当企画は『NARUTO』日向ヒナタ溺愛非公式ファン企画です。原作者及び関連企業団体とは一切関係ございません。趣意をご理解いただける方のみ閲覧ください。

インタビューウィズヴァンパイア

TAG: 吸血鬼 (8) /カカシ (1) /ネジ (54) /光村真知 (3) /小説 (39) |DATE: 12/27/2012 20:26:04

祝☆ヒナコレ2012!
今年は参加します!!
[ 本文 ]





「ご存知の通りに、」

 

 金唐革紙の壁紙に四方を囲まれた部屋は薄暗かった。
 重厚な調度も全て、薄闇の中に沈黙している。ある意味大変に勿体無いことだ。白日の下でも十分に観賞に耐えうる、金のかかった品々であるだろうに。
「ご存知の通りに、私達のありようは吸血鬼、ヴァンパイア、と呼ばれる生き物のそれに大層似ています。」
 ゴブラン織りの張られた肘掛椅子に身を沈め、少女はゆっくりと語り出した。
「ただ、血を吸うわけではありません――」


 こんなことはとうに知っておいででしょうけれども、と前置き、それでも少女は丁寧に序説から言葉を綴った。
「吸血鬼、という存在は、出血多量、という医学知識を人が持ち得なかった時代に考え出されました。さして大きな傷を負ったわけではないのに…受けた傷の大小や深浅に関わらず、死んでしまう生き物がいるのは何故か、という疑問がそもそもの始まりでした。昔の人々は、その理由を、血というものに求めたのです。血には何か不思議な力、生きるためのエネルギーみたいなものが宿っていて、だから、さほどにひどく肉体を損ねてはいなくても、沢山の血を失ったものは死んでしまうのだと。
 そして夜の闇には、そのエネルギーを狙う魔物が跋扈しているのだと」
 薄明かりの中でも、彼女の膚のその白さ、滑らかさは十二分に見て取れる。
「ある意味でそれは正解です。…食べ物や飲み物を摂ることではエネルギーを得られない生き物…エネルギーを体内で合成できない、と言えばいいのでしょうか…純粋な状態のエネルギーでないと、自らの血肉にできない生き物」
 呟いて、少女は長い長い睫毛をしばたたかせた。愁いを帯びた白い瞳が伏せられる。
 暫く、室内には沈黙が満ちた。
「遥かな昔、大気にはもっと力があって…ただ呼吸するだけでよかった。それだけで世界に満ちているエネルギーを摂ることができた、といいます。でも…」
 細い肢体が椅子の背に軽く預けられた。
「…私が生まれた時 既に、世界はそうではなかった」
 ひそやかに、ため息のように告白は行われる。
「だから」
「人間からエネルギーを摂る」
 言葉尻をさらえば、少女は押し黙った。

