当企画は『NARUTO』日向ヒナタ溺愛非公式ファン企画です。原作者及び関連企業団体とは一切関係ございません。趣意をご理解いただける方のみ閲覧ください。

至宝

TAG: 人魚姫 (22) /ネジ (54) /はすの (35) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 11/05/2012 00:29:59

大まかなあらすじは童話どおりなので省きました(*´`)


*補足説明:クラーケンという名が出てきますがクラーケンとは海の魔物的存在です。蛸とか烏賊とか蛇とか…なんかでっかい魔物ですv
クラーケンという響きが好きですv
byファンタジー畑出はすの
「至宝」楽しんでいただけたら嬉しいですv
[ 本文 ]

「ここにあの人が…?」
海中の洞窟を抜け、吹き溜まりから顔を出した人魚が辺りを見渡した。
わずかなロウソクの明かりが部屋をうっすらと浮かび上がらせていたが、その暗さに慣れずに人魚は懸命に探していた。

「……誰かと思えばヒナタ姫ではありませんか」
暗闇から声が聞こえ名を呼ばれた人魚が声の方へと顔を向けた。

「クラーケン様………お久しぶりです…お元気そうでなによりです…」
尾鰭ではなく二本の脚を持つ男はソファーへとその長い脚をのせ寝転びながらヒナタ姫を見つめていた。
まるで気配を感じなかったヒナタ姫は一瞬体を震わせ思わず息を飲んだ。

「ヒナタ姫も元気そうでなにより…それにお美しくなられたな…ヒアシ王もさぞ鼻が高いことでしょう…」

なんの感情も感じないその声にヒナタ姫はやはりここに来るべきではなかったと後悔し始めていた。

父王が彼の一族に行った過去…過ちとは言えその過去は消えることなどなく、そして自分は彼にとっては憎むべき敵の娘……

ヒナタ姫は自分の浅はかさを恥じた。今も変わらぬ憎しみの瞳、どんなに時が経とうと昔の二人には帰れないのだ……

「どうしたヒナタ姫…人が尋ねているのにだんまりとは…何か用があってきたのだろう?どうぞ、こちらへおかけください」
クラーケンは恭しく膝まづくとヒナタ姫の手を取り抱き上げるとソファーへと静かに掛けさせた。

抱き上げられた時はクラーケンの体温の低さに驚いたヒナタ姫だったがその手の優しさに少しだけ緊張を解いた。

「さぁ…こんな寒い海を泳ぐのはさぞお疲れのことでしょう…これをお飲みなさい」

クラーケンはそう言うと暖かな飲み物をヒナタ姫に差し出した。
人を疑わない無垢なヒナタ姫は差し出されたゴブレットを手に取りそっと口に含んだ。
ほどよく温められた葡萄酒がヒナタ姫の冷えた体を温めていった。
来るまではわからなかったが、冷たい海を長く泳いできた。落ち着いた今、ひどく体に倦怠感を感じ始めていたのだ。それを知っての気遣いがヒナタ姫には嬉しかった。

その優しさにヒナタ姫は背中を押され自然と言葉が口をついて出ていた。
「ネジ兄様に……お願いがあるの……」
ヒナタ姫は思わず昔なれ親しんだ彼の本当の名で彼を呼んでしまい、はっと口元を隠した。

しかしクラーケン……ネジは構わないとばかりに手をあげ話を続けるようヒナタ姫を促した。

「…あなたともあろう方がこんなところまで来るほどに……一体なんです?言っておくがオレは誰かを救うことができるような力など持ち合わせていないが……?無垢な白い真珠と呼ばれるあなたがまさか……誰かの破滅を望むというのか……?魔の黒真珠と呼ばれるオレに……?実に愉快な話だな…」

「っ!ネジ兄様っそんなこと仰らないでください!あなたはそんな方ではありませんっ」
くくっと暗く嘲笑うネジへと思わずヒナタ姫は声を上げていた。

「……ふん、まぁいい…それで何が望みだ?話してみろ……」

「……私………


人間になりたいんです…………」


真っ直ぐに自分を見つめるヒナタ姫の瞳に魅せられたネジは少しだけ応えるのが遅れた。


「…………よりにもよって人間とはな……、しかしどうしてだ?願いを叶えるには詳しく聞かなければならないんだ…全て話すんだヒナタ姫」

ネジにそう促されると今まで青ざめていたヒナタ姫の頬が一気に朱に染まった。その仕草に遥か昔の記憶が昨日のことのように蘇った。

生まれて間もないヒナタ姫、小さく恥ずかしがりやな姫は父王の影に隠れながらも呼べばそっとこちらへと顔を覗かせてくれた。
はにかんだ微笑みを頬を赤くしながらくれたあの日……

あの日ネジはヒナタ姫への恋に落ちていた。




「…………さま?  兄様………?」
黙り込んでしまったネジに不安を感じたヒナタ姫は彼の名を呼んだ。

はっと過去に引きずられていたネジは咳払いを一度するとヒナタ姫に説明を求めた

「さぁ聞かせてください……」

「…は、はい……あの…わたし………」


ネジはヒナタ姫が話している間何も質問することなく、じっとヒナタ姫を見つめていた。
穴があくほどに見つめられたヒナタ姫は居心地悪そうにそわそわしながらも、ゆっくり丁寧に此処へ来た理由を詳しく語った。

「………どうかお願いです……ネジ兄様のお力を貸してはいただけないでしょうか……」

ヒナタ姫は全てを話し終える大きく息を吐いた。

「……なるほど……あなたはその愛しいナルト王子への想いのために人間になりたいと言うのだな?……この世界を捨てることになるのだぞ・・・?望みを叶えるにはそれ相当の代償も伴う…。この掟には背くことはできないぞ?そうと知って尚それを望むか……ヒナタ姫?」

ヒナタ姫の心を試すかのようにネジの目が強い力でヒナタを見た。

するとヒナタ姫はその強い瞳に対し、自らもまた強い意志を込めてネジを見つめ返してもう一度頷いた。

「もちろん……構いません。どんな代償でも私は受け入れます…。このことは誰にも話していません……今はどんなに話してもきっと反対されて城に幽閉されてしまうでしょう……」

「オレが王に話す……と思わないのか?」

「…そんなことネジ兄様がするとは思えません・・・だからここに来たんです・・・」

哀しそうに微笑みを向けられ、思わずその視線から逃げるようにネジはさっと体を翻すとそのまま奥の部屋へと消えた。

しばらくするとその手に小さいが美しい装飾が施された箱を持ってネジがヒナタ姫のそばへと戻ってきた。

差し出されたその美しい箱を手に取りヒナタはしばし魅せられたように見つめた。

「……これは……?」

「このなかにはあなたの望みが叶うものが入っている」

それを聞いたヒナタ姫は顔をぱぁっと輝かせた。

「ネジ兄様っじゃあ……っ!」

身を乗り出したヒナタ姫を手で制したネジはヒナタ姫に言った。

「人の脚を得る代価はあなたのその声だ。いいか……あなたはオレにその声を差し出さなければならない……それが条件だ」

「………そんなっ?!………声を?」

ヒナタ姫はネジの言葉に蒼白になった。声を失ったらどうナルト王子に知らせればいいのだろう……それでは想いもなにも伝えることなど出来はしないというのに。


しばらく考えた顔をしていたヒナタ姫は意を決して口を開いた。

「わかりました………それで人になれるのなら……この声を差し出します」

「わかった、ならばあなたの願いは聞き届けられよう………」

ネジは小箱を開き、中から七色に輝く宝玉を取り出すとヒナタの前に差し出した。

「きれい・・・」
ネジの元離れた珠が空中を漂うとヒナタ姫の前で留まる。

「最後にもう一度聞く………後悔しないんだな……?」

「………はい」

ヒナタは大きく息を吐き出すとネジを見つめた。その瞳を見たネジはわずかに抱いた希望を失った。
そうだった。この人はずっと前からそう言う人だった………
ネジはもう躊躇うことなくその珠をヒナタ姫の躯に押し付けた。

