相手に死闘を繰り広げてきたが、その度に緊張が体を支配する。
彼らとて望んで厄災として生まれたわけではないのだ…
しかし彼らを野放しにして罪のない人々を苦しませるわけにはいかない……。
できるだけ苦しませずに封印できたらとヒナタは願うのだった。
すると一人佇むヒナタから紅蓮の炎に包まれた小さな火蜥蜴が現れた。
それはヒナタの腕に尾を絡ませ、長い舌で彼女の頬を舐めた。
「慰めてくれるの…?ありがとう…君は優しいコだね…」
ヒナタは火蜥蜴の頭から胴体へと撫でさすった。
燃える体だがその熱はヒナタ自身に害をもたらさない。
ヒナタの能力の元である火のエレメントの具象化した姿が小さく可愛い火蜥蜴で、今ではすっかりヒナタになついていた。
魂の結びつきが強いため、ヒナタの能力はほかの誰より群を抜いて強かった。
が、それゆえにヒナタは己の力を持て余すことが度々あった。
そしてヒナタの体にはある小さな異変が起こり始めていた
「ま、またっ?!…い、一体何が……?!」
ヒナタは眼帯の上から目を抑えた。ヒナタの動揺に火蜥蜴は煙の様に消えていった。
生まれた時から光をもたない片目。今まで一度だってなんの感覚も覚えなかった目が疼く。
痛みではない…言うなれば何かに共鳴するかのように響いているのだ。
異変はマーメイド・ラインに入ってから始まったように感じる。
この先使命の他に、別の何かが待っているとでも言うのだろうか。
ヒナタは船首に立つと水平線を見つめた。
「船長?」
遠くから呼ばれヒナタは振り返った。
「あ…ネジくん」
「どうしたんですか?どこか痛いのですか?」
幼い少年、ネジが荷物を置くとトコトコと走り寄ってきた。
それを見ているとほんとうに幼い日の従兄ネジを思い出す。そしてもっとはるか遠い記憶を揺さぶられるような不思議な懐かしさを覚えた。
片目を抑えていた手を外し、なんでもないとヒナタは少年ネジに笑いかけた。
「それにしても穏やかな海ね……こんなところに恐ろしい化物が出るなんて信じられないよね…」
「……かつてここは人魚が歌を奏でる平和な海でした……そして人魚姫は誰よりも優しく慈愛に満ちた人だった…クラーケンはそんな彼女を愛しずっと見守ってきた…」
記憶のないこの少年は、マーメイド・ラグーンに関する記憶だけは残っていたようで、近海のことにも熟知していた。
ポツリとネジが小さい声で遠くを見つめて語った。
その横顔はひどく大人びて悲しそうに映る。
「……ネジ……くん?」
「………とオレはずっとそういう風に聞かされてきました…」
そう言いながらヒナタの方へと向き直った少年の顔は年相応に戻っていた。
「そう……素敵なお話なのね…もっと詳しく聞かせてもらえるかな…?」
「船長が望むのなら…喜んで」
甲板に腰掛けたヒナタの隣に少年は座ると昔々の御伽噺を語り始める。
その二人の様子をネジは見張り台から静かに見下ろしていた。
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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]
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|DATE: 12/17/2012 00:00:00▲
- [ 本文 ]
-
夕食を取った後、円卓を一同が囲み地図を広げた。
「我々は今この辺り……情報によると大蛸が出現するのはここからここまでの区間が多いらしい…」
コウが地図を指差しながら説明する。
「広い海原での戦闘はおそらく大蛸の方が有利だろう…、よって勝負はマーメイド・ラグーンで行うべきと判断した。少年ネジが言うにはこの辺は諸島の多い浅瀬の続く海だという。巨大な大蛸は動きが鈍るだろう…ここに持ち越すまでは船を沈ませないことが先決だ」
「こんな浅い海をこの船で行こうってのか?!下手すりゃ浅瀬に乗り上げて身動きできなくなるぜ?!」
トクマが慌てたようにコウに切り返す。
「そのためにお前の力が必要なんじゃないかトクマ、お前の能力を使えばどんな地形だってうまく切り抜けられるだろう?」
「あ、そうかっ……!」
「まったくお前は自分の力をいつも忘れすぎだ……だからいつまでも使いこなせないんだ…」
コウががっくりとうなだれた。
「まぁまぁ、そう落ち込むなよ、コウ」
カラカラと笑顔を浮かべてトクマがコウの肩を叩いた。
「………ハァ…」
コウが盛大なため息を吐いた。
「まずは護りを固めることが先決ですね…巨大な蛸の足はひと振りで船を大破させると聞きます…ひと振りもこの船に下ろさせるわけにはまいりません…」
ヒナタが強い言葉でいうと隣のホヘトが大きく賛同し力説した。
「ですね!ここは一つオレの風の力でその蛸の脚を全てぶった切ってやろうじゃありませんか!」
「それにオレの天の力でアイツを内側から焼き尽くしてやりますよ。水属性にはオレの能力が一番効果的でしょうから」
コウが気を取り直してヒナタに笑顔を浮かべた。
「オレは…後ろから波を作って船を加速させればいいか?」
今まで静かに壁に寄りかかっていたネジが硬い口を開いた。
「そうだな、あとはトクマの舵取り次第ってことだ!」
ホヘトは力強く頷くとネジの頭を掴んで撫で回した。
「わっ、ちょっ!…やめてくださいよホヘトさん!」
「なぁに久しぶりに出来のいいお前を褒めてやりたくなったんだよ!」
がははと笑いながら尚もネジの髪をぐしゃぐしゃにかき回す光景をヒナタは笑顔で見ていた。
護ることに関して何のスキルもない自分に気落ちしていたヒナタだったが仲間を見ているとそれでいいのだと言われている気がする。
そんなヒナタの袖をくいっと小さなネジが引っ張り笑顔を見せた。
彼もまた自分を元気付けてくれているのだろう、ヒナタはネジへと微笑んだ。
束の間の穏やかな夜が更けていった。
翌日、豹変した海の様子に一同は驚きを隠せなかった。
海の墓場―――例えるならこの言葉しかない。
あたりは破壊された船の残骸が漂う死の海だった。生きているものなど居るはずもなく海鳥一ついない。生物は皆恐れをなしてこの海域には近寄らないのだ…
ここに近づくのは欲に駆られた人間と、哀れにも何も知らず人魚に引き寄せられた人間のみ。
その時ヒナタの眼帯の下の目が強く反応を示した。
ナニカガクル―――!!
ヒナタはすぐに理解した。これは警告なのだ。
「全員衝撃に備えて!来ます!!」
ヒナタは小さなネジを抱きしめると近くに伸びたロープを手繰り寄せ強く体を固定した。
「いいか!今は戦うことは考えるな!!まずはアイツを誘い込むことだけを考えるんだ。いいなっ!!」
ホヘトが声を張り上げて叫んだ。
静かだった海に地鳴りが響き水面に黒い影が見えた。
想像よりもその影は大きく、次第に水面を盛り上げてその正体を見せた。
過去に見た白長須鯨が可愛く見える…とトクマは思った。
真っ暗なその大蛸は巨大な目を船に向けた。
「………なんてでかさだ……こんなの初めてだぜ……こりゃ、一撃でもくらったらマジでヤバイな!」
あまりの巨大さに一瞬あっけにとられたトクマだったがすぐに気を取り直して舵を強く握った。
「総員戦闘開始だ!!ありったけの弾薬を放て!!アイツを船に近づかせるな!!」
コウが指示すると船の側面から砲台が現れ大蛸めがけて一気に発射された。
次々と発射された砲弾が的の大きな大蛸に当たり、流石にひるんだのか少しだけ距離を取った。
「よおし!今だネジ!!」
「了解!」
船尾に立ったネジは両手をかざすとその両手から水竜が現れた。その水竜が海へと放たれると沖合から巨大な波を作り上げ、船を後ろから押し流した。
「いい波だ!よしこのまま一気に突き放せ!」
ホヘトは船へと振り下ろされようとした大蛸の脚を風のカッターで切り落としながら叫んだ。
「……すごい……」
ヒナタは仲間の活躍に目を瞠り呟いた。そして自分も戦わねば……とヒナタは思った。
固定していたロープを外しヒナタはネジに語りかけた。
「これからちょっと揺れるかもしれないからネジくんは船室で大人しくいい子にしててくれるかな?」
ネジは小さな頭をふるふると横に振るとギュッとヒナタに抱きついた。
「おい、小僧、船長のいうことは絶対だといっただろう!大人しく船室に行けよ」
イライラと眉間に皺を寄せたネジが少年ネジを引き剥がしにかかった。
「や、やだっ!オレはヒナタ様と一緒がいいんだ!引っ込めおっさん!」
「お・・・・っさ?!」
「・・・ネ・・・ネジ兄さん・・・」
固まるネジに恐る恐るヒナタは声をかけるが・・・・
「こらネジ!!持ち場を離れるんじゃあない!追いつかれるだろーが!!」
後ろを見れば勢いが弱まった背後から大蛸が猛スーピードで迫っているのが見えた。
「なんだと……?!」