「勿論、誰からでも摂れるわけではありません。適性というのか、素質というのか…体内で、太古からのエネルギーを作れるひと、というのは決まっていて…多分、それは生まれつきのものなのだと思います」
 暫しの沈黙の後、取り繕うように言って、少女は長く伸ばした黒髪の、これだけは短めに切った両脇の部分に指先を遊ばせた。
「ただ素質があるだけでもダメで、素質のある人に、…牙を打ち込む、と言えば良いのでしょうか…刻印を施すとか、しるしをつける、花を施す、…花を付ける、という言い方をするみたいですけれど。それをして初めて、エネルギーが摂れる状態になります」
 少女が身じろぎするたびに、喉もとからつま先まで、慎み深くその肢体を覆った白いワンピースの、表面がちらちらと、藤色の、すみれ色の、はたまた菖蒲色の、光沢を見せる。
「基本的には、一番最初に花を施した者の…あの、ものに。最初に花をつけたひとの、ものになります」
 もの、という言い方を、ひどく時間をかけて、ゆっくりと少女は発音した。まるで新人アナウンサーが、何度も練習したがついに滑舌良く発音できなかった単語を、本番で喋る時のように、慎重に。おそるおそる。
「自分が花をつけた相手からでないと栄養をとれないし、また、花がついていても、他の誰かの花では、栄養を分けてもらえないのです」
「つまり専属?」
「…まあ、そう…ですね。そんな感じです」
 すこし肩をすくめて、少女は苦笑した。
「だから当然、一度自分が花をつけた相手のところに何度も通うことになります」
「それこそ、陳腐な吸血鬼映画のように」
 茶化してやれば、少女は今度はくすっと、屈託なく笑う。微かにだったが、この会見で初めて、見せた気負いのない表情だった。
「でも、花をつけられても死ぬようなことはないんです…普通に飲んだり食べたりしていれば、花自身の――つけられた人自身のことも花、と呼ぶんですけれど――分のエネルギーはとれるので。
 私たちに与えるエネルギーと、花が消費するエネルギーは、どうも別のもののようで」
 ふうん。別に、良かったのに。たとえ、命を削り渡しているのであっても。
「ただ、あの…体のどこかに、独特の痣ができます。その…あの…つ、つまり…」
 へどもどと言いよどむ少女の、先をまた与えてやる。
「吸血鬼ものによくあるような牙の痕のように?」
「…はい」
「噛まれたところにできるんだーね?」
「あっ…いえ、いいえ、別にそんなことは…ただ、あの、…ええと、最初にエネルギーを貰った時に触った箇所に比較的多く出るようですけど」
「そしてそれは、別に頚動脈の位置に限らない」
「…………はい……」
「所有の証、というわけだ」
「………………………」
「他には?」
「あの…花になると、代謝の速度が変わります。年を取るのがゆっくりになる、と言えば判りやすいでしょうか」
「不老不死?」
「それは…」
「それこそ心臓に杭を打たれないと死なない?」
「…心臓に杭を打ち込まれて死なない生き物って、いるんですか……」
 聞きようによっては皮肉だったが、言いようによってそれは、単なる疑問文になっていた。
「それは、そうだーね。つまり不死ではない」
「私たちと同じ能力を得たりもできません…」
「じゃあ、痣が出来て、年を取るのがゆっくりになる。それだけ」
「…大体は」
「ゆっくり、って具体的にどれくらい?」
「判りません…ただ、多分だけれど、花は、対(つい)の寿命に合わせた時間を生きられるように、引き伸ばされてるんじゃないのかなって…」
「対?」
「え、あ、そ、その、花と呼ばれる人に対して、花にするひとを…私たちの側の種族を、そう、言うんです。…私たちの間でそう呼んでいるだけですけど」
 しどろもどろと説明する少女は、何故だか途端にもじもじし始めた。
「あの…あの、あなたに花を付けたのは、多分スカーの系譜です」
 挙句、下手糞に話題を変える。
「スカー?」
「俗称ですけど。傷跡にすごく似た形のしるしになることがとても多いんです。ヨーロッパの辺りに棲んでいる一族なんですけど」
 ああ。
 呟いて、自分の顔を派手に飾る傷跡(にしか見えない)に触る。
「君は?」
「私は…私の家系が花をつけると、額によく出ます。アジア地域に住んでいる一族に多いことなんだそうです。
 アジア地域の神様は、額に何らかの天印がある姿でよく表現されていますけど、それは私たちの花が影響したらしいです。私たち自身は人里を離れても生きていけるのですが、花は長くは生きられるし、病気とかにも罹り難いみたいだけど、それ以外は普通の人間だから…」
「人に混ざって生活していくことを好み、結果、神格化されちゃったわけだーね」
 長く若さを保ち、病にも倒れぬとあらば、何か特別の恩寵のある存在か、そも人間とは根本で異なる高次の存在として崇められることがあるのも頷ける。
「そうみたいです。宗教とか文化とか…一族の痕跡が結構残っていて、探すと面白いです」
 少女はまた屈託なく笑い、外見がほんの女学生ほどの年齢にしか見えないだけに、知識欲に目覚めたばかりの伸び盛りのようで、微笑ましい。
 ほんの少し水を向けたら、案の定、嬉々として乗ってきた。
 ボロブドゥールの無数の石像の中から、近縁の一族の印を額に付けた像をようやっと一つ、見つけた話。
 家系で花に現れる印は変わるが、印の異なる家系同士で婚姻を結んだら、生まれた子供の花は両家の印の特徴の双方を混ぜ合わせた形になり、それが西洋の、婚姻によって新たに出来た家は祖となった家の紋を混ぜ合わせて造る風習になったこと。
 チベットの石塔の中に、一族独特の合図を隠したものがいくつもあって、人が信仰のため積んだ石の塔と、どちらが先だったのかもう判然としないことなど。
 知識を得て単純に喜んでいるさまは、もしやこの、少女の姿をした生き物は、存外見かけどおりの年齢なのではと思わせるところがあった。