ヒナタ姫の躯触れた珠は一瞬にしてはじけると七色の大きな膜となりヒナタ姫の躯を包み込んだ。

こうなったらもう誰にも止めることはできない。

ネジはそこからヒナタ姫がでてくるのを待つことにした。

ヒナタ姫の中に少しでも迷いがあればこの膜はヒナタ姫をそのまま溶かして食べてしまうだろう。――――だがそうはならない・・・ヒナタ姫の心の強さをネジはよく知っていた。

それから幾日が過ぎ、満月の夜のこと……ヒナタ姫を包んでいた膜は硬化し、ぴしぴしと亀裂の入る音を立てると砂塵へと風化していった。

空中を漂う砂塵は一つに集結すると再び下の珠へと姿を変えた。最初と異なるのは七色の光ではなく純白の真珠のように色を変えていた。

ネジはそれを確かめると再び小箱へと収め懐にしまうと眠るヒナタ姫を見た。

その下半身には尾鰭はなく、すらりと伸びた二本の脚をもつヒナタ姫が躯を丸めて胎児のように眠っていた。

ネジは全裸のヒナタ姫にマントを被せると使い魔にヒナタ姫の為に用意したドレスを着せるよう命じた。
その使い魔は長い鰭を器用に操りながらヒナタ姫にドレスを着せていった。

用意が調ったのを確かめると、ネジは眠るヒナタ姫を空気の膜で覆うと深い水中から地上へと浮上した。
ネジが呪文を唱えると水中の珊瑚の残骸が浮かび上がり、見る見るうちに一つの小舟へと姿を変えた。

そっと小舟にヒナタ姫を寝かせると小舟は意志を持っているかのように自然と街の方角へと漕ぎ始めた。



翌朝、ごくわずかな供を連れナルト王子はかつて自分が打ち上げられた浜辺へと来ていた。

確かに誰かに助けられたきがしたのだが・・・そのとき聞こえた声は今では朧げで不確かだったがとても美しい響きのある声だった。

「ん……?なんだってばよ……?船?」

そして中に人がいるのが見えるとナルト王子は一気に駆け出した。

「わっ若様?!」

男がやっと追いつくとナルト王子は既に小舟に乗るものの安否を確認し終わっていた。

王子の腕のなかで美しい娘がすやすやと寝息を立てて眠っていた。

「………漂流者にしては随分綺麗な出で立ちですね……っ!?まさかこの娘は魔物や妖では…?!?!」

その言いようにナルト王子は吹き出して笑い出した。

「朝から寝ぼけてんのか?こんな可愛い娘が魔物のはずないってばよ、よし、城に連れていくってばよ」

そう言うとナルト王子はヒナタ姫を抱き上げると軽い足取りで城へと歩き出した。

「えっ!?そんな素性も知らぬ娘を城に入れることなど許されませんよナルト王子!」

「オレが許すからいいんだってばよ!こんなところに娘をひとり残すような薄情者なのか?お前は!?」

「王子―――っ」

スタスタと先を行くナルト王子を説得するのを諦めた男はそう言うとナルト王子のあとを追うしかなかった。




ヒナタ姫が人間へと姿を変えてから数ヶ月の時がすぎた



その頃海の世界ではヒナタ姫が行方不明になったことですっかり元気を失ったヒアシ王が病床についていた。
かつて楽園とまで呼ばれた珊瑚礁の庭はその輝きを失い、宮殿にはコケを食う魚すら寄り付かずすっかり荒れ果てていた。

ヒナタ姫はこの世界の至宝であり全てだったのだ。

ネジはこうなると知りながらもヒナタ姫の望みを叶えた。彼女がそう望んだから―――ヒナタ姫が幸せならこの世界がどうなろうと知ったことでは無かった。

外の世界には一切気にすることもなく、ネジは洞窟で小箱の中の白い宝玉を見つめていた。

ヒナタ姫から声を奪った白く美しい宝玉は姫の感情と繋がっており彼女の喜びも悲しみもすべて伺い知ることができた。

始めの頃は期待や喜びに溢れ、まぶしいほどに輝いていたこの宝玉は、ここ最近になってひどく悲しげ揺らぐようになっていた。


今日も暗い夜の浜辺には、かつてのヒナタ姫の友が彼女を説得しようと語りかけていた。

それは少し前にネジの元を訪れたヒナタ姫の親友キバとのシノだった。
以前話に聞いていたネジのことが気にかかったキバとシノは二人でネジの元を訪れヒナタ姫に起こった事の顛末を知った。

彼らはヒナタ姫を心配し彼女を助けるためネジと契約を交わした。

かつてヒナタ同様の美しい尾鰭を持つ人魚だった彼らは小さなクマノミへと変貌していた。

その姿にヒナタ姫は泣き崩れるがそれでも彼らの願いには応じることができなかった。

自分の我侭で人になることを望んだのに叶わないからと、想い慕う人の命を奪うなどできる筈がないと涙を流しながら頭を振った。
声を失ってしまったヒナタ姫だったが、強い絆で結ばれた彼らはヒナタ姫の心を知ることができた。それでもと、小さな短刀をヒナタ姫へと託すと海へと戻っていった。

ヒナタ姫はそのまま浜辺で一人泣き崩れた。

ネジは静かに目を閉じると布で宝玉を覆い隠した。



翌日地上ではナルト王子の婚礼を祝う祭りが盛大に開催されていた。
街中の民がナルト王子とサクラ姫の結婚を祝う歓声を上げる中、地上へと訪れたネジはただ静かにその光景を眺めていた。

民の祝福を一身に受けるナルト王子とサクラ姫は幸せの渦中にいた。ヒナタ姫のことなど何も知らず幸せそうに笑っていた。

街の中を行く馬車が城へと入っていくと、ネジは街を後にし、浜辺へと歩いた。

こんなにも大勢の人がいる中、誰もヒナタ姫の訃報を知らない。

ナルト王子は結婚の儀の準備で昨夜から姿の見えないヒナタ姫を気にする時間も余裕もなかった。

婚礼を済ませた今それはきっと城の人間にとっては都合が良かったことだろう。


ヒナタ姫が最後に一人泣いたその場所にネジは静かに座り込むと白い砂を一握り持ち上げた。指の隙間からさらさらと砂がこぼれる。

「…………」
ヒナタ姫の涙を含んだ砂にはヒナタ姫の想いがかすかに残留していた。


深い哀しみと孤独、それでもただ一人、心から想える人に出会えた喜び。

指の合間からサラサラと溢れる砂がネジへと伝える。その日々を。そしてヒナタ姫が仲間に託された短刀を己の胸に突き立て海へと身を投じる姿が。

そしてその躯は海の泡へと姿を変え消えていくのが見えた。

波打ち際に波が打ち付ける音が響く。その音はヒナタ姫の死を悲しんでいるかのようにどこか静かで哀しく優しい。
ネジはその優しさが自分へと向けられている気がした。

「……それでも…あなたは不幸ではなかったんだな……?ヒナタ……」


夕暮れが沈むころにはネジの姿はなくなっていた


静かな海に変わった海流が流れ込んできた

細かな泡を乗せた海流は意思を持っているかのように流れを変えた。激しいその海流が過ぎ去ると不思議なことに荒れ果てた海の世界は戻の姿を取り戻していた。
荒廃した海の宮殿は再び輝きを放つ姿へと。クマノミに姿を変えられたキバとシノはもとの人魚の姿へと還った。