ネジは慌てて再び波を作り出した。
「どういうことですかあいつの脚!減ってないですよホヘトさん!!」
コウが雷撃を放ちながらもホヘトへと叫んだ。
「切っても切ってもまた生えてきやがるんだよ!!まさに海の悪魔だぜ!!こんな相手は初めてかもしれねぇな!!」
どこか楽しそうに見える彼は生粋の海賊なのだ。
それでもこんな状況のなか笑える仲間が頼もしい…ヒナタはそう思った。
「船長、何を――?!」
ネジの隣にヒナタが移動するとヒナタの腕から火蜥蜴が現れた。
「攻撃は最大の防御ともいいますからね」
ヒナタはネジに笑いかけると、小さく愛らしかった火蜥蜴は巨大な沙羅曼蛇へと姿を変えた。
「ごめんなさい!」
ヒナタがそう言うと沙羅曼蛇はヒナタの腕から離れ背後から追う大蛸に絡みつき炎で包んだ。
大蛸はもがき苦しみながら海へと沈んでいった。沈みながらもその炎は消える様子もなく尚、燃え続けていた。
一同が言葉を失う中、一番驚いていたのはヒナタ自身だった。
やはりこの海域には何かあるのだ……眼帯の下が今どうなっているのか…ヒナタは自分に畏れを抱いた。
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|DATE: 12/18/2012 00:00:00▲
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「や、やったのか……?」
ホヘトはもう黒い影が追ってこないのを見て戦闘態勢を解除した。
「いえ…まだです…倒せたなら厄災を火蜥蜴が連れて帰ってくるはずなのにあのコしか帰ってきませんから…」
「ってことはまだ生きてるってことか……とんでもない野郎だな」
ホヘトが思わず吐き捨てるように言った。
「今のうちに体制を整えよう、破損した箇所の修善を急げ!」
コウが冷静な指示を次々と部下に与えていく。
「我々はこのままマーメイド・ラグーンを目指しましょう!今なら大蛸の守りもない」
コウがヒナタへとそう提案する。ヒナタも士気の高まっている今がチャンスと捉えた。目の疼きもどんどん強くなっている、早く決着をつけなければと思い、肯定の言葉を言いかけたその時―――
バタっ
ヒナタの後ろで何か音がした。
見ると小さなネジが甲板に倒れ伏していた。
「ネジくん?!」
倒れたネジに駆け寄りヒナタが抱き起こした。
「なっ…どうしてこんなに?!」
さっきまで彼の体温は通常だった、むしろ彼の体は幼い少年だというのに体温が低い方だった。しかし、今は燃えるように熱くなっている。
「だ、大丈夫です船長…オレに構わないで……はやく人魚を…」
「何言ってるの!こんなひどい熱……!」
ヒナタはネジを抱き上げると船室へと連れて行った。
ありったけの氷を砕き氷嚢に詰めると、ネジの体温を下げるため次々と体に当てていく。
先ほどまでの騒ぎが嘘のように、再び海は穏やかさを取り戻していた。
男たちは船上で徐々に近づくマーメイド・ラグーンを見つめていた。
するとどこからともなく美しい女性の歌声が聴こえてきた。
「おい、聴こえたか?」
ホヘトが一同に尋ねると皆が頷いた。
「いよいよ真打のおでましってか?話では美しい人魚だって話だぜ」
トクマが口笛を吹いた。
「バカ!相手は厄災だぞ…気を抜くなトクマ!」
「はいはい、お前ってどうしてそんなに頭が固いのかねぇ……」
コウの小言に肩を竦めてトクマはヤレヤレとため息を吐いた。
「ネジ、お前はヒナタ様を呼んできてくれ」
ホヘトにそう言われ、ネジは頷くと船室へ向かった。
「船長ちょっと来てくださ……ヒナタ様っ!!!」
見ると、ヒナタが床に崩れ落ち、そして先程まで倒れていたはずのネジがヒナタに馬乗りになっていた。
そしてその手はヒナタの目を覆う眼帯へと伸ばされようとしていた。
「小僧!!ヒナタ様から離れろっ!!!」
ネジは腰につけた剣を引き抜くとネジへと振るった。
しかしその剣はネジに当たる前にキィンと音を立てて折れてしまった。
「なっ!?馬鹿な!?!?」
「落ち着いてくださいネジさん…オレは何もしていません…船長が突然倒れてしまって驚いているのはこっちの…」
「うるさい!大体お前さっきまで酷い熱だっただろう?!」
今度は短剣を引き抜くと再び少年ネジに切りつけた。
赤い鮮血が飛散する。
「やっ、やめてネジ兄さんっ!!この子は何も悪くないの…っ!!!」
少年をかばうヒナタがネジの剣を止めようと刃を手で握った。
「あ……ヒナタ様…オレは…」
ポタポタとヒナタの血が床に染み渡る。
それを見たネジが青ざめ、震える手から短剣が滑り落ちた。
「だ、大丈夫……このくらいの傷、すぐ治ってしまうのだから…ネジ兄さんは気にしないで…この子に当たらなくて良かった…ところで何かあって私を呼びに来たのでしょう?何かあったのですか?」
「今はいいから手当を……」
「だからもう大丈夫…」
「良くない!」
ネジは強く言うとヒナタの手を取り精製水で血を流し、驚いた。
ヒナタ傷は縫合が必要なほどだったはずなのに既に裂けた皮膚が治癒し始めていた
言葉を失うネジにヒナタが言う。
「ね…だからもう大丈夫……それにさっきから聴こえるこの歌声……近いんですね…彼女が…」
ヒナタはゆっくり起き上がり甲板へと出ようとすると後ろから声がかかった。
「ヒナタ様…あなた何かを隠していませんか…あなたに一体何がおきているんだ……何故何も言わない……あなたにとってオレたちは……オレはそんなに頼りになりませんか……」
「……ネジ兄さん?」
二人の様子をじっと黙ったまま少年ネジは見つめ、どこか苦そうな表情を浮かべた。
「おいネジ!いつまでかかっているんだ!?ヒナタ様こちらにっ!」
一向にヒナタが来ないためコウが改めて呼びにきていた。部屋を包む奇妙な空気に違和感を覚えるが今はそんなことを気にする場合ではない。
「ヒナタ様こちらへ!」
コウに呼ばれるままにヒナタは彼のあとについていった。
船室にはネジと小さなネジが残された。
「ネジさん……ヒナタ様の秘密知りたいですか?」
先に部屋をあとにしようとした小さなネジは試すような目を向けた。
「お前…本当に何者なんだ……敵ではないのか…?」
小さなネジはその言葉には答えず含んだ笑を浮かべると船室をあとにした。
「くそっ!お前が何者だろうとヒナタ様には指一本触れさせん!」

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|DATE: 12/19/2012 00:00:00▲
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ヒナタは甲板へ上がるとすぐに異変に気がついた。
静かな海原に美しい歌声が響き渡り、クルーたちはそれに魅せられたかのように微動だにしない。
見ればホヘトとトクマも我を忘れたかのように歌声の聴こえる方へと引き寄せられていた。
「これは…一体?!どうしたの…皆?!」
すると目の前にいたコウも皆と同じ方へと引き寄せられていくではないか。
「コウまで?ちょっと…皆で一箇所に集中したら危ない………」
コウを止めようと引きとめようとしたヒナタはすごい力で後ろに飛ばされた。
「きゃっ!!」
マストに叩きつけられる寸前のヒナタをネジが抱きとめた。
「あ……ありがとう、ネジ兄さん…」
「一体どうしたと言うんだ……みんな」
ヒナタを立たせたネジはあたりの異様な雰囲気を瞬時に感じとった。
「……多分この声のせいだと思う……ネジ兄さんはなんともないの?」
「……ああ…そうみたいだ……それより小僧はどこへ?」
「えっ?…」
言われてヒナタは慌ててあたりを見渡すが、今や甲板には多くのクルーがひしめき合い、小さなネジがどこにいるのか検討もつかなかった。
「まぁ…今は皆をどうにかしないといけないな…この声の出処を確認しよう」
「はい!」
「どけっ!」
ネジが声の聴こえる方へと群がるクルーを体で押しながら進むとようやく船首へとたどり着いた。
「あれが……!?」
「…ネジ兄さんっ」
思うように前へ出れないヒナタが声をかけるとネジはヒナタの腕を捕らえ引っ張り出した。
ネジの隣に立ったヒナタは言葉を失った。
「あれが人魚姫……?!」
呆然とするヒナタの隣でネジが絞り出すように言った。
岩場に腰掛け艶やかな長い藍色の髪を靡かせながら人魚が歌を歌っていた。
幻想的な絵だと思う。この人魚が恐ろしい人食いの化物と誰が思うだろう。
そしてその人魚の風貌はネジがよく知る人物に酷似していた。似ているとか言う次元ではない…。どう見ても同一人物だった。
「どう…して……」
思わずよろめいたヒナタがネジへと体を預けた。
驚いた――だが、なぜだか頭のどこかではわかっていた気がした。
あれは……あの人魚は―――ワタシ??