 暫く会話を楽しんで、頃合を見てそろそろおいとまするよと腰を上げる。
 見送りのためにか、扉口に出てきたところを見計らい、何でもないようなことのように振り返って、不意打ちを仕掛けた。
「ああ、そういえば。花に対して、対(つい)という言い方を使うのは何故」
 少女の瞳が大きく見開かれた。そうすると、白い瞳が、オパールのように複雑な色味を内包しているのが見て取れる。
 一瞬身を退きかけた手首を捉える。
 間近に見下ろす表情が歪み、
「……花は…花にとっては、生涯ただ一人の…相手だからです。でも、私たちは…」
まるで、喪服も脱がぬうちから、さあ、次はあの男に嫁げと。言い渡された未亡人のような、顔になった。
「時に…一生に、複数の花を…持つことがあります…」
「花が対の寿命にあわせた長さを生きられるなら、生涯につき花一人ということになるのに?」
 少女の顔に掘り込まれた苦痛の色がはっきりと、深いものになる。
 花は長くは生きられるし、病気にも罹り難いが、それ以外は普通の人間。
 先ほどのやりとりを思い出す。
 病気に罹り難いということは、罹らない、という絶対の確約を示すものではないのだろう。ほかにも、何かの理由で死んでしまうことがあるとも示唆している。
「…ああ、花が先に死ぬこともあるんだ。死なれたら、次の花を探すんだ」
「……はい」
 答える声は可哀想なくらい震えていた。可哀相などと、思わないけれど。
「逆を言えば、今の花が死なない限り別の人間を花にすることはできないの」
「それは…わかりません」
「なぜ?」
 詰問調で問い詰める。
「試したことも、そういう話を聞いたこともないので…」
「試さないのはなぜ?」
「………………」
 真珠の歯がただカタカタと鳴っていた。
「何か理由がある?」
「………………………その」
 ほんの少し語調を和らげれば唇を開くので、さらに声を努めて優しくして、先を促した。
「うん?」
「………その、対にとって、花は…花、は、その…単なるエサ、ではないので…」
「一度食べればそれでおしまいではない?」
「それも、ありますけど…」
「少なくとも、皿の中の食物のようには扱えないわけだ」
「……」
 ありきたりの食事を摂らないいきものに対して、これは判りにくい喩えだったかもしれない。
 捕われた手首を取り戻そうと、必死にもがくのを許さず、骨を折り砕いても構わないという意思を表示するように拘束を強めた。
「裏の裏を読むのが性分なんだよね。それに分析は得意な方なんだ。『時に』一生に複数の花を持つことがある、死なれたら次の花を探す、でも今の花が生きているうちに次を探すことはしない…愛着だって言えばそれまでだけど。花はエネルギー源なんでショ、もし死に掛けてるなら次を確保しておくのが当たり前じゃない。それをしないのは」
「やめて、もうやめて下さい…放して…」
「はっきり言ってくれる?」
 少女の大きな瞳から雫が零れ落ちた。深く俯き、捕われていない方の手でその顔を覆ってしまう。
「一族の…多くは…」
 嗚咽とともに、彼女は吐いた。
「花を失うと…次の花を選ぶことを放棄し…拒絶し…て、しまうことが殆どです…」
 結果、待つものは何か。
 心臓を貫かれて死なない生き物はいない。
 何一つ食べずに生きながらえる生き物もまた。
 それが答えだ。