ヒナタ様だ・・・・
  

       ヒナタ様だ・・・・  
  
                   ヒナタ様が還ってこられた・・・・
  

海の生物たちが口々にヒナタの名を呼んだ。誰もがヒナタの存在を感じていたのだ。

しかしヒナタ姫はそこに戻ることはなかった。けれども海の世界の平穏はそのまま保たれた。




海の底。ひとつの手のひら大のアコヤ貝をネジは手にとった。すると貝は自らその殻を開いた。

「……いいコだ……さぁ、お前にこれを託す…大切に育てて欲しい…これはこの海の至宝……お前はその至宝の台座だ…」

ネジは懐からかつて白くて美しかった宝玉を取り出した。既に輝きを失い石化したその珠をネジはアコヤ貝の中に置いた。
貝はソレを抱くように包むと殻を閉じた。

「さてと……これであとはヒナタ姫…あなたが再び目覚める日までオレはここであなたの台座を護るよ…魂の一部をこの宝玉に分けたとを知ったらあなたは怒るだろうか……いや…優しいあなたのことだ…きっと許してくれるだろう……どんなに憎まれてもいい、嫌われても構わない……あなたを失うなんてオレには耐えられないからな…」

ネジは貝にそっと口付けると砂の上に置いた。

「今度あなたが生まれてくるときにあなたに言えなかった言葉を言うよ……」

そう言うとネジの躯はゆらぎ始めて小さな黒い珠へと姿を変えた。そしてその珠が割れると中から白い蛸が現れた。
その蛸はアコヤ貝に近づくとそっとその貝を足で抱くように巻きつけた。






深い深い海の底。白く美しい蛸は今も台座を護っている―――

その硬い殻の中、かすかに輝き始めた白い真珠を―――

END

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[ はすの ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: 重吉| DATE: 11/05/2012 07:25:34|TITLE: 人魚姫小説ごちそうさまです~~~超大作ですな!

ヒナタが人間になる際のシーンすごい!あとネジが至れり尽くせりジャネーカ(´゚ u ゚`)キモェ…
ネジが「ヒナタ姫から声を奪った白く美しい宝玉」からヒナタの感情を読み取るってところもすごい!これすごい!!
最初は楽しげだったのに、時がたつにつれ悲しげに…ってところは切ない(/ДT)
遠くへ巣立っていった子供の安否を気遣う親にも似た愛情ですね(≧ω≦);;胸キュン
キバシノがクマノミwwwwww思わず想像して吹いたwww
ヒナタ姫の最期の姿(ネジ経由)に泣…けた…!!!
「それでも…あなたは不幸ではなかったんだな……?」
ここ大事なポイントですね(´;ω;`)きっとヒナタも、最期にこう想ってたんだね…
こういう大事なところでネジはヒナタを理解できてたらいい(´;ω;`)
ラストにも泣かされますた(/Д`);;
そしてゴーストファイブ劇場版「クラーケンの至宝」に続く!とか照れ隠しにあほな事を考えたよwww
一万年と二千年前から○自主規制○しーてーるー♪では!

AUTHOR: はすの|DATE: 11/05/2012 09:45:31|TITLE: キモェとかw

sgktさんコメントありがとうございますvなんかネジ視点だからネジが主役ぽくない?wとか考えちゃだめv
神の領域三丁目って入っちゃってませんかwもったいなきお言葉ありがたく頂戴しました、ははーっ。m(_ _)m
何を迷ったかって、キバとシノを何にあてるかですよv当初の設定ではキバ=狼魚、シノ=アンコウwでも可愛くないのでやめましたvクマノミ可愛いよねv
ゴーストファイブが次に狙うお宝は・・・「クラーケンの至宝」ですねv(*´∀`*)

堕天

TAG: 天使 (7) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 11/11/2012 00:35:58

 

天使だから、一緒に生きてはいけないと、ヒナタはネジに言った。
 苦痛と悲壮に、顔を一瞬歪めた後に、ネジは、奇妙に歪んだ微笑を浮かべた。
 そして、天使たる証の純白の羽をひろげたヒナタを、愛しげに抱き締め…
 「そんなの簡単だ」
 そう言って、ネジは、背から生えた羽をへし折り…天使は、天の父の元に、二度と戻る事はなかった。

熊猫

❋COMMENT❋

AUTHOR: はすの|DATE: 11/11/2012 19:17:42|TITLE: 病んネジ

熊猫様v今年もご参加ありがとうございますvぜひぜひ溜め込んだ人外をこっそりと言わずどばーーーんっとお願いいたしますv\(//∇//)\
ヒナタを自分のモノにするならどんなこともしちゃうネジv病んでますv鬼畜ですvですが素敵ですv ありがとうございましたv

嵐の夜に…

TAG: 人魚姫 (22) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 11/15/2012 03:34:35

嵐の夜に出会った二人は、末永く。きっと、人魚のヒナタは、純真なので、ネジの邪さには、気付かないでしょう。
[ 本文 ]

一目で、恋に堕ちた。
その姿は、月に照らされ、波間に浮かぶ白い真珠。
白い肌に、艶やかな黒髪…そして、岩に腰掛けた、なだらかな曲線を描く腰から先には、不可思議に柔らかな色に変わる銀鱗に包まれた魚の尾。
月と星を従えた彼女の歌声は、魚だけが聴衆。
日向家の目は、遥か彼方まで見通せる不可思議な瞳だが、耳は残念ながら普通のソレ。
ネジは、せめて歌う彼女に添いたいと、海に迫出したバルコニーで、ヴァイオリンを奏でた。
無骨で無粋とよく言われるが、ヴァイオリンは、貴族の嗜み程度には出来る事が、今はありがたい。
まさか、彼女に音が届くとは思わなかったが、海妖の彼女の耳は、人とは違ったらしい。
一夜ごとに、彼女が、ヴァイオリンに惹かれて、屋敷に近づいてくる。
そして、ヴァイオリンを弾かない時も、彼女が、バルコニーを凝視めている。
「…自惚れてしまうな」
思わず呟いてしまう程、彼女がじっと、自分を見ている。
黙っていれば…とは、よく言われるが、見目は悪くは無いだろう姿に産んでくれた、親へ感謝しよう。
このまま、彼女を力任せに、捕獲してしまう事はいくらでも出来るが、それでは招かざる災厄を呼び寄せてしまう。
部下を使って調べ捲くったが、彼女は多分、海洋を統べる海王の娘の一人。
真珠よりも、珊瑚よりも、美しい海の至宝。
幸いに、自分は、知略謀略を、ヴァイオリンよりも得手としている。
だから…彼女から、此処へ。
彼女の意思で、オレの元へ。
まずは、明日の海上パーティ。その天気は、夜半に荒天。
溺れるオレを、彼女はどうするだろう…。
海底に引きずり込むか?地上へ助けてくれるか?
無茶な一手だが、あの臆病な人魚姫を、地上に上げるには、賭物に命くらいは必要だ。
早く来い、オレの美しい人魚姫。
そして……
「もう、海には還れない。そう思え」

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熊猫

ケモミミ

TAG: 半獣人 (8) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 11/17/2012 01:49:43