「これは悪い冗談か……?なぜアレはヒナタ様と同じ顔をしているんだ……」
ネジが人魚を見ながら言った。
人魚はこちらの方を見つめるとさらに歌い続けた。
すると、船首に集まったクルーが次々と海へと飛び込みはじめたのだった。
水しぶきの上がる音が響く。ドボン ドボン ドボン ドボン
次から次へと落ちていく仲間をネジとヒナタはなんとか抑えようとした。
「馬鹿っ!!目を覚ませお前たち!!喰い殺されたいのか!?」
必死に抑えるが、クルーたちのその常に無い瞳に二人は為す術がみつからなかった。
そうこうしているうちに人魚に異変が起き始めていた…。
絹のようにきめ細かい肌は硬いウロコで覆い尽くされ口は大きく裂けると、鋭い牙がサメのように生えてきたのだ。
ピキピキと見る見るうちに恐ろしい化物へと変貌した人魚だったモノは岩場から海面へと飛び込むと水しぶきを上げながら船の方へ近づいてきた。
「このままでは全滅するぞ!いくらオレ達が老いで死ぬことはなくても喰われたらそれで終わりだ!魂を箱につながれたまま死んだらもう輪廻の輪に戻れなくなる…!永遠にあの暗闇に囚われるんだぞ!」
「ホヘトさんっ、コウっ、トクマさんっ!!皆正気に戻って!!!」
ヒナタの必死な呼び掛けも届かず仲間たちの足は止まらない。
「どうしたら……っ」
ヒナタは迷いながらも考えた。
解決策もないままみすみす皆を死なせるわけにはいかない……とにかく今は皆を護らなければ。
ヒナタは決断すると船首から飛び降りた。
「なっ!!無茶をする!!」
それを見たネジが急いで力を使い水の柱を作るとヒナタはそこに着地した。
それからネジは次々と水面に水の柱を作り人魚とクルーたちとの間に水の壁を作り出した。
「長くはもたない!なんとか時間を稼いでくれ!!船長!!」
「はい!ありがとうネジ兄さん」
ヒナタは再び火蜥蜴を呼び出した。
「よしよし…いいコね……今日はもうちょっと力を貸してね」
ゴロゴロと喉を鳴らす火蜥蜴の喉をさするヒナタが優しく言うと火蜥蜴はこちらに向かう人魚へと視線を移し身構えた。
「さぁ…こっちよ!」
ヒナタが人魚へ大きく呼びかけると唸り声を上げながらヒナタ目掛けて勢いを上げた
それをネジは目視しながら、イライラと声を荒げた。
「まったくこっちはこんなに忙しいというのにあなたたちは何やってるんですか!!」
ネジは色んな鬱憤を腹に据えながらホヘト、コウ、トクマに近づくと遠慮なく右ストレートで頬を打ち抜いた。
鈍い音が甲板に響き渡たり、次いで倒れこむ音が3回。
「って――――っ」
「な、なんだ何が起こった!?!?」
「・・・・ネジ?一体何が・・・?」
口々に聞かれても一度に答えられるはずもなく
「いいからクルーを海から上げるのを手伝ってください!」
「え?あ、ああ…わかった…」
状況が飲み込めていないものの、船下の状況を見た彼らは慌ててネジの作った水の柱を使って次々と降りていった。
「やれやれ……しかし本当にアイツ一体どこに……?」
ネジは誰もいない甲板を振り返ると一人呟いた。
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|DATE: 12/20/2012 00:00:00▲
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「確かこの辺に沈んだはず…、アイツ相当弱っているはずだ……今なら…」
少年ネジは一人ボートでホワイトアイズを離れると、先ほど大蛸が沈んだ海域に来ていた。
静かに海面を見ていた少年ネジはすっと立ち上がると海へと飛び込みそのまま潜水していった。
一方ホワイトアイズでは
「これで全員か?!」
「ええ、そのはずです!!」
「まったくよけいな仕事増やしやがって!おまえ等当分夜の晩酌はないものと思えよー」
トクマは先ほどまでの自分の状態を棚に上げ偉そうに言うのをコウは無言で肘鉄を食らわせ続けて口を開いた。
「いいからお前たちは人魚の歌が聞こえないように耳栓でも積めておけ!」
「…耳栓でどうにかなるようなものでもないんじゃない?相手は厄災なんだし」
「しないよりはましだろう…そんな無駄口を叩く暇があったら舵をとれ!ヒナタ様とネジが時間を稼いでくれているうちに移動するぞ、いつまた大蛸が襲ってくるかわからないんだからな」
「はいはい、わかりましたよ」
やれやれと言った風にトクマが言うと船尾へと移動し舵をとる
「よーし!前進全速!といいたいところだが、ネジは今取り込み中だ!おまえ等助けてやったんだから死ぬ気でオールを漕げよー!!」
「はいっ!!!」
クルーたちがトクマの声に答え次々と下層へと降りていくと、側面から次々とオールがでて海中を漕ぎ始めた。
「よぉしいこうぜ!!!」
「ヒナタ様、ネジ!!ひとまず船へ!ここでは奴らの方が戦いなれている!当初の予定どおりマーメイド・ラグーンへ!」
「聞いたかヒナタ様!時間稼ぎはもう十分だ!先に戻って下さい!!」
「わかりました!よかった…みんな無事で…」
ヒナタが船のほうをみた一瞬の隙を人魚は見逃さなかった。
姿を海中へと隠した人魚はヒナタの進行方向へ周りこんでいた。
「…っ!!しまっ…」
「ヒナタっ!!!!」
人魚の動きをみていたネジがヒナタと人魚の間に飛び込む。
人魚の大きな牙がネジの喉笛めがけて迫る。ネジにはもう回避は不可能だった。
「ネジ兄さんっ!!」
ヒナタの必死の叫び声が響いた。
「・・・・・・・・」
しかし次に聞こえるはずの肉を噛み、引きちぎる不快な音は聞こえず、辺りは静まり返った。
ヒナタは思わず堅く閉じた目を開いた。
そして見た光景に驚いた。
「どうして…?」
ネジの喉仏ぎりぎりのところで人魚はぴたりと制止していた。
「なんだか知らないが…」
ネジはこの機会を見逃さず真下の水柱を一気に高く噴出させた。
「しっかり掴まっていろ!」
「は、はい!」
言われるままにヒナタはネジの背後から手を回してしがみついた。
我に返った人魚はグルルとうなり声をあげ上を見あげた。
甲板へと着地するとネジは水面に浮かぶ人魚をみた。
人魚もまたこちらをしばらくみていたがやがて海中へと消えていった。
「ひとまず諦めたようだな……」
「ネジ兄さん…さっきのは一体?」
「…さぁ…オレにもなにがなんだか…」
ネジは間近でみた人魚の瞳を思い出していた。
一瞬だったがあの制止した時のあの瞳の色・・・ネジは思案しながらヒナタの眼帯を見つめた。
「なに…?」
「い、いや何でもない…」
ネジは頭に浮かんだ考えをかき消すようにかぶりをふった。
そんなネジを不思議に思いつつもヒナタは小さなネジの姿が未だ見えないことに気がついた。
「コウ、ネジ君はどこに…?」
「さぁ…私は見ていませんが………」
「まさかさっきの混乱に巻き込まれたんじゃ…」
「いや、それはない、あの中にあいつはいなかった…」
ネジが落ち着いた声で言った。
「それに…あいつ…あいつは恐らく人ではない」
続くネジの言葉にヒナタは目を見開いた。
「なにを言っているのネジ兄さん…あんな幼い子にそんなひどいこと……」
「オレは別に…いじわるで言っているんじゃない……」
「お取り込み中悪いんだけどさぁ、ちょっとまずい感じだよ?なーんか聞こえない?」
緊張したネジとヒナタの間にトクマの間の抜けた声が響く。
「おいおいおい、ありゃあ…やっこさんもう元気になっちまったってのか?」
ホヘトは覗こうとした望遠鏡をポロリと床におとした。
「のんびりしている場合ではないな!ネジすまないがもう一度頼む!」
コウが声をかけるとネジはすでに船尾へと向かっていた。
「了解!」
「うそ・・・そんなのうそだよね・・・」
ヒナタは少し前に、哀しくも美しい人魚姫の物語を語った少年ネジの寂しそうな横顔を思い浮かべて一人呟いた。
ここにいない少年ネジの気配を遠くから迫る巨大な大蛸から感じながらもヒナタはうそ・・・・うそ・・・と繰り返した。
眼帯の下の目はさらに強く反響していくばかりだった。
逃げられるなら逃げ出したい・・・けれども運命という方舟からは降りられないのだ・・・ヒナタは間近に迫るマーメイド・ラグーンを見据えた。
後ろから迫る大蛸は長い足を船にのばすこともなく一定の距離を保ったまま船の後を追いかけてきた。
「なんだ・・・あいつ追ってくるだけで攻撃してこないな・・・いったいどうしたってんだ・・・」
エアカッターをいつでも放てるようにホヘトは身構えていたが、大蛸はさっきまでの獰猛さは微塵もなく、ただ一行の後を追いかけてくるだけだった。
「もしかして目的地が一緒なだけとか」
トクマが気楽そうに言う。
船尾からそれを見つめるネジはそれを特に不思議にも感じていなかった。
「おまえはいったいなにが望みだ・・・」
「あ?なんか言ったかネジ?」
船を進めながらも浅瀬の砂を能力でどかす最中、トクマが声をかけた。
「何でもないですよ…ほら気が散ってますよ、トクマさん。集中しないと座礁しますよ」
「わぁってるって!座礁なんてさせやしないさ、オレのかわいいホワイトアイズをなぁ!!」
「・・・あいつオレよりトクマの扱いが巧いんだよな・・・」
コウは俄然やる気にみちたトクマを見ながらネジに目をやった。
浅瀬の海をくぐり抜け、もうこれ以上進めないところまでホワイトアイズはマーメイド・ラグーンへと近づいた。
「これ以上は無理だ、進めない」
トクマがそう言うとヒナタは頷いた。
「ホワイトアイズはここに停泊、ボートでマーメイド・ラグーンへ上陸しましょう・・・」
ヒナタの声にクルーたちはボートの準備をし始めた。
「ラグーンへは私たちだけで・・・みなさん、船のことをどうかよろしくお願いします」
深々と頭を下げるヒナタの姿にクルー達は騒然となった。
「おら、デレてんじゃねーぞ!!おまえ等ー!!この船に少しでも傷付けたらオレが容赦しねーからな!」
「は、はいっ・・・! トクマさんっ!!!」
骨抜きになったクルーに檄が飛ぶ。
そんな様子を見てヒナタは小さく微笑む。
「では参りましょう!」
コウがヒナタへと呼びかけた。
「はい!」
ボートへ乗り込んだ5名は人魚の棲家であるマーメイド・ラグーンへと向かった。
そしてホワイトアイズ一行とほぼ同時に海底から珊瑚の壁に張り付きながら、海から大蛸がラグーンへと這い上がってきた。