「ありがとう」
 言葉が先か、手首を放すのが先か。非力なりに我が手を取り戻そうと必死に抗していた少女は唐突な解放に勢いあまって後ろに大きくよろめいた。背後の薄暗がり、正確には部屋の奥に位置する更に別の扉から駆け込んできた影が、こちらに飛び掛ってくるか少女を受け止めるか、一瞬だけ逡巡する。
「それが聞きたかった」
「貴様その顔二度と見せるな!」
 結局少女の体を抱き取って、代わりに怒号を叩きつけてくる影、否、青年の額に、浮かぶ卍に似た印を見るまでもなかった。
 自分だって、対の相手が誰かと親しく口を利いたり、あまつころころ笑ったり、挙句に力づくの真似を働かれるのを、耐えられはしない。
「訊きたいことはみんな聞いたから、言われなくても二度と会わなーいよ」
 ひらひらと手を振ってやる。
「ああ、重ねてアリガトね?俺なんか指先掠らせただけで殺せるのに、そうしなかったのは俺の対のことを考えてくれたんでしょ?俺を亡くせばあの人が悲しむ」
 これは青年の腕の中、殆どくず折れている少女に。
 そうだ彼(・)は悲しむ。
 痛くないですか?綺麗な顔だったのに。俺の顔にも傷があるから、こんな形で花が出ちゃったのかなあ。
 そう言ってこの顔に指先を滑らせて見てくれだけの傷さえ痛がったひと。
 二親を早くに亡くしたとかで、自分自身についての知識を殆ど持ち合わていない彼。
「お前の対は優しいねえ。…大切にしなよ」
 お前は、と言い添えるのはやめておいた。
 毛を逆立てるように威嚇してくる青年と、顔を伏せたまますすり泣く少女を省みず、今度こそ扉を開け放つ。
 光と活気に溢れた街に足を踏み出せば、背後の会見場は既に白昼夢のようにしか思えなかった。涙を流した少女も詮無い亡霊。
 自分の唇が酷薄な形に笑むのをカカシは自覚した。
 誰がどんなに泣き傷付いても構わない。自分の対が泣き傷付かないためならば。
 理非善悪など知らない。情などとうに凍らせた。そうして、命が尽きるまであの対と共に生き、死ぬ時は彼の命も貰っていく。次の花など自分は決して許さない。

 

 少女はいまだ泣き止まなかった。
 苦痛に耐えかねたように、絶望に打ちひしがれたように、嗚咽を吐き出し続けている。
 途方にくれてネジは、自分の手のひらの中に納まってしまう小さな肩口を撫でる。ほぼ見てくれどおりの年齢でしかない彼にとって、女の子というのはただでも度し難いいきものだ。
 見た目だけなら自分より、むしろ一つ二つ年下に見える少女が、実際にはいくつなのか、ネジはまったく知らない。その過去にいったい何があったのかも。
 彼に出来るのは、ただその肩口を撫でてやることだけ、
「…そばにいる、」
ひそやかにだが確りと囁きかけてやれるだけ。
「俺はずっとアナタのそばにいる、」
 オパールの虹彩を持った白い瞳がネジを見上げる、彼女がちっとも自分を信じてくれていないことをネジは知る、誓いははかなく破られていくものだと思っていることを。
 それでも彼は繰り返す、
「そばにいるよ」
 籠の扉が開け放たれても外に飛び立たない鳥のごとくに。
 いつかこの言葉よ届けと祈りながら。

 

 




(2012.12.27)

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光村 真知