本当は、思う存分、かいぐりかいぐりしたいネジなのです。

 「で、その獣に噛まれて?」
ネジの憮然とした顔に、ヒナタはシュンとした。
気持ちが沈むと、一緒に耳と尻尾もうな垂れてしまう。
もともと感情を隠すのが苦手なのに、こうもあからさまに駄々漏れになってしまう事に、ヒナタは落ち込む。
「は、はい。その…満月の時だけ…ちょっとだけ、変な格好になっちゃうの」
ちょっと…と、かなり控えめな言葉に、我ながら情けなかった。
耳は、横に伸びるだならまだしも、フワフワとした長毛に縁取られているし、尾骨が奇妙に伸びて、そこも、耳と同じような長毛に包まれ、尻尾になっている。
腕や足の形は変わらないが、肘と膝から下は、柔らかい毛に覆われ、爪が獣のように尖っていた。
瞳も一族の白眼に、琥珀の縦長の瞳孔となってしまっている。
毛皮や瞳は、任務に行った森で、出逢った小さな白い獣を思い出させる。
見た事もない獣だったが、子猫くらいの大きさで、人懐こく足元に擦り寄ってきた。
こんな事をネジに言えば、きっと酷く叱られるが、あまりの可愛らしさに、油断してしまった。
思わず、柔らかそうな白い毛皮の頭を撫でると、獣は、ヒナタの手に噛みついたのだ。
完全に牙が立つ前に、獣の口から手を引いたが、牙の先で傷が付いた。
そして、この姿だ。
原因は、獣に噛まれた事くらいしか、思いつかない。
ほんの少しの噛み傷でコレだ。
完全に噛まれていたら、どうなっていたか……
「…お、おかしいですよね」
あまりに厳しい表情で、自分を見るネジに、ヒナタは自己嫌悪に打ち拉がれた。
「おかしくはないが、人に見られたら、あからさまにマズイだろう」
呆れたような、ネジの言葉に、ヒナタは尚更とうな垂れる。
柔らかそうな毛に覆われた耳と尻尾が、しなりと下を向いてしまい、日向の白眼は、琥珀色にも見える涙で潤んでいく。
大人しく従順な半人半獣の姿のヒナタに、実のところ、ネジは…

―――――可愛すぎるだろう!!!!!!!!

と、心の中で、悶絶して身悶えていた。
気が緩むと、完全に脂下がった、だらしない顔になるのが、わかっているから、必要以上に顔の筋肉を強張らせる。
「いいか、二人の秘密にしておこう」
そして、軽く咳払いをすると、もっともらしく、ヒナタに諭す。
「誰にも見られないように、その格好になってしまう時は、オレの所においで」
こんな可愛らしい姿を、人目に晒してなるものか!と、独占欲と激しい嫉妬心が、拳を振り上げているのを、おくびに出さずにネジは言った。
だが、そんな事を知らないヒナタは、いつもは厳しい従兄が、優しく気遣ってくれるのが嬉しくて、思わず表情を明るくする。
その気持ちの高揚につられて、耳がピンとたち、尻尾が振られると、ネジの頭の中では、ファンファーレが鳴り響くのだった。

熊猫

❋COMMENT❋

AUTHOR: はすの|DATE: 11/17/2012 12:28:28|TITLE: ネジに幸あれv

私の中のネジの頭の中でもそのファンファーレが聴こえましたっ(σ≧▽≦)σきっと皆さんもそうですよねv

AUTHOR: 重吉|DATE: 11/17/2012 12:51:36|TITLE: エンドレスラッパ

Oui!(*´∀`*)ノ半獣ヒナタ様独占羨ましいぃ!!

No Title

TAG: その他 (17) /変化 (2) /ネジ (54) /重吉 (19) /イラスト (51) /小説 (39) |DATE: 11/18/2012 13:35:01

 昔中国の若者がとある大儀を胸に高い高い山の上に住むという仙人を訪ねた。

 麓の宿の主人には、招かざる者が仙人の山へ挑み生んだ数々の悲劇を聞かされ
 命が惜しくば行ってはならぬと説かれたが、果敢にも若者は霞に煙る山道へ足を踏み入れた。

 険しく厳しい高峰に心と体を試され、砦ほどの丈もある白蛇や白虎に襲われながらも進むと
 行く手を阻む魑魅魍魎に次いで霧の中より牛に乗った童が現れた。

 若者は童に道案内を頼み、仙人の庵に辿り着くがすでに仙人は遠国へ発った後と知る。

 一旦下山した若者が麓の宿へ立ち寄り、案じて待っていた主人に山の話を聞かせると
 主人はその牛に乗った童こそ山の仙人が変化した姿であろうと言った。



っていうような話が水滸伝か何かになかったでしたっけ。調べたけど元ネタわからずじまいですた。

[ 重吉 ]

おかえり、人魚姫

TAG: 人魚姫 (22) /ネジ (54) /kasugai (1) /イラスト (51) /小説 (39) |DATE: 11/25/2012 14:11:09



人魚姫の恋が叶わないことは、波の噂で知っていた。

魔法使いが作ったナイフで王子を殺せば人魚姫は助かると、長い髪と引き
換えにして人魚姫の妹にナイフを渡したけれど、魔法使いは知っていた。

あの優しい人魚姫に王子の心臓を刺せる訳がないのだ。

「さぁ、迎えに行こうか」

今日は王子の結婚式、彼女が完全な海の泡になる前に薬を飲ませなければ
ならない。人魚姫の足は人間になった代償で消えてしまうが、命を取り留
める事が出来る特別な薬だ。

水面を見上げれば、光り輝く魚達が落下物を守るように囲んで泳いでいる。
それは以前、魔法使いが育てて人魚姫に贈ったペット兼見張り達だった。

落ちてきた人魚姫の足はとっくに泡となって消えていた。人魚姫の体を抱
きしめた魔法使いはすぐさま薬を口に含んで、人魚姫に口づける。

こくりと人魚姫が薬を飲んだのを確認し、魔法使いはゆっくりと唇を離し
た。すると伏せられていた人魚姫の瞳が魔法使いの姿を映し出し、魔法使
いはにっこりと人魚姫に笑いかけた。

「おはようございます、ヒナタ様」
「お、はようございます?あの、ネジ兄さん、すいません、
 ここはどこですか?私のベットの上ではないことは確かなんですけど」

王子に恋した人魚姫はもうここにはいません。
魔法使いが人魚姫の王子の記憶を消し去ったのです。

「ここは貴女が住む海の世界です」

「何を言って…、当たり前じゃないですか。私は人魚なんですから。
 海以外のどこで暮らせると…?何か変ですよ、ネジ兄さん」



「――そうでしたね。おかえりなさい、人魚姫」



.

----------------------------------- こんにちわ、kasugaiと申します。 人魚姫の王子様はナルトでした。 ネジは虎視眈々と狙う魔法使いで!
色んなヒナタ様を見る事が出来て嬉しいですv 最後までヒナ誕祭り楽しみにしてますね!

[ kasugai ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: はすの|DATE: 11/25/2012 19:22:34|TITLE: ありがとうございますv

Kasugai様
はじめまして(*´ω`*)ヒナコレご参加ありがとうございます~~w綺麗なイラストにお話まで・・・なんて贅沢wありがとうございますwwwヒナタ様の美しさとネジの腹黒さがうかがえる素敵な作品ありがとうございます。最後までどうぞよろしくお願いいたします~ヽ(´▽`)/

AUTHOR: kasugai|DATE: 11/29/2012 10:27:55|TITLE: コメントありがとうございます!

はすの様、コメントありがとうございます!
もう人魚姫+悲恋=ヒナタの方程式で人魚姫選ばせて頂きました。
綺麗と言って頂けて嬉しいですv
ヒナタを守るために何でもやってしまいそうなネジが大好きです(笑)
早いものでそろそろ12月に突入ですね◎
これからもヒナコレ応援しております!