見る見るうちに巨大なその大蛸は小さくなり成人男性の姿へと変体した。
「・・・よし・・・アレが目を覚まさないうちにすべて終わらせよう・・・」
男はそう言うとラグーンの中枢へと向かい歩きだした。
腰まである長い黒髪をなびかせた男、それはホワイトアイズ一員である日向ネジによく似た男だった。
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DATE: 12/21/2012 00:00:00▲
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マーメイド・ラグーンは中心へ向かうごとに深くなる海溝の様になっていた。
中心はどこまでも深く、到底ふつうの人間では行き着くことも叶わないだろう。
「噂じゃ、この一番奥底に伝説のクラーケンの至宝って言うのが眠っているらしいんだよ。名前はずっと前から聞いたことあったけど……まさか、こんなところにあったなんてな…」
トクマがザブザブと珊瑚でできた岩盤の上から底の見えない塩湖を覗き見ながら言った。
「おい、トクマ…ここは人魚の棲家だぞ、もうちょっと警戒しろ、引きずり込まれたらどうする。あとふざけた遊びは絶対にするなよ!」
トクマは今まさにそれを行おうとしていたので思わず口をとがらせた。
まったく長いつきあいのこの親友は頭が固くていけない。もっとざっくばらんに生きられないものかと思う。
「はいはい、わかりましたよ」
しぶしぶとトクマは浅瀬から戻ってきた。
「それにしても…静かだな。なんだか嫌~な予感がするぜ……」
ホヘトが辺りを見渡していると、静かな塩湖からチャプンと音が響いた。
「やっとお出ましか…って……」
しかし、その音は一つではなかった。
次から次ぎにチャプンチャプンと音が聞こえたかと思うと、水面から小さな顔がこちらをのぞいていた。
頭は堅い鱗で覆われ、鋭い牙を持ち鰭には明らかに有毒の針が飛び出ている。そして大きな赤い目がこちらをみていた。
それは水面から上がり始めると、岩盤の上をザブザブと歩きだした。その姿はまさしく半魚人であった。
「マジかよ」
トクマ、コウ、ホヘトはヒナタとネジが進んだ最奥へと続くと思われる洞窟の入り口を護るため身構えた。
「いいか、二人の向かった先へは一匹たりとも行かせるなよ!!」
「ええ、わかっていますとも!」
「…わかってるって…といいたいとこだけど正直オレ自信ないな、一番役に立てないんじゃない?」
「バカ!ここは巨大な珊瑚が隆起してできた岩盤だぞ!むしろおまえの独壇場だ!あとはおまえの気持ち次第だトクマ!」
「・・・なっ!オレの?!なるほどよーしわかった、オレに任せろ!」
コウの檄に乗ったトクマが地面に手を突くと、岩盤を割って鋭い槍状の珊瑚が無数に生えてきた。
「よし下手な鉄砲数打ちゃあたるスピア弾GOーーっ!!」
トクマの声で珊瑚の槍が半魚人めがけて発射され、半魚人達を次々と居抜いていった。
「……まぁいいけどな、効果あるみたいだし……しかしどうにかならんのかそのセンス……」
エアカッターを繰り出し半魚人を凪払いながらホヘトが呟いた。
「よーし、名前も最高、オレ最高!よしどんどん行くぜ!」
そんなトクマを嘲笑うかのように塩湖からは続々と半魚人が上がってきた。
「こりゃ…いい準備運動になりそうだな、トクマ」
コウが笑いながら目配せした。
一方、ヒナタとネジは
明らかに人工的に作られた階段の足元を火蜥蜴で照らしながら、ヒナタとネジは一歩一歩慎重に下へと降りていった。
長く続いた最後の一段を降りきると広い空間がふたりを迎えた。
最下層は膝下ほどまで海水が浸水しており、二人はできるだけ音を立てないよう奥へと進んでいった。
暗い階段とはうってかわり、洞窟の内壁には光ゴケがびっしりと生え、微弱な光を放っていた。
目が慣れてしまえばヒナタの火蜥蜴で辺りを照らさずとも済む明るさを得ることができた。
広場の天井はドーム状の透明な結界で覆われており、 そこから伸びる螺旋状のパイプが上の海溝へと伸び、塩湖へと繋がっているのが窺えた。
浸水していない小高い地盤の上には古びた長椅子やテーブルが無造作に置かれ、かつてここに何者かが住んでいたことを物語っていた。
そして、その中心には人一人ほどの大きな二枚貝が鎮座し、口を開いた貝はすでに命を終えていた。今も貝殻がサラサラと少しずつ砂へと風化しているのが見えた。
ネジとヒナタがあたりの様子を窺うと暗がりに人魚の姿があった。
変体したままの獣のような人魚はその水中へと下半身を沈めていた。
こちらの気配を感じていないはずはないが、人魚は微動だにせず、その瞳から涙を流しいていた。
「オレたちに気がつかないのか?一体何に気を取られているんだ…?」
「ネジ兄さん足元っ…!!」
みれば足下には無数の卵が地面を埋め尽くさんばかりに並んでいた。
「卵……こんなに……」
みれば卵がいくつか孵った後が見受けられた。
「…あの人魚は人を糧にし、自分の仲間を増やしている。そうなれば近隣の街は壊滅的な被害を受けるだろう…。これは一つ残らず処分しなければな…あなたの炎の力で…」
ネジが冷静かつもっとも正しい判断をヒナタに投げかけた。
「…でも…これから生まれる命に罪は……」
「なにを言っている、アレと同じものが増えていくのをあなたは黙ってみているのか?」
「わかってます…でも……」
「いいか……」
ネジが何か言いかけようとすると別の場所から声が聞こえてきた。
「気にしなくてもいい、その男の言うとおりアレは人を滅ぼすために創られた神の駒のなれの果て…魂のない骸。あなたが胸を痛める必要など皆無…すべてまやかしにすぎない」
「誰だ!?」
ネジがヒナタの前へと出て剣を抜いて構えた。
高台に無造作におかれたソファーから黒い陰が立ち上がり前へと進み出た。
「…ようこそ、クラーケンの巣へ」
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|DATE: 12/22/2012 00:00:00▲
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-
「…ようこそ、クラーケンの巣へ」
恭しく頭を下げた長身の男が長い髪をなびかせて顔を上げた。
「!!!」
ヒナタとネジはその顔をみて驚愕した。
クラーケンと名乗った青年はヒナタの前に立つ従兄ネジと瓜二つだった。
「あなたは誰……?なぜネジ兄さんと同じ姿に?」
「オレは古よりこの海に棲む黒き悪魔クラーケン…それからこの顔は元々のものです…彼を模しているわけではありません。ホワイトアイズ船長ヒナタ殿…」
「………」
なぜ名前を知っているのかと聞くまでもなかった。
今目の前でクラーケンと名乗った人物が、先ほど船を追ってきたクラーケンなのであれば、クラーケンに感じた気配が彼と同じものであるならば…
彼は短い間ではあるが行動を共にしたあの小さな少年と同一人物なのだ。
クラーケンは呆然とするヒナタを尻目に続けた。
「そして、あそこにいる人魚はかつてこの海の至宝の存在であった人魚姫の魂の欠片・・・まがい物。その空の魂の核に今はあなたがたが追っている魔物が宿っている」
クラーケンは産卵を終え水面に横たわる人魚を冷たい目で見て言った。
「まがい物…?お前だって箱から逃げた厄災の一つだろう」
黙っていたネジが口を開いた。
「正しくは違うな…オレは厄災ではない。だが体を取られたことは事実、おかげであんな小さな姿になってしまったが……今は君たちのおかげでこうして体を取り戻すことができた。感謝している」
「あなたの望みは一体?」
ヒナタは思わず問いかけていた。
「アレを封印し、オレのなかで抑えている魔を封印するのはあなたがたの使命、オレの望みではない。オレが望むのはあなたの眼帯の下のものだ」
「……え?」
思わずヒナタは眼帯を抑えた。
「あなたが異変を感じているソレは本来あなた自身のものではない…それを本来あるべき姿に戻したい。それがオレの望み――
クラーケンが言い終えぬうちにネジがクラーケンへと斬りかかった。
「やはりお前は彼女に害を与える存在だったか!!お前の望みなど知ったことか!!!今すぐ封印してやる!!!!」
目に見えぬ速度で斬りかかるネジの剣をクラーケンは軽々とかわしていく。
「落ち着け青年、なにも彼女を傷つけようとしているわけではない……熱くなるな…」
余裕すら感じさせるクラーケンにネジは水のエレメント能力で水を集め弾丸のように打ち出した。
それはクラーケンに当たる直前に跳ね返されて細かい雫と化した。
「オレの力はこの海そのもの…お前の力ではオレは倒せない…」
クラーケンは体から蛸の脚を生やしネジを拘束した。
「やめてっ!!」
思わずヒナタがクラーケンへと叫んだ。
その声に人魚が体を起こし唸り声を上げた。
「心配せずとも殺しはしない…それよりあなたの声でアレがこちらに気がついたようだ。話は後にして今はアレを倒すのが先でしょう」
クラーケンは脚を戻しネジを開放した。
「貴様っ!!」
「話はあとだ、来るぞ!」
人魚の声が広場に轟くと水中に眠る卵が次々と孵化を始めた。
そしてそれはみるみるうちに大きくなり地上でホヘトたちが対峙している半魚人と同じ姿となった。
そして彼らと同じように脚を持った半魚人へと変体した人魚がこちらを見て目を細め、地獄のそこから響いているかのような轟音を響かせた。
その声に答えるように小さな半魚人たちが総員でヒナタたちへと向かってきた。
「……船長!遠慮は無用、わかっているな!!」
水を集め始めたネジがヒナタに強く語りかけた。
「………はい!」
ヒナタはそう答えると腕に絡んだ火蜥蜴もまたそれに答えるように火を吐いた。
「………」
その二人の掛け合いをクラーケンは静かに呪文を唱えながら見つめた。
「ここはあの人の場所…お前たちになど穢されてたまるか……」
詠唱を終えたクラーケンを中心に放射状に放たれ光の鎖が飛びかかってきた半魚人たちを拘束する。
「いまだ!」
ヒナタはその声に答え火蜥蜴を開放すると火蜥蜴が沙羅曼蛇へと変化し拘束された半魚人を次々とその巨大な口へと飲み込んでいった。
巨大なクラーケンすら炎で包んだその熱量は小さな半魚人たちを一瞬にして灰へと燃やし尽くした。
