星に願いを
TAG: 人形 (4) /キバ (5) /シノ (4) /ネジ (54) /光村真知 (3) /小説 (39) |DATE: 12/28/2012 00:45:20▲
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きみはだれ。 少年は尋ねた。 少女は答えず、ただ俯いた。はにかむように。 ヒナタがバージョンアップした。 具体的に言えば、昨日までおかっぱ髪の、ネジとさして年の変わらない女の子だったものが、今日会いに来てみれば、黒髪を長く腰の辺りまで伸ばした、優艶な女性になっている。成人と呼ぶにはまだ遠い年齢だが、14のネジには十分に大人だ。 一瞬わけのわからない衝動に駆られて彼は叫びだしそうになったが、ぐっとこらえた。 そんな子供っぽい真似を抑制できないと見られるのはごめんだったし、思い出したからだ。 初めて会った時、さして違わない年に見えたヒナタはしかし、ネジが年を重ねてもずっとそのままだった。 それがある日いきなり、自分より年かさの、少女になった。まだこどものネジには、どうしてそんなことが起きるのかよく判らなかった。面影は色濃く残していたし、言うことが同じだったから、それがヒナタなのだと理解は出来たが。 理由を問うても、ヒナタは困ったように微笑むだけで、結局判らなかった。もともと彼女は、技術的なことや知識――そらはどうしてあおいの、くもはどうしておなじかたちをしてないの、なんであめがふるの、といった幼い日の質問から、活断層の正確な位置および現在地が震度5以上の地震に見舞われる確率、蛋白質の構造式からコラーゲンへの構造式への変化といった最近の問いかけまで――には正確な解答もしくは解法を即答してくれるのだが、いくつかの事柄になると途端に歯切れが悪くなるのである。解答不能分野は主に情緒的なことに集中していたが、彼女自身のことも、問うて答えてもらえぬことの一つであった。 そうこうするうちにネジの背が伸び、モニター越しの彼女に追いつき、目線が並び、そして追い越した。 あれと同じことが起きたのだ。 毎年、毎日、成長していくネジとは違い、ヒナタは何年かおきに一度だけ、年を取るのだ。そういういきものなのだ。 二回の経験からネジはそのように結論付け、――本日の「レッスン」の方に意識を切り替えた。 愛くるしい少女から、少し年上の女性への、はじめてのともだち 兼 幼馴染 兼 姉 兼 妹 兼 教師 兼 母親 兼 参謀役の変貌に、どうにも態度はぎくしゃくとしたものになってしまったが。 ヒナタが人間でないことなどとうの昔に気付いている。 昔、日向博士たちが――自分の父と伯父だが――行っていた研究の、何らかの産物なんだろう。大戦が起こらず、親たちが今も生きていれば、もっと何か判るだろうに、と嘆くネジは、ヒナタの「本体」は地上のどこかの施設にあると思っている。たとえば今自分が根城にしている研究所跡のような。 そのネジから、3万5千kmほど頭上で、人造の星が太陽光パネルを光らせたことを彼は知らない。 右に照射システム「通牙」を備えた攻撃衛星KIBA、左に地表は勿論地下建物内の索敵をも可能のインセクト・システム搭載スパイ衛星SHINOを従えた3連星の女王、星々の領域から地上の一人を撃ちぬくことも、百万人の大都市を一夜にして灰燼に帰すことも自在な狂気の兵器のことは。 自分の額には、彼女を制御するのに不可欠なチップが埋め込まれていることも。
[ 追記 ]
4.はじめてのともだち も兼ねつつ。
[ 光村 真知 ]