末永く

TAG: 悪魔 (3) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 11/28/2012 00:21:41

このネジは、ヒナタを召喚するまで、何百って悪魔を呼び出しては、なぞなぞをしたりして煙にまいて還してしまってます。多分、どこぞで悪魔ヒナタを見初めて、ひたすらにヒナタの召喚を願っていたのです。ネジのものなので、ネジが願ってヒナタに可能なら、ネジは不老不死です。まぁ、ただネジは、ヒナタと末永く暮らしたいだけなので、世界は平和です。ご安心を。

薄暗い部屋で、ネジはとうとう悪魔を呼び出す事が叶った。
魔方陣中に立つ姿を見て、ネジは願いを決め、悪魔に宣告した。
「魂だ。オレの魂をくれてやる」
いきなり、ネジが捧げ物を告げた事に、悪魔は些かたじろいだ。
大抵の者は、降ろした悪魔に願いを言うのだ。
まぁ、魂の収集が、悪魔の常套だから、順番はいいかと、あまり深く考えずに、悪魔はネジの望みを聞く事にした。
「望みは?」
その言葉を、可憐な姿をした悪魔の唇が、吐き出した時、ネジは悪魔以上に悪魔らしい微笑を浮かべた。
その残酷で、悪賢く、だが美しい微笑を見た時、悪魔は、自分がもう逃げられない事を知る。
「オレのものになれ」
そして、悪魔は―――――ヒナタという名を、ネジに知られ、永遠にネジと共にある事を、強いられることになった

熊猫

❋COMMENT❋

AUTHOR: 重吉|DATE: 11/28/2012 06:07:23|TITLE: 何百って悪魔に勝ち続けた男

魂はおろか心まで、一目見たその時からヒナタ様に捧げる気満々なネジさんですね(*´∀`)vv

AUTHOR: はすの|DATE: 11/28/2012 08:22:54|TITLE: SD(すごい努力)

ネジって涼しい顔をしていながら、ものすごい努力の果てに悪魔ヒナタを手に入れたわけですねv悪魔なのに悪魔的な人間に支配されるヒナタ様が愛おしいですv
ドジっ娘悪魔という新規カテゴリありがとうございますv(^q^)

はじめてのともだち

TAG: 吸血鬼 (8) /ネジ (54) /スズシロ (2) /小説 (39) |DATE: 12/04/2012 16:18:32

今年もよろしくお願いします。去年ハナヒナで参加したスズシロです。今回はネジとヒナタで吸血鬼、ヒナタ様にはゴスロリドレスをイメージして書きました。

http://store.shopping.yahoo.co.jp/coszone/cos0063.html

↑絵がかけないので悔しいですがこんな感じとか……。 ヒナコレ、ヒナタ誕生日応援してます!
[ 本文 ]

 
 夜中にひっそりと目を覚ます。
 棺の中から静かに外に出て、幼いヒナタは白い瞳を瞬く。
 白--ほんのりと薄紫。異形だけれど、とても美しい瞳。
 短いおかっぱに白い瞳。ふっくらした頬、小さい手足。
 ヒナタはまだたったのみっつ。
「ヒナタ、起きたの」
 先に棺の中から起き出していたかあさまが、ヒナタに言った。
「そろそろ三歳のお祝いをしないとね、ヒナタに……」
「お祝い?」
 ヒナタはおかっぱの頭を揺らして大好きなかあさまを見上げる。
「ヒナタもともだちが欲しいでしょう?」
「とも、だち?」
 よく意味が分からなくて、ヒナタは白い瞳をくるりと瞬いた。
 ともだちってなんだろう。
 このときのヒナタの世界にいるのは、とうさまと、かあさまと、自分。
 あと二年待てば、可愛い妹が増えるけれど、まだヒナタはそんなことは知らない。
 世界にひとりぼっちの小さい女の子。
 それに悲しそうな瞳を向けてかあさまは笑った。
「さあ、お食事にしましょうね」


 お食事は--ワイングラスいっぱいの、赤い液体。



 ひそやかな森の中。いにしえの血を引く名家日向の吸血鬼達は、ひめやかな儀式を繰り返して夜の静寂を生きていく。



 しばらくたって、「お祝い」の日が来た。
 三歳のヒナタは赤い綺麗な衣装に着替えさせられた。蝶々柄の真紅の着物ドレス、黒い帯、黒いレースにフリルにリボン。華やかな和風のゴシックロリータ。
 それから「祖先の間」に連れて行かれてとうさまと儀式を行い、そこでヒナタは日向一族の長老達と初めて会って、認められた。
「いにしえの血を守るよう……」
 殷々と響くその言葉に身も心も縛られそうで、ヒナタは怖くてとうさまの着物の裾をぎゅっと握った。
 それからかあさまのいるお食事の間に行くと、ヒナタの知らない男の子が立っていた。
 それが、出会い。
 不思議だったのは、その子の隣に「とうさま」にうり二つの男の人が立っていた事。ヒナタには難しすぎて、事情がよく分からなかった。
「あなたは?」
「日向ネジ」
 ワイングラスいっぱいの赤い液体。
 ヒナタにそれを恭しく差し出しながら、そう年の変わらない男の子は言う。
「ネジとお呼びください、ヒナタ様」
「ヒナタ”様”?」
 幼いヒナタには何が何だか分からない。
「ヒナタ、受け取ってあげなさい。それはネジの血なのよ」
 かあさまがそう言った。


 いにしえの名家日向には吸血鬼が生まれる。極めて優れた白眼をはじめとする能力を数々持つ吸血鬼と、そうでないもの。宗家のヒナタは吸血鬼に生まれたから、赤い血をしもべたちが準備してくれる。
 だけど分家のネジは自分で血を採ってこなければならない吸血鬼。むしろ、自分より優れた吸血鬼”宗家”に血を差し出す方。同じ白眼でも、宗家と分家には決定的な差がつけられている--


 かあさまはそういうことを話した。
「そしてネジははじめてのともだちなのよ、ヒナタ。仲良くしなさいね」
 優しく、優しく、言い聞かせてくるかあさま。ヒナタはかあさまが大好き。
「そんな……!」
 ヒナタは首を左右に振る。
「ヒナタ?」
「ともだちの血は飲めません」
 お嬢様のヒナタは血を採ってくる事なんて、今まで考えた事がなかった。
 自分はなんて残酷な事をしもべたちにさせてきたのだろう。そして、ネジはしもべではない。同じ日向の、吸血鬼。
「ともだちなら、血を採ってくる方法を教えてください」
「ヒナタ様?」
「ともだちなら……! ネジ兄さん……!」
 ともだちなら、本当の事を教えて。
 ともだちなら、本当に必要な事を教えて。
 ネジはそして、ヒナタにそれを教えたのだった。



 ゆるゆると時は流れて森の中。妖しい儀式が繰り返される古い家。
 夜の静寂の中を、美しい吸血鬼達が瞳を閃かせて駆け抜ける。
 ゆるゆると時は流れて--
「ネジ兄さん、お食事は終わった?」
 森の中で旅人を寝かせつけ、ヒナタは囁くように言う。
「ああ……眠りにつかせましたか。目覚めた時は……」
 ネジは成長したヒナタの鮮やかな手つきを見つめて言った。宗家のお嬢様でありながら、ヒナタは吸血鬼として人を襲う方法を覚えた。ただ黙って座って、食事をしもべに言いつける事だって出来たのに。
 はじめてのともだち、ネジがそれを教えたのだ。
 ヒナタはもうおかっぱの幼い少女ではない。
 漆黒の長髪に白眼の冷たい残酷な吸血鬼。魅惑的な豊満な胸をやはり漆黒の着物ドレスに包み、夜の闇に、旅人を襲う。
「目覚めた時は--」
 ネジはヒナタの甘い唇の間にのぞく妖艶な牙を見つめて言う。
「あなたの虜になっている事でしょう……」