その強大な力にネジがヒナタを見るとヒナタは泣いていた。眼帯をしている方の目から涙を流していた。
「……ヒナタ様…?」
ネジに生まれた隙をついて別の半魚人がネジへ飛びかかるってきた。
思わず舌打ちして構えたネジの背後からクラーケンの鎖が伸びた。
「足でまといになるのだけはやめて欲しいものだな…」
拘束された半魚人を切りつけながらネジが言い返す。
「憎まれ口はそのままのようだな…」
人魚が激昂し3人に向かって驀進すると、残在の半魚人たちも同時に向かって来た。
「ネジ兄さん!クラーケンさんを守って!」
「……!!」
ヒナタの呼びかけにネジは瞬時に理解しクラーケンを自分に引き寄せ幾重にも水の結界を張った。
「これだけでは持たなそうにないな……少しのやけどは我慢しろよ」
ここに来てからのヒナタの能力の驚異的な伸びを見てきたネジがクラーケンに言う。
「君も冗談をいうことがあるんだな……しかしオレは焼かれるのが好きではない。よってすこし君に協力しよう」
クラーケンがそういうとゼリー状の膜が内側から溢れてネジの水の結界に練りこまれていった。
「船長、一撃で決めろ!!」
そのネジの呼びかけにヒナタは強く頷いた。
沙羅曼蛇は更に細長い龍から翼竜へ姿を変えるとその背にヒナタを乗せた。翼竜は天井間際まで上昇すると下に向けて炎の息を照射した。
海面は干上がり卵は全て灰も残らず消し去られ半魚人も塵になった。
そして巨大な半魚人へと変体していた人魚も燃やし尽くされた。
結界の中、ネジとクラーケンはその様を言葉を発することもなく見つめていた。
燃え盛る炎の中、人魚はネジ達のいる結界に届くはずもない手を伸ばしていた。
「………」
その姿にネジは思わず涙をこぼした。
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|DATE: 12/23/2012 00:00:00▲
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炎は徐々に収まっていった。あたりは水が蒸発する水蒸気さえなくカラカラに乾いていた。
翼竜は小さな火蜥蜴の姿に戻ると完全に動きを止めた人魚へと近づき、魂の宝珠に潜む厄災に牙をかけ引きずり出し飲み込んだ。
そして再びヒナタの腕へと戻っていった。
「よしよし…いい子ね」ヒナタが腕に絡んだ火蜥蜴をひと撫ですると、火蜥蜴が口から結晶と化した厄災をヒナタの手に出した。
血のように赤く禍々しい色をしたそれをヒナタは懐にしまった。
獰猛な半魚人へと変化していたそれは再び小さな人魚の姿へと変貌した。
水のない床に息も絶え絶えの人魚が転がっていた。
やけどだらけのその体はもう幾ばくと持ちそうにない。
ネジは静かに跪くと、そっと人魚を抱き起こし天井の向こう側から水を呼び寄せ人魚を水の膜で包んだ。
膜の向こう側から少し安堵したように人魚は笑った。そしてネジの向こう側に立つクラーケンへと視線を移した。
しかしクラーケンはそれ以上歩み寄ることはなかった。
水の膜の向こう側から手を伸ばし何事か語りかけた後人魚は事切れた。
そして水の膜が弾けた。目を閉じた人魚の頬に水が涙のように流れ落ちた。
伸ばしていた腕は今や重力でだらりと垂れていた。
人魚を抱き上げたネジがクラーケンに怒りの表情をあらわにした。
「なぜ…なぜ応えなかった…!!なぜ名前も呼んでやらない!!」
激昂するネジに対しクラーケンは静かに答えた。
「……なぜならそれは擬い物だからだ……本当の彼女はソレではない…姿かたちは彼女でも…魂は虚ろだ…」
クラーケンはヒナタへと近づき眼帯の上から目をそっと抑えた。
「本当の彼女はここにいる……」
「……それは違うわ、ネジ兄様……」
クラーケンを【ネジ】と呼んだヒナタがその眼帯を外した。
「……?!ヒナタ様……?」
ヒナタの変化にネジは驚愕した。
ヒナタの幼い頃から異質だった瞳はいまではネジが腕に抱いた人魚の瞳と同じ色に変色していた。
そしてヒナタの目から光が放たれ、外へと出たソレはやがて一人の女性の姿へと形作られていった。
光が出て行くとヒナタはその場に崩れ落ちた。
「ヒナタっ!」
ネジはそっと人魚を床へと寝かせると、急いでヒナタに駆け寄った。
「うっ……」
うめき声を上げてヒナタはネジに支えられながら立ち上がった。
「あれは……」
光が消えていくとそこには白いマーメイドドレスに身を包んだ女性が立っていた。
「ヒナタ姫……」
クラーケンはその女性をそう呼んだ。
「………」
ヒナタ姫と呼ばれた女性が悲しげにクラーケンを見つめ返した。
「……一体どうなってるの…?あれは…あの人は…」
ヒナタよりも女性らしく、憂いと儚さを帯びた女性は人魚と同じ顔、ホワイトアイズ船長ヒナタと同じ顔をしていた。
「船長にお話したのは、今ここにいる彼女のことですよ」
混乱するヒナタにクラーケンが短く説明した。
「……じゃあこの人が…人魚姫……でも足が?」
たしか話で聞いたヒナタ姫は人魚だったはず…しかしいま目の前にいる女性は二本の脚を持つ人間だった。
ヒナタがつぶやくように言うと人魚姫が頷いた。
「はい…私は人魚姫ではありません……」
その言葉にクラーケンが目を瞠った。
「なっ?!…あなたは何を言っているんだ…」
「ネジ兄様……私は自分の欲望のために同胞を捨て、海の国を滅ぼしかけた罪人……そんな私に海洋神様は罰をお与えになり…肉体を持たない海流としてこの世にお繋ぎになりました…今は残留思念によってこの姿を維持しています…魂の無いまやかしは私の方なのです…」
「そんな馬鹿なこと…」
クラーケンは言葉を失いながらも搾り出すように答えた。
「そんな果てしない時のなか、自我を失いかけていた私はこの娘を見つけました」
ヒナタ姫はそういうとヒナタを見つめた。
「えっ……」
「あなたは覚えていないでしょう…まだ幼い子供でしたから…。海に落ちたあなたを助けた時、あなたの未来にこの場所を見たのです…あなたの背負う未来とともに…」
「あなたが私を…?そういえば…幼い頃嵐に投げだされた私は奇跡的にも助かったと聞いたことがありますが…」
思わずヒナタがネジを見るとネジはヒナタにそっと頷いて見せた。
「ネジ兄様……あなたが魂を分けたあの小さな人魚が本物の人魚姫…。私は本来の形を捨て人となり神から罪を与えられた罪人です」
「嘘だ……アレはオレの作ったまやかし…本当のあなたは今ここにいるあなただ!」
思わずその体を掴まえようとしたクラーケンのその手はそのまま空を突き抜けた。
「……ねっ?私はあなたの知る人魚姫ではないのです…彼女こそがこの海の白い真珠なのです。不完全な核によって生まれた彼女は言葉を持たず、何一つあなたに伝えることができなかった…それが不幸の始まり…」
「……っ!?」
死の間際、自分に向けて手を伸ばし何事か囁いたあの光景がクラーケンの頭に蘇った。
クラーケンはフラフラと床の上に横たわる人魚の傍に膝をついた。
力のない手をそっと包んで持ち上げた。
「……」
固く目を閉じた人魚の頬に新たな涙が生まれる。
ポタポタと頬を伝う涙が乾いた床へと広がっていった。
ヒナタもネジもクラーケンへかける言葉を見つけられず、ただ見守ることしかできないでいた。
悲しみにくれるクラーケンは絶望の淵に突き落とされ、深い悲しみの最奥へと引きずり込まれた。
愛する人を手にかけた事への怒りが自己の消滅を願った。
その強すぎる想いが彼の中で封じられていた厄災を目覚めさせた。
「だめです!!飲み込まれては!!!」
「クラーケンさん!?」
「お前っ!!」
3人の呼びかけも届かず倒れる人魚を抱き上げたクラーケンは真っ黒な闇に包まれていった。
「あいつ……どこへ消えたんだ…?!」
ゴゴゴゴという地響きが聞こえ天井の結界に亀裂が生じると結界は一気に消え失せ、一気に海水が落ちてきた。
このでは水圧に潰されてしまう。
「!!!!!」
ネジがヒナタを引き寄せ結界の準備をしようとすると。
「あなたがたは私が守ります!」
ネジとヒナタを今は海流であるヒナタ姫が姿を変えふたりを強い水圧から守りながら海溝を上ると塩湖から噴出した。
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|DATE: 12/24/2012 00:00:00▲
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「なんか…下からすごい地響きがするんすけど……」
敵を一掃した後、地下から地鳴りがするのをトクマは感じた。
それを聞きコウは地面に耳を当てた。確かに地鳴りのように聞こえる。
「ヒナタ様が心配だ、俺たちも下へ行った方が…どうやらここも落ち着いたようだし」
常に冷静なコウがヒナタを心配して慌て始めた。
「…まぁ…二人が下へ降りてからなにも音沙汰がないしな…」
「よっしゃ!行ってみよ…」
トクマが立ち上がろうとしたとき
大きな地鳴り音とともに塩湖の底から海水が噴出したのだった。
そしてその水が切れるとヒナタとネジが宙に浮いているのが見えた。
「なっ?!なんでまたあんなところから!!!!」
落下を始めた二人に慌ててホヘトが上昇気流を二人の落下地点へと送り込んだ。
二人は風の力でゆっくりと着地した。
「ヒナタ様ご無事ですか!!!」
コウが全力疾走で駆けつけヒナタの安否を気遣った。
「……え、ええ……私は大丈夫…」
コウを安心させようとヒナタは無理に笑顔を浮かべた。
「……?ヒナタ様…一体…」
その変化に気がついたコウが訪ねようとすると
「いけない!みなさんここをすぐに離れてください!!!!」
二人が落ちてきた空の上からもう一人そこに降り立つと言い放った。
その姿を見たホヘト、コウ、トクマが止まる。
「なっ、なんだっ?!ヒナタ様がもうひとり?!」
「こ、これはいったい!?」
「いや、こっちのヒナタ様の方がグラマーかなぁー」
最後の言葉を言ったものにはすぐさまネジのパンチが飛んできた。
「いいから彼女の言うことを聞いてください!ここから離れないと!!」
「一体なにが起こっているんですか?!」
ヒナタはヒナタ姫に尋ねた。
「ネジ兄様の体に抑えられていた厄災が彼の心の闇を増幅させて辺り一体を飲み込もうとしています!!どこまで大きくなるのか……急いでここを離れないと!」
「心の闇…」
内部の海水がほとんど全て出てしまい、むき出しの谷になってしまった海溝へと目をやると地下から暗闇が広がっているのが見えた。
クラーケンの悲しみがこの地を飲み込み、全てを闇に沈めようとしている。
それほどまでに愛していたのだ………彼の深くて大きな愛を感じてヒナタは心を痛めた。
彼が話してくれた昔々の御伽噺………。
いつか目覚めるのを信じ一人で暗い海の底でただ待ち続けた人……二度も愛する人を失った彼の悲しみは計り知れない…
「逃げてばかりではなにも変わらないわ……」
「…ヒナタさん?」
ヒナタが強い言葉でヒナタ姫に語りかけた。
「彼は深い悲しみの底で震えている…小さな子供のように……彼を連れ戻さないと!!」
そう言うとヒナタはたった今上がってきたばかりの海溝の谷へと飛び降りた。
「……あのバカ!!!」
ネジは思わず悪態をつくとヒナタの後を追って飛び降りた。
「えっ!?あの二人なにしてんの?!なにやってんの!?!?馬鹿だろ?!大馬鹿だろっ!!!!」
「いいから俺たちも行くぞ!コウ、そのバカも引っ張ってこいよ!」
そういうとホヘトがネジに続いて飛び降りた。
「ほら行くぞ、トクマ!」
「さらばオレのセカンドライフ~~~!!」
コウがトクマの腕を掴むとそのまま勢いをつけて飛び降りた。
残されたヒナタ姫はふわりと微笑むと空中に掻き消えた。
闇の中へと飛び降りるとそこはなにも見えずただ暗闇が広がるばかりだった。
着地したのかも、空に浮いているのかも実感が無い曖昧な世界だった。
この広い世界にただひとり……そんな孤独を感じた。
ヒナタはあてもなく暗闇を歩いた。すると視線の先に何か光が小さく見えた。
心細さにヒナタは思わず駆け出していた。
どんどん光が近づいて来る。ヒナタは息を切らせながらも走り続けた。
すると小さな部屋へたどり着いた。小さな白い部屋の外はなにもない。ただ暗闇が広がるだけだ。
そしてその部屋にポツンと少年の姿が見えた。その少年は人形を大事そうに抱えていた。
その少年はヒナタのよく知る少年、ネジだった。
「ネジ君…」
ヒナタが声をかけると少年はびくりと体を震わせた。立ち上がり慌てて物陰に隠れようとする。
「まって!私よ、ネジ君!怖がらないで」
ヒナタはネジを安心させようと身をかがめてネジに視線を合わせた。
「……誰?…僕からこのコを奪い取りにきたの…?」
そういうと抱えた人形を更に強くかき抱いた。
「そんなこと…大丈夫安心して、私はあなたを助けにきたのよ…こんな怖いところは嫌でしょう?さぁ私と一緒にここをでましょう?」
ヒナタはネジへと手を差し出した。
「ううん……ここからは出られないよ…だってこのコはここでしか生きられないんだから…だからおねぇちゃんもここで僕たちと一緒にいればいいよ。ずっとここに…」
「えっ…?」
「そうすればこのコも寂しくないから…」
そう言ってネジが顔を上げるとヒナタは驚愕の声を上げた。
「あなた……ネジくんじゃない…!!!」
ネジと思った少年の目は暗闇につながっているかのように仄暗い色をしていた。
この外に広がる暗闇そのものだと思った。
瞬時に間合いを取ろうとしたヒナタの脚に少年から伸びた触手がヒナタを捉えた。
「もう遅い…ここに自ら飛び込んだお前が愚かなのだ…ここにはもうあの男は存在しない…あの男は自分すら無に還そうと望んだのだ…おかげでオレは自由になれた……この魔力に満ちた肉体は素晴らしい……くくくっ…」
ギリギリと巻き付いた触手がヒナタの体を軋ませていく。
「ぐっ……そんなこと……っないっ!!!彼は強い人だもの……あなたなんかに負けるはずない……!!!」
ヒナタは片手をなんとか前へ向けると火蜥蜴を呼び出した。
「甘いな!」
新たな蝕手が今度は火蜥蜴に巻き付いた
キィィィィーーと声を上げた火蜥蜴がそのまま強く握り潰されて煙を上げて消えた。
「そんな?!私の力が……」
「お前の力は先の戦いで得た情報から無効化が完了している、オレは本来破壊者として創られだが…この男の力を得て新たに虚空の力を得た……全て無に還すことができる偉大な力…オレは最強の存在に生まれ変わったのだ」
「そんな膨大な力…あなたになど扱えないわっ!!」
「ならば試してやる……この辺一体の国を闇へと葬り去ってやろう…お前に見せられなくて残念だがな…!」
厄災は蝕手でヒナタの首をへし折ろうと力を込めた、すると次の瞬間宙に浮いていたヒナタは床に落ち蝕手はその体から切り離されていた。
「ふぅ……まったくおしゃべり好きのあったま悪い厄災で助かったぜ!」
「ホ…へトさん…」
倒れたヒナタをコウがその隙をついてヒナタを厄災から引き離した。
「まったくだ……子供の姿で油断させてヒナタ様を騙すなど許さん!!」
「子供だからって容赦しないけどな!」
トクマがあっかんべーをしながら付け加えた。
「みんな……来てくれたの…??」
周りを見渡せばいつも一緒にいてくれる仲間の姿が見えた。
先程まで感じていた孤独感はヒナタの中から消えた。
「当たり前だ!全く後先考えずに飛び込んだり…無茶なことをするのはもうやめろ!!!」
突然雷のような声が頭上に響く。見上げるとネジが怒りの形相でヒナタを上から睨みつけていた。
「ごっ、ごめんなさい……っ」
その顔に思わずひぃっと声を上げ、身を縮めさせ、固く目を閉じた。
すると次の瞬間ふわっとした感触を感じた。
ヒナタの片目にいつもの眼帯が当てられしっかりと結ばれた。
結ぶために近づいていたネジと目が合うとネジが慌てて体を離した。
「上に落ちていたのでな……」
少しだけ頬を染めたネジがなんだか幼く見えてヒナタは思わず微笑んだ。
「ありがとう…」
少しだけ気分が落ち着いたが、状況は好転したとは言えない… この厄災の能力……一度でもその身で受けた力はもう通じない。
つまり、たった今、力を使ったホヘトの能力はもう無効化されるはず…。
距離をとって何か打開策を打ち出さないとこのままでは全滅………。
そんなわけにはいかない……
思考を巡らせるヒナタにどこからか声が聞こえた
―――こっちよ―――
「えっ??……」
「どうかしましたかヒナタ様?」
「誰かの声が聞こえたような―――」
そして先程よりも大きな声が再び聞こえた
―――こちらへ――早く――!!
「みんな今はなにも言わずに私についてきて!!」
ストンとコウの腕から降りるとヒナタは呼び声のする方へと駆け出した。
「なんだかわからないが野郎ども船長に続け―――!!!」
「はいっ!!!」
ヒナタに続き先陣を切ったホヘトに続いてコウ、トクマ、ネジが厄災から遠ざかるように走り去った。
「ふん…逃げたか?……いいだろう、せいぜい足掻くがいい…どうせここからは出られんのだからな……」
少年がすうっと床へ吸い込まれるよう消えると、白い部屋も暗闇に圧縮されて消えていった。
闇の玉はどんどん大きくなりマーメイド・ラグーンを全て覆い尽くし、更に拡大を始めていた。
離れた沖合いで彼らの帰投を待つクルーたちはその異様な光景に固唾を飲みながら見つめていた。
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|DATE: 12/25/2012 00:00:00▲
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ヒナタが呼びかける方へと走ると再び光が見えてきた。
また罠なのか…それとも……
しかし今はその声のする方へと行くしかなかった。
進んで行くと蒼く輝く波打つ結界が目の前に現れ、ヒナタ達はその中へと進んだ。恐れはない、むしろ安堵する…そう思った。
「あれは……クラーケンさん?」
蒼い結界の中には光の玉に包まれた幼いクラーケンが胎児が母胎に包まれているかのような姿で眠っていた。
「眠っているのか…?」
ネジもその玉へと近づきクラーケンを確認した。
【彼は今全てを拒絶し自らの消滅を願っています…】
「また?あなたは誰なの?!」
「どうしたんだ、船長?!」
ホヘトは見えない何かと話している様子のヒナタの肩を掴んだ。
「えっ?」
振り返ればコウ、トクマも不思議そうに自分を見つめていた。
「みんなには聞こえないの…?」
すると蒼い結界の中から人が現れた。しかしその下半身は人ではなかった。
【私は声を持たない人魚…今はあなたの魂に直接語りかけています…同じ波長を持つあなたにしか聞こえません…】
「またヒナタさまと同じ顔の…いったいどうなっているんだ?」
コウが現れた人魚を見て驚きの声を上げた。
「まぁ…この世には似た顔が三人はいるって言うしな…」
トクマが人魚とヒナタを見比べながらぼんやりと呟いた。
「いや似てるというか…どうみても同一人物だろ」
ホヘトもまた呆然とふたりを見比べながら言った。
「彼女が伝説に残る人魚姫です…」
ネジがクラーケンから離れ、人魚の方へと歩きながら説明した。
「生きていたのか?」
そのネジの問いかけに人魚はコクリと頷いた。
【果てた肉体は厄災に取り込まれたことで命を繋がれました…。今はクラーケン様が消えてしまわぬように厄災から守っています…】
その言葉をヒナタは皆に伝えた。
【厄災の力はもうお分かりですね……同じ力は二度と通用しない…一度でアレを滅ぼさなければいけません…】
「でも…どうやって……」
【あなたがたの力を一点に集結させるのです…5つの要素を一つに…それに私と彼の力を加えれば…】
「要素を一つに…?でもクラーケンさんは…?どうやって彼から力を借りたらいいのか…」
【それはネジさんになら可能です…】
「ネジ兄さんが?」
しばし二人のやり取りを静かに見ていた一同がネジを見た。
【彼もまた同じ魂の波長を持つ人…このままではクラーケン様は闇に呑まれてしまいます…一番安全なのはネジさんの中…】
「ネジ兄さんの中に移すというのですか…それに危険はないのですか…?…もしそれがネジ兄さんの命の危険を伴うというなら…私には到底受け入られま…」
「いいだろう」
ヒナタが言い終えぬうちにネジが簡潔に答えた。
「ネジ兄さん?」
「大凡のことはわかった。それしか方法がないのであれば試してみるしかない。オレたちはここで死ぬわけにはいかないのだから」
「なんだか知らないがネジは強い男だ!なぁに心配はいりませんよ!こいつは殺しても死なないタイプだからな!」