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[ スズシロ ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: はすの|DATE: 12/04/2012 20:21:38|TITLE: ありがとうございますv

スズシロ様v 今年もご参加いただき、ありがとうございますv和風ゴスロリを着込んだ妖しくも美しいヴァンパイアですね。。。友達の血を飲むことは拒絶しつつもきちんと己が生きるため自分で狩りを行うお姫様・・・v 魔性のモノが本来持つ残虐性をそれすら魅力にしたヒナタ様・・・・なんて美しいんでしょうvv私も吸ってくださいvv(*´ω`*)ああ、しもべになりたいv ネジも骨抜きでしょうなぁvvvウフフ

夜の住人

TAG: 半獣人 (8) /キバ (5) /ナルト (3) /スズシロ (2) /小説 (39) |DATE: 12/04/2012 17:03:45

キバ+ヒナタで半獣人・猫娘・夜の住人です。
キバはナルトを好きなヒナタを応援ポジション。好きな人なし。
ヒナタはサクラを好きなナルトに配慮。
一方通行なので×ではないと思います。もしもまずい表現がありましたら教えて下さい。
ヒナコレ応援しています。
[ 本文 ]

	   夜の住人




 窓を金髪がよぎった。
 それを見上げてヒナタは赤面し、猫耳を思わず揺らしてしまう。
 夜中にパンを買いに行った帰り。どうしても寄り道して見上げてしまう、その窓。
「なーに見てんだよ!」
 機嫌悪そうに尻尾を何度も振り回してキバが言った。
「お前はまだ見てるだけでいいなんて言ってるのか? ヒナタ!」
 そういうキバは狼の耳、狼の尾、大きな爪--立派な狼男。
 ヒナタはふわふわの猫耳に猫の虹彩の瞳。すらりとした猫の尾。猫娘。




 夜の街、教会の大きな屋根の上、二人並んで座って買ってきたパンを食べる。
 この街にはヒナタたちのような半獣人、”夜の住人”達と、普通の人間達が一緒に暮らしている。教会はその二つの種族の平和と交流の象徴だ。半獣人達は主に夜の世界に生活し、普通の人間達は昼の世界に暮らしている。
 夜、猫の半獣人、ヒナタがずっと見つめているのは昼の世界のナルト。
「そんなにあの金髪の、ナルト……だっけ? が好きなのかよ。だったら早く告白して、ものにしちまえばいいのに」
 キバがずけずけそういうと、ヒナタは赤くなって涙目でうつむいてしまうのだ。
 綺麗な満月を見上げる事も出来ず、震える手を握りしめて膝を抱え込む。
「なんだっけ? 痴漢から助けてくれたんだって?」
「ち、ちが……この間の夕暮れに、酔っぱらいのおじさんに、私が絡まれているのを……助けて、逃がしてくれたの……ナルトくん……」
「それからずっと追いかけてるのか。家まで突き止めて、毎日寄り道して見上げて。ヒナタ、それ、ストーカーって言うんだぞ」
「す、ストーカーなんかじゃ……」
 だが自分のやっている事を客観的に考えると、そう思えるのか、ヒナタは小さく体を丸めて震えた。
「ナルトくんの迷惑になんかなりたくないよ……」
 だけど話しかけることも出来なくて、追いかけてしまう気持ちを止める事も出来なくて。 猫耳を下に向けて垂らしてしまいながら、ヒナタは涙をこらえる。
「うーーん……」
 幼なじみのヒナタの性格を知っているキバは難しい顔でうなって夜空を見上げる。
 ヒナタが自分からナルトに告白するように持っていくのは難しそうだ。
「今度俺がうまいタイミングを作ってやるから、自分から話しかけてアタックしてみろよヒナタ。一人じゃ無理なら、俺が機会を作ってやるからさ」
 その機会を果たしてどうやって作ろうかとキバは内心考え込んでいた。普通の人間のナルトと夜の住人のキバの間に接点はない。ヒナタと同様に。
「キバくん……本当?」
 ヒナタは猫の尻尾で屋根の上を掃きながら、瞳の虹彩をキバに向けた。 
「ああ。俺たち夜の住人も普通の人間も、この街じゃ日曜に必ず教会に来るからな。そのときに俺が何とか話しかけてみる。ヒナタもついてこいよ」
「でも……」
 日曜の礼拝のことは、ヒナタも分かる。
 赤面して、ヒナタはうつむいた。
「でも、ナルトくん……好きな子いるみたいなの……私がそれを知っていて告白なんてしたら……ナルトくん、困っちゃわないかな……」
「好きな子? なんだそれ? 初めて知ったぞ。お前どうやって調べたんだ、ヒナタ!」
「な、ナルトくんが前に教会に来た時……見てたの……ピンクの髪の女の子の事、ナルトくんずっと見つめていた……」
 ナルトを見つめるヒナタの視線の先。
 ヒナタはナルトの視線の先まで見つめていたのだ。
「お前本当にナルトに夢中なんだな!」
 キバは驚き、呆れ、また尊敬した。
「そんなによく一人の人間の事好きになれるな……俺には無理だぜ……」
 そもそもキバはまだそんなに異性に興味がない。
 そんなことより、夜の街で仲間や狼とつるんでいた方が楽しい。
「ナルトくん……私、ナルトくんが幸せならそれでいいの……」
「それでいいって、いいわけないだろ。いつまでもストーカーのままでいられないんだから! しっかりしろ。ヒナタ!」
 叱咤激励を飛ばし、キバは思い切りヒナタの背中をどついた。
「キ、キバくん……私……ナルトくんを困らせたい訳じゃないの……」
 涙を拭きながら、ヒナタは言った。
「キバくんの言う事も……分かるよ……私のしている事……本当にストーカーかもしれない……だけど、ナルトくんが他の誰かを好きなのに……私が強引に告白なんかして……ナルトくんは優しいから……悩むし傷つくと思うんだ……」
「ヒナタ……でもそれって……」
「だけどキバくんのように……勇気を持つ事って、凄いと思う。私……自信を持ちたい……」
 パンをかじって、キバは盛大にため息をつく。
「なんかこう、青春相談室っぽくてやだな。自分で自分がかゆい……」
 キバがそういうと、ヒナタは慌てて首をぶんぶんと横に振った。真っ赤になりながら。
「俺も、そういうふうに誰か好きになってみたいって、思ってるしな」
 ぼそっとキバはそう言い捨て、パンの大きな塊をヒナタに押しつけた。
「まあ食えよ。食って、元気出せ。いつかナルトに告白出来るぐらいに。ガンバレ、ヒナタ」
 勇気づけてくれるキバに微笑んで、ヒナタはパンを受け取った。
 微笑むとヒナタは本当に可愛いと、キバも思う。応援してやりたいと思わせる何かがある。
(結構可愛いのに、自信なんてそう簡単に持てるものじゃないんだな……)
 キバは自分の狼耳をピンと立てながら星空を見上げた。
「色恋沙汰なんてどう決着つくか分からないもんだから、後で後悔しないように、ベスト尽くしておけよ!」
「キバくんは……好きな子いないの……?」
 あんまり偉そうにキバがそういう事を言うので、ヒナタも思わず聞いてしまう。
 そうするとキバは真っ赤になった。好きな誰かがいるわけでもないのに告白しろと人を急かす自分に気がついて。
 キバを真っ赤にさせてしまった事にヒナタは慌てて真っ赤になり、猫耳を揺らして尻尾を揺らす。
 本当にどうしようもない、夜の住人達。

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[ スズシロ ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: はすの|DATE: 12/04/2012 20:28:56|TITLE: かわいいv(*´ω`*)

わーいvお題二つもありがとうございますv そして面倒見のいいキバ兄さん可愛いですねvv ツボにはまったのが 「自分で自分がかゆい……」狼男だからですかvv痒くてしかたがないんですね(`・ω・´)www 幼い恋を抱えたストーーーじゃない猫娘vヒナタンとまだ恋も知らないのにお兄さんぶったキバの二人がとても愛らしかったですv(*´ω`*) 世界観もまた素敵でしたーーーvありがとうございますv

魂迎

TAG: 幽霊 (17) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 12/06/2012 03:33:57

死にネタです。苦手な方は…ごめんなさい。
[ 本文 ]

あぁ…そうかと、ネジは急に腑に落ちた。


腹が裂けた。
腕も、足もどこかが無くなっているが、血が流れ過ぎて、痛みもない。


死んでも、おかしくない状態なのに、今の今まで、自分が死ぬと思いもしなかった。


どうしても、どうしても死なないと、ずっと思っていた。
どんな窮地に陥っても、どんな敵に囲まれても、絶対に、死なないとそう思っていた。


だが、今。


柔らかい微笑を浮かべて、ヒナタがいる。


そう、今なら、黄泉路の坂を下ってやってもいいと思った。
そう、あなたが、一緒なら。


この自分を置いて、先に逝ってしまい、ネジはずっと腹を立てていた。


だから、簡単には、絶対に、ヒナタの元にはいかないと心に決めていた。
でも、ヒナタが迎えに来た、この時なら。


そうして、瀕死のネジは、唇から今生終りの息で、小さく呟く。


「…………おそ…いっ」


最後の最期まで、彼らしい減らず口を叩く。


そんなネジに、ヒナタは目を瞠り微笑を深くし、彼の魂へ手を伸ばしたのだった。

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[ 熊猫 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: はすの|DATE: 12/06/2012 09:35:46|TITLE: カワイイ男ですv

熊猫さまーーvvありがとうございますv 意地っ張りでかわいげがなくて素直じゃないvなんて扱いにくい男でしょうかvv(*´ω`*)そんなネジを暖かい微笑みで迎えるヒナタ様マヂ天使vv( ´艸`) 本当は会いたくて会いたくてたまらなかったくせに・・・vv(*´ω`*)♂♂うりぃりぃりぃ~~

「初めての友達」

TAG: 吸血鬼 (8) /サクラ (4) /ネジ (54) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(4) |DATE: 12/09/2012 00:54:18

entry-50を描きながらentry-4とかentry-2とか色々まざっちゃった妄想駄文↓
[ 本文 ]





どうやら裏で糸を引いていたであろうヒザシが行方をくらませたので
件の子供がいかにして城に入り込んだかは結局判らずじまいだった。
 

決しておざなりにしていい問題ではないがそんなことよりも、
ヒナタの最初の反抗が「城を出る」という最大の禁忌だったことが
何よりネジを慄然とさせた。


王女のようにかしずかれ、不便や苦痛、恐怖の一切を知らずに育ったヒナタが
ただ一人の「自分以外」であり「従者」であり「家族」であったネジに頬を打たれ
悲しみか驚きか痛みか、静かに戦き涙を流してもネジの怒りは治まらなかった。
 

小鳥のように震えるヒナタの腕を掴み、それこそ57年目にして初めて部屋から出した。
ヒナタが焦がれた未知の「世界」が、いかに醜悪で残酷かその目に見せ付けるために。


意外な機転を利かせてまんまと人間の子供を逃がした後ずっと
しくしく泣いていたヒナタは、城の地下牢まで文字通り引き摺られ
自室にあるそれとは似ても似つかぬ鉄格子の向こう側に
かろうじて呼吸するいきものを認めて小さく悲鳴を上げた。
「よく見なさい」
完全に血の気を失ったヒナタに、ネジは容赦なく言う。
「外の世界に出て、陽射を浴びればあなたもああなる」
それは全身が卓上の獣肉のように焼け焦げて、
血の赤と肌の黒、所々に骨の白でしか判別できない男の姿だった。



 
本当は違う。
おそらくヒナタにとって陽光は綺麗に澄んだ水のようなものだ。
目に美しく肌に心地よく、潜れば吸気を隔たれるが
水から上がれば何ら危険はないと本能的に知れるもの。
 

もしも意思を持って影に逃げず苦しみに耐えてもいずれ気を失い
「蝙蝠」がひとりでに影を探し、主の体を護って事なきを得るだろう。
太陽の光でこんな火傷を負うことができたバンパイアなど
永き日向の歴史を振り返ってもネジは一人しか知らない。
 

転生したばかりの我が子に折れた羽根をかざして三ヶ月間、
灼熱の砂漠に骨まで焼かれながら正気を失わなかった男。
今この地下牢で一人死を待つヒナタの父以外に、ネジは知らない。
 

しかしネジはヒナタの恐怖心を煽り立てるように
――さしずめ人間の親が幼い子供にしつけの目的で
「悪さをすると吸血鬼がさらいに来るよ」とでも言うように、
「外に出ればあなたもああなる」と繰り返し言い聞かせた。




…でも、
吐息のような声でヒナタは言った。


でもあの子はきれいだった。
目は六連星のように煌き、
頬はエデンローズのように愛らしく、
唇は果実のように可憐で
その全てが生気に満ちていた。
「おそとで遊べば、ヒナタもすぐ元気になるよ、…って」


ぼたぼたと涙をこぼして独り言のように呟くヒナタは
ああ私はなんて馬鹿な期待をしたんだろうという顔で
しゃくり上げながら幼い夢に絶望した。
 

「ごめんなさい…」
 

あんな子にだまされて、危ない目に遭うところだった―――
眩しい外の世界になど、浅はかにもあこがれたなんて―――


ごめんなさい
ごめんなさい
 

ごめんなさい
もうぜったいに、
 

言いつけに背いたりしません
 

眉間にしわを寄せ歯噛みするように泣きじゃくる姿を見てネジは
ヒナタがすっかりネジの思う通りに落着したと安堵するばかりか
伯父と従妹に対する非道な振る舞いを恥じさえしたのに
 




だから、サクラちゃんには




「サクラちゃんには、何もしないで」
ヒナタの口からネジの知らぬ名を聞いた時、やはりあの子供は追うべきだったのだと舌打ちした。
 

 


 




ヒナタが二度目の「純化」を遂げ、父が遺した「黄金の牙」を手に宿縁の戦いへ身を投じた後
世界屈指のバンパイアハンターとなった「初めての友達」とあいまみえるのは…また別の話。

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[ 重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: はすの|DATE: 12/09/2012 07:21:52|TITLE: 超大作ぅ・・・・┌(┌^o^)┐

そして「狩るもの、狩られるもの」に続く(`・ω・´)なるほどーv 人を助けるヴァンパイアヒナタとヴァンパイアハンターサクラの一騎打ちとかー 巨大な悪に共闘して挑むとかー 思わずヴァン・ヘルシングをもう一度みたくなりましたv 正義のヴァンパイアヒナタさまも幼い頃はあんなにカワイイお子さんだったんですねーv^^ほっこりv

AUTHOR: 重吉|DATE: 12/09/2012 10:55:40|TITLE: サクラとヒナタは敵対しても共闘してもおいしい!!

この話、サクラが主人公だったら幼い頃友達になったバンパイアと大きくなって敵対する立場で再会して、誤解を乗り越え→仲良くなると思いきや、男性関係で再び亀裂→スパイダーマンのハリーみたいに美味しい所で共闘→ヒナタ戦死というルートを妄想して泣けてきた(´;ω;`)ブワッほっこりする話がいいやっぱ!

人魚姫

TAG: 人魚姫 (22) /? (5) /るらしゃ (1) /イラスト (51) /小説 (39) |DATE: 12/10/2012 22:14:20


お久しぶりです。去年の企画にも参加させていただき、今年もおじゃまさせていただきました♪
お題難しくて悩んだんですが…「人魚姫」で。


ものすごいねつ造ですが、ミニストーリーつけてみました…。
こちらの規定に外れていたらすみません。
問題あるようでしたらお知らせ下さい…。


クオリティ高い作品ばかりで眼福すぎる…!
こんなレベル低っ!!な作品で失礼します^^;。
時々のぞいて作品が増えるのを楽しみにしています♪
素敵企画、ありがとうございました♪
[ 本文 ]

ある日王子が砂浜を歩いていると、
それはそれは美しい人魚姫に出会い、一目で恋に落ちてしまいました。


人魚姫はどうやら声が出ないようでした。
砂に指で字を書きながら、自分の声は魔法使いの持っている小瓶のしずくに閉じ込められており、
それを取り戻せば人間になれるとのことでした。


王子は魔法使いのところへ行き、さまざまな試練に打ち勝って小瓶を手に入れることができました。
小瓶のしずくを人魚姫に飲ませると、人魚姫はみるみる美しい少女に変わりました。


彼女は自分の名前を「ヒナタ」だと伝えました。
その声は小さな鈴をころがすような、ひそかなかわいらしい声でした。


王子と美しい少女は、愛し合うようになり、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

王子は、特に誰とも指定しておりません^^;。

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[ るらしゃ ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: 重吉|DATE: 12/12/2012 07:09:51|TITLE: オシャレな絵本の挿絵みたいです…vv

るらしゃ様お手数おかけしました!ご投稿ありがとうございます♪ イラスト、とっっても素敵ですね! 本当にこの世のものではない不思議で魅惑的な空気が漂っていて、 このイラストにこのお話はぴったり合うなあ…と思ってしまいました(*´U`*)v

AUTHOR: はすの|DATE: 12/12/2012 19:37:38|TITLE: 人魚マイブームvv( ´艸`)

るらしゃ様vvお久しぶりですvヽ(*´∀`)ノ 今年もご参加ありがとうございますvるらしゃさん……ってわたしの願いが届いた!!(。◕‿◕。) やはり日頃の行いでしょうかv← 人魚姫~~☆彡幻想的で朧げで目を離したら消えちゃいそう・・・( ⊙‿⊙)なので血眼でみますv素敵ストーリーセットで美味しく頂きましたvありがとうございましたvv

AUTHOR: るらしゃ|DATE: 12/12/2012 22:00:32|TITLE: お手数おかけしました。ありがとうございました!

>重吉さま メール読みました!いろいろお手数おかけしました。すみません>_<。 無事に投稿できてほっとしてます…!アドバイスありがとうございました! な、なんか、もったいないお言葉をたくさんいただきまして…。ヒエー…汗。 いえ、もんのすごくうれしいでございますT_T…。 素敵なコメントくださってありがとうございました…!! これもきっとヒナタ愛のさせるわざじゃー!と叫んでおきます笑。 企画運営お疲れ様です!今後もこちらをちらちらのぞいてますんで! >はすのさま お久しぶりです!今年も…図々しく参加させていただきました…笑。 はすのさんの願い…??え、私の参加のことでしょうか…?? 今年の参加を期待してくださっていたということ…なんでしょうか?…ドキドキ。 そうだとしたら、うひゃーすごいうれしいです。ありがとうございます! うれしすぎる素敵なコメント、本当にありがとうございますT_T ストーリーも規定に沿ってたかな…。よかったです。 美味しく召し上がってくださったそうでなによりです♪ 企画運営お疲れ様です♪今後のみなさまの投稿を楽しみにしています^^

日刊ゴーストファイブ 告知

TAG:人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/14/2012 13:56:39

幽霊戦隊ゴーストファイブ THE MOVIE《クラーケンの至宝》


055.jpg
日刊連載(たぶん)決定!!
毎日一話ずつ(たぶん)掲載されますのでお楽しみに!!


「幽霊戦隊ゴーストファイブを見る時は部屋を明るくしてPCから離れて見てくださいね☆
 ホワイトアイズのお約束でした……こ、これでいいの…かな?///」
「船長それぴーしーじゃなくてぱそこんって読むんですよ」


 *[日刊ゴーストファイブ]は毎日0時0分に自動更新されます。  *挿絵は若干早めに上がりますのでアルバムにて「次回予告」としてお楽しみください。  *これにより21:00~24:00までに投稿された作品については   翌日0時以降に投稿時間を改めさせて頂く場合があります。ご了承ください。

 

※日刊ゴーストファイブは 至宝/幽霊戦隊ゴーストファイブより派生した悪ノリです。

[ 本文 ]
【ゴーストファイブ主な登場人物・他】
日向ヒナタ/ゴーストレッド: 幽霊船「ホワイトアイズ」号の13代目船長で「火」のゴーストを操る、 優しく純粋な心を持つ少女である。 内気で恥ずかしがりの面があるが、 人命救助のために無茶をしてクルーから叱られることもしばしば。 生まれつき片目が見えず常に眼帯をつけている。その眼帯の下を知る者は数少ない。
日向ネジ/ゴーストブルー: 「ホワイトアイズ」のクルーで「水」のゴーストを操る。 船長ヒナタとは双子の父親を持つ従兄妹同士。 ヒナタを守るためにはどんな手段も厭わないところがある。 生真面目な性格で警戒心が強い。少年ネジに強い疑念を抱いている。
日向コウ/ゴーストブラック: 「ホワイトアイズ」のクルーで「天」のゴーストを操る。 「ホワイトアイズ」の航海士、そして船長を支える参謀でもある。 穏やかな性格で、先代船長の時代からヒナタとネジを温かく見守っている。
日向トクマ/ゴーストグリーン: 「ホワイトアイズ」のクルーで「地」のゴーストを操る。 コウと同年齢だが陽気な性格でふざけている時が多く、 余計な一言が多いためホヘトやコウによく叱られる。 しかしその性格に多くのクルーの心は救われている。 ホワイトアイズのムードメーカ的存在。
日向ホヘト/ゴーストイエロー: 「ホワイトアイズ」のクルーで「風」のゴーストを操る。 ゴーストファイブ最年長で、幼くして親を失ったヒナタとネジを 実の子のように愛情かけて育ててきた一団の父親的存在である。

黒子: ゴーストファイブの戦闘や普段の生活をサポートするクルー。 黒子は大勢いてたまに画面の隅を動き回るが映っていないことにするのがお約束である。

リトルネジ: 海を漂流中「ホワイトアイズ」に拾われた少年。 記憶障害で自分のことは何一つ覚えていないが、マーメイド・ラグーンの地形に詳しいことから「ホワイトアイズ」に同行することとなる。 幼い頃の日向ネジに似ていることからホヘトが「ネジ」と名づけた。 船長ヒナタに並ならぬ執着を見せる。日向ネジとは犬猿の仲。

クラーケン: 海の悪魔と呼ばれる巨大な大蛸。マーメイド・ラグーン近海に踏み込む船を沈める破壊者。 人魚の棲家を守っている。

人魚姫: 美しい歌声を持つ美しい人魚。この声で船乗りを魅了し海へと誘う。 近寄ればたちまち恐ろしい姿へと変貌し、鋭い牙と爪で人を襲い切り裂いて