ホヘトがそういうと豪快に笑いながらネジの髪をかき回した。
「ちょっ、また!やめてくださいよっ」
「いいじゃねぇか!お前はオレのガキ同然なんだからな!」
抵抗していたネジがそれを聞いて大人しくなる。
「………ふん……ホヘトさんも年をとったということか…仕方ないな…全く」
「……コウ、トクマ…あなたたちも協力してくれますか?」
「なに言ってるんですヒナタ様!」「聞くまでもないよな―――っ!」
コウ、トクマもまた笑顔でそう答えた。
「―――ありがとう。今回は少しばかり時間がかかりすぎました。皆も心配していることでしょう!帰りましょう、みんなのところへ!」
ヒナタの力に満ちたその声に一同は強く答えた。
【………あなたが羨ましいです】
寂しそうに笑う人魚にヒナタがそれに答えた。
「あなたにもいるじゃありませんか……」
ヒナタのその言葉に人魚はクラーケンを見ると頷いた。どこか陰りのあるその顔にヒナタは小首を傾げた。
【では彼の魂をネジさんへ……】
人魚が光の玉に触れるとそれはどんどん小さく圧縮され、ちいさな黒い真珠となった。
それを手に人魚はネジの上着をはだけるとその胸へと近づけた。
すると黒い真珠はネジの体に吸い寄せられるかのようにひとりでにネジの体へとはいっていった。
「ぐっ……」
小さいが質量の高いそれを受け入れるのはネジに大きな負担を与え、ネジはそれに必死に耐えた。
固く歯を食いしばり体からはじっとりとした汗が溢れた。
「だ、大丈夫?!ネジ兄さんっ」
思わずヒナタが駆け寄ろうとするのをネジは手で制し、ヒナタの足が止まる。
「心配いらない…」
【……ありがとう…彼を受け入れてくれて……】
「オレは……別に嫌いじゃなかった……可愛げなんか微塵もなかったがな…」
【…聞こえるのですか?私の声…】
「最初からな…」
目を瞠った人魚にネジがそれだけ答えるとグラリと大きく揺れた。
「ネジ兄さん!?」
今度こそヒナタはネジへと駆け寄ると倒れるネジを受け止めた。
そして結界の向こう側から暗い気配が迫りビリビリとした威圧感がこちらへと迫ってくるのを一同は気づいた。
「やっこさん気がついたみたいだな…」
ホヘトが結界の波が荒れ狂うのを見ながら笑った。
「自分の危機を察知したのでしょう…そう馬鹿でもなさそうだ」
コウもホヘトに笑いながら言い返した。
「人魚姫ちゃん、オレたちはどうしたらいいんだ?」
トクマがホヘトとコウに並びながら問うた。
[皆さんの持ちうる限りの力をヒナタさんへ・・・・チャンスは一度です・・・]
人魚姫の言葉をヒナタが伝えると一同に緊張が走った。
「心配は無用です、これで決められなければ最後・・・迷わずに私を信じてください・・・」
ヒナタはホヘト、コウ、トクマの手をとって重ねると最後にもう一つ手のひらが加わった。
「お人好しで甘ちゃんでおせっかいな人だが、それでもこの人はオレたちの船長・・・信じるさ」
「ネジ兄さん!」
意識を取り戻したネジがいつもの彼らしい笑顔を見せた。
「おいおいおい、ネジにおいしいとこもってかれちまったな~~~まぁ、いいか!」
トクマがぼやきながらもう一歩の手を重ねた。
「よし!ヒナタ様にすべて預けろ!いいか全部だぞ!!人魚のお姉ちゃんもだ!!」
ホヘトが4人に檄を飛ばした。
「了解!!!すべての力をヒナタさまへ!!」
円陣を組んだ場所にすべてのエネルギーが集い暗闇を切り裂くかのような光が奔った。
それと同時に蒼の決壊は外からの衝撃派によって破壊されあたりに飛び散った。
「おのれ、死にぞこないの人魚ごときが邪魔をっ!!!」
クラーケンの姿をした厄災は巨大な重力球を創りだしヒナタ達に、向けて放った。
「やばいぞ!!!」
「だめだ!まだすべてヒナタ様に預けていない!!」
騒音が響き渡り、辺りは濃霧で満ち、視界が遮られた。
「やったか……」
厄災は目を細めじっと奥を見つめた。そしてようやく霧が晴ていくと、彼は顔を歪ませた。
「なんだと………」
厄災の放った重力球はドレスをまとった女性が受け止めていた。
「あなたは………!!!」
ヒナタが現れた人物を見て声を上げた。
「よかった…間に合って、さぁ、今のうちに早く!!」
「よし、おまえたち、あのグラマーな姉ちゃんが押さえてくれている間に急げよ!」
「わかってるよ!」
「あなた体が……?!」
ヒナタ姫の体はすでに下半身がきえかかりその存在が危ぶまれているのだと分かった。
「……わたしはもう個を持たない存在…姿が消えても私は再び海流へと帰属するだけ…あなたが気にすることはありません…」
「でも…」
動揺するヒナタをよそに姫は人魚へと向くと語りかけた。
「人魚姫…あなたにこれをお渡しします……」
ヒナタ姫の手から七色の光の玉が差し出されるとそれは人魚姫の喉へと入っていった。人魚姫の冷たく凍えていた喉は次第に暖かく柔らかくなっていった。
「あっ…わ…たし…声が…」
人魚姫は思わずヒナタ姫をみた。
「…あなたの声を…?」
ヒナタ姫はなにも言わずただ頷いた。
そして、最後にネジをみると唇だけ動かし何かを伝えるとヒナタ姫は完全に消滅した。
ネジは空中に溶けるように消えたヒナタ姫へと呟いた。
「ヒナタ姫・・・あなたは嘘つきだ・・・」

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|DATE: 12/26/2012 00:00:00▲
- [ 本文 ]
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「よし!いいぞ!!全て船長に送った!もうなんも出ないぞオレは!」
ホヘトがそう言い手を離すと後ろへと倒れ込んだ。
「僕もです…」「オレも~~っ」
コウも膝を付き、トクマもがっくりとうなだれた。
「……オレとコイツの力も…全てあなたに送った!」
「わたくしも…です」
ネジと人魚姫もまた力尽きた。
「……ありがとう皆の力お借りします…」
ヒナタは一人厄災の前へと躍り出る。
「なんだ……お前一人でなにができるというのだ……」
「私は一人ではありません!……あなたを封印します!エルピスよ、私に箱を!!」
ヒナタが天高く手を掲げるとホワイトアイズにあるはずのパンドラの箱が空間を超えてヒナタの手に収まった。
それを見て厄災は思わず後ずさった。
ヒナタは先ほど人魚から取り除いた厄災の結晶を取り出すと箱へと収めた。
「さぁ、お還りなさい……ここがあなたのいるべき場所なのだから…できれば自分から戻って欲しいのだけど…」
「ほざけ!!小娘が…たかが人の子が少し力を持つからとつけあがるな!!!」
厄災は既にクラーケンのかたちをも形成せず、己の形を忘れてヒナタへと向かってきた。
「………平静さを欠いたあなたの負けです!皆から託された力を今ひとつに!!」
ヒナタを中心に火、水、風、土、天、闇、光の7つの要素のシンボルが輝き一つに混ざり合った。
そしてそれは小さな一本のダガーとなった。刀身が七色に輝く美しいダガーひと振り。
自ら持ち主を選ぶかのようにそれは小さなヒナタの手のひらにしっくりと収まった。
それを見た厄災は愉快そうに声を上げた。
「なんだそれは……っ!!そんなものでオレと戦うなど愚かな!!自分の愚かさを闇の中で嘆くがいいっ!!!」
ヒナタを粉砕する勢いで厄災が激突した。
「ヒナタ様っ!!!」
見守っていた3人が思わず駆け寄ろうとするがいつの間に結界が張られたのか3人は弾き返されてしまった。
「なんだ!これは…!!」
ネジが結界の前で唇を噛んだ。強くかみすぎて血がうっすらと滲んでいた。
「これは恐らくヒナタさんが創った結界…皆さんを巻き込まないための…」
人魚姫がそういうとネジはくそっ!!と結界をその拳で叩いた。
「ヒナタ様はどうなったんだ…」
コウが目を凝らしてじっと様子を見た。激突の衝撃の強さを濃い密度の風塵が物語っていた。
「いたっ!ヒナタ様だ!!」
トクマが指差した方向には、小さなダガー、一本で厄災の一撃を軽々と止めたヒナタが立っていた。
「……なんだと……!?」
「見た目で判断するなと…神様に教わらなかったのですか?」
ヒナタはそういうと高く跳躍し厄災の真上まで上がると一気に降下した。
「かつて破壊者であり虚空の王よ!あなたこそ無に還るがいい!!!」
ダガーを構えたヒナタが厄災を貫通し着地した。
断末魔の叫びとともに大きく膨れ上がっていた厄災は一気に収縮を始め小さな結晶と化した。
それはコロンとヒナタの手のひらへと転がり落ちてきた。
「封印……」
ヒナタの言葉で再び箱が現れ暗く冷たい結晶は箱へと封印され、パンドラの箱は現れた時のように空間から消えた。
手に持った七色のダガーもその形を失いそれぞれの宿主の元へと還っていった。
「………終わった………」
ヒナタが消えた箱を見つめながら呟く。大きな力をその身に受けた反動でひどく体がだるいと初めて感じていた。
黒い闇は徐々に薄れ硬い外壁はガラガラと珊瑚の残骸のように崩れ始めた。
そして闇の中と思っていた場所はマーメイド・ラグーンの最深部だと知った。
珊瑚が崩れる音と共に別の振動が響き始めた。
「なんだ!?ここ…沈没してるんじゃないのか!?」
トクマがいち早く地質の異変に気がつき声を上げた。
「なんだって…ここは最深部だぞ…沈んだら海の底じゃないか…冗談じゃない…」
コウがいつもながらに冷静に分析した。
「なぁに…ここはいっちょオレの力でな…」
ホヘトが手をかざすがなにも起こらなかった。
「頼むよ冗談やめてくれよー」
「うりゃ!…あれ? そりゃ!!………どうも……ダメみたいだなこりゃ」
ホヘトがお手上げといったふうに両手を上げた。
「そりゃ全て力をだしきったのだから仕方ないでしょう、しばらくは使えないんじゃないですか?」
ネジがしれっとした表情で語った。その背には人魚姫を背負っていた。
「え?なんなのコイツ?なんかムカツク!!」
トクマが今回無意識に美味しいとこ総取りのネジに憤った。
「じゃあどうすればいいのか……」
コウが顎に手を当てて思案していると…
「階段ありますよ」
さも当たり前のようにヒナタが階段を指差していった。いつもの笑顔とともに。
それにネジも普通に頷いた。
「え?」若い二人の思考についていけない3人は呆けた声を上げた。
「なにぼうっとしてるんですか?そんなところに立ってたら危ないですよ!」
そう言うとヒナタは階段を駆け上がり始めた。
「悪いがもう定員オーバーなので自力で上がってください」
皮肉な笑顔とともにネジもまたヒナタに続いた。
「……なんだろう、この気持ち」
コウがこめかみをピクピクさせながら笑った。
「おお、コウのこんな顔は初めて見るぜ…」
トクマが身震いしながら階段の方へと走り出すとコウもものすごい勢いで走り出した。
「老体に鞭打つってのはこのことか……ってオレはまだ若いっての!!」
セルフツッコミを入れながら最後にホヘトが続いた。
火事場のなんとやらで、ゴーストファイブ一行はなんとか崩壊する寸前に地上へとたどり着いた。
乗ってきたボートを見つけると一行はそれに乗り込み沈むマーメイド・ラグーンへと目をやった。
残された陸地も遠ざかる事に見えなくなりマーメイド・ラグーンは完全に海へと没し、再び辺り一帯に静けさが戻っていった。
「しかし……結局【クラーケンの至宝】はなんなのかわからずじまいだったなぁ…最下層にはなんもなかったし…デマだったんだなぁきっと」
トクマがぼんやりと言った。
「お前まだそんなこと考えてる余裕あったのか…」
コウがほとほと呆れ顔でいった。
「至宝は金銀財宝ではないのです…トクマさん」
人魚が海面を泳ぎながら話しかけた。
「なら…一体なんなんです?」
ネジの問いかけに人魚姫はネジの胸に手を当てた。
「至宝というのはこの海に平和と安定をもたらすものの総称……かつてそれは人魚姫だと言われていましたが…この長い時の中、この海を守っていたのはクラーケン様です…。彼こそが至宝なのです。
…そして、今はここに居ます……」
そういうと人魚姫の手が光りを帯、ネジの内側から再び黒い真珠が現れた。
「ぐっ……やるならやると言ってくれ!!結構しんどいんだから…」
呻きながらネジが毒づいた。
「ご、ごめんなさいっ…」
「だ、大丈夫?ネジ兄さん??」
ヒナタが心配そうにネジの背中をさすった。先ほどまでの勇ましい彼女の姿は消えいつも通りのヒナタだとネジは横目でちらりと見ながら安堵した。
「ああ………、こういう無茶なところが案外似てるもんだな…あなたとこの人は…」
「え?そ…そうかな…?」
きょとんとしたヒナタが思わず人魚姫を見ると彼女も笑っているのでつられてヒナタも笑みを浮かべた。
「で、クラーケンは今どうなってるんだ?生きているのか…?」
真顔のネジが人魚姫に尋ねた。言葉は乱暴だがクラーケンへの配慮を感じ人魚姫は深く頷いた。
「体は厄災によって失われましたが彼は魔性の存在…魂を持つ核があれば復活も可能…。しかしそれには時間が必要です。そして、彼自身が生きることを望んだとき初めて目覚めることができるのです…。長いあいだ眠っていた私を守ってくれたこの人に代わり、今度は私がこの方を守ります…」
「……でも住むところもないのに…?それにたったひとりで……」
ヒナタは思わず口をつぐんで俯いた。
「……住むところならあります……沈んでしまってもあの場所はこの下に眠っているだけだから…」
「でも…」
「私は一人じゃありません…この海が平和になればきっと魚たちも戻ってくるでしょう」
黒い真珠をその手のひらにつつみ、人魚姫が明るい未来を語った。
「…きっと目覚めるだろう…ソイツは執念深そうだし、せっかちだろうからな」
ネジがそういうとトクマが目を光らせた。
「まるで誰かさんみたいだな~~やはり同類同士わかりあうんだな~~」
「本当にあなたが羨ましい…ヒナタさん…皆さん本当に色々とありがとう…」
「行くんですか…?」
「……はい……ほんとうにあなたがたにはなんとお礼を言ったらいいか……」
「いいえ、むしろあなたたちを巻き込んでしまったのは私たちの方かも……」
ヒナタが暗く沈んだ声でいうと人魚姫は首を横にふった。
「それでも助けてくれた……本当にありがとう……またいつかここを訪れることがあればぜひ立ち寄ってください……」
ヒナタ姫は浮上するとヒナタを強く抱きしめた。
「旅のご無事を祈っています……」
「ありがとう…人魚姫……」
そういうと人魚は離れながら答えた
「いいえ私はただの人魚……彼が目覚めたとき、はじめて私は人魚姫になれます……」
「えっ……?」
人魚姫の言っている意味を理解できないまま人魚姫は水中へと戻った。
「さようならヒナタさん……ネジさん、ホヘトさん、コウさん、トクマさん……お元気で」
それそれが人魚姫に別れの言葉を言い終えると人魚姫は深い深い海の底へと消えていった。
しばらく海を漂っていると船影が見えそれがホワイトアイズだとすぐに気がついた。
向こうからもヒナタたちを呼ぶ声が聞こえた。
ヒナタは思わず大きく手を振った。
ようやく長かったこの冒険もひと段落。明日からはまたあらたな航海の始まり…
でも…、と。
ヒナタは全てを忘れて、まずはお気に入りのバスタブでこの体に付いた塩を洗い落としたいと考えていた。

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|DATE: 12/27/2012 00:00:00▲
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人魚と別れたホワイトアイズ一行は、次なる厄災を探す為、大海原を進んでいた。
ヒナタは戦いですっかり汚れてしまった愛用のコートを洗ってもらう為、それを脱いで渡した。
「じゃあ船長はその間これを着ていてください」
箱を手渡すクルーに言われるままにヒナタは箱を受け取ると、自室へと入り蓋を開けた。
「………これ…」
現れたのは簡素な装飾ではあるが質のいいシルクのオフホワイトのドレスだった。こんな服を見るのはいつ以来だろうと思う…。
物心ついた頃から剣を携え、腕を磨く日々。
ドレスを手に取りヒナタは姿見の前でドレスを合わせてみた。
短く切り揃えられた髪ではバランスが悪いように感じてしまう。
こうして見ていると、長い髪をたたえた儚げな横顔を思い出す。
自分と同じ顔を持つ、ヒナタ姫のことを。
姿見から離れ、ヒナタは窓からそっと海へと目をやった。今もこの広い海のどこかを漂っているのだろうか。
すでに意識さえ失くした彼女にはもう二度と会うことは叶わないのだろう。
眼帯の下の異変は嘘のように収まり、瞳の色も元通りに戻った。
最後の彼女の表情と、人魚姫が言った言葉が頭に今も残る。
モヤモヤとした思いを抱えながらもヒナタはドレスに袖を通し、船室を出て甲板へ立った。
すでに日の落ちた甲板には人の気配はなく、見張り台に立つ数人の姿だけだった。
だれもヒナタに気がつくものはいなかった。
今では遠ざかってしまったマーメイド・ラグーンの方向をヒナタはひとり見つめていた。
「そんな格好で風邪をひくぞ」
後ろから声が聞こえ、次いで肩からコートがかけられた。
「ネジ兄さん……」
「…あなたがドレスを着るなんて珍しいこともあるものだな」
「…っ!どうせ私には似合わないって思っているのでしょう?」
どこかからかう様なネジの口ぶりにヒナタは口をフグのように膨らませた。
そんなヒナタの仕草ネジは目を丸くし、次いで目を細めた。
「とんでもない、よく似合っている…」
「えっ……?あああああ、あのっ……あ、ありがと……ぅ」
てっきりいつものように小馬鹿にされると思っていたのでヒナタは少しばかり拍子抜けした。
口を開けば小言ばかりの従兄に褒められるとなんだかくすぐったくてヒナタは再び海へと目をやった。
再びヒナタの心に先ほどの疑問が浮かんできた。
「そういえば…」
「ん?」
「ヒナタ姫が消える前、ネジ兄さんに何か伝えようとしていましたよね……一体何を…?」
ネジを見つめて問うヒナタに対し、ネジは少し間を置いて答えた。
「………あれを受け取るべきはオレではない」
「クラーケンさん……?」
「ああ……」
「………内緒…なんですね…」
それより先を言おうとしないネジにヒナタは諦めたように言った。
「まぁな……何か気になることでもあるのか?」
ヒナタはそう言われ胸につかえていることを言おうとした。
きっとネジなら彼なりの答えを見つけている。そんな気がしたから。
「……あの…」
「ん?」
海を見つめるネジの横顔を見ながら喉まで上がってきた言葉をヒナタは飲み再び海へと視線を戻した。
本当のことを知ったところで何かが変わるわけではないのだ…
海に溶けて消えたあの人も、深い海へと消えた人魚も確かに個として存在していた…
そして自分もまた別の存在としてこの世に今生きている。それが今分かることの全てだ…
吹っ切れたように表情を明るくしたヒナタはネジへと尋ねた。
「いつか…旅を終えたらまたみんなでここに来ませんか?」
「そうだな…一体いつになるかわからないが、きっとまたみんなでここに来よう…」
その言葉にヒナタは満面の笑顔を見せた。
「元気が出たみたいだな。さっきまでのしけた顔じゃせっかくの席が台無しだからな」
「え?なんのこと…?」
「ほら!今日はコウが腕によりをかけたご馳走を用意しているそうだ!!主役が遅れてどうする!!」
ネジはそういうとヒナタの腕を引いて皆の集まる船室へと向かった。
「えっ??主役???一体なんの話を…ネジ兄さん??」
訳もわからないままヒナタがずるずるとネジに連れられて扉の前にたった。
「今日が何の日か忘れたのか?」
ネジが扉を開いてヒナタの背を押した。
「わっ…」
勢いよく押されたヒナタは部屋に脚を踏み入れた。
そしてパンパンパンと紙の破裂音が響き、色とりどりの紙テープがヒナタの目の前に舞った。
「えっ?!」
クラッカーを両手に持ったクルーたちが笑顔でヒナタを迎えた。
ホヘト、コウ、トクマが大きなケーキを抱えて満面の笑みを浮かべていた。
「ハッピーバースディ 船長!!!!!」
盛大な拍手とともにクルーたちの声が部屋に響いた。
「………みんな……ありがとう…」
ポロポロと涙を流しながらクシャクシャの笑顔を浮かべるヒナタを仲間達が優しく見守っていた。
ヒナタを祝う宴は夜が明けるまで続いたという―――
【END】
余談だが船長ヒナタのバースデーケーキのロウソクは毎年決まって16本立てられているという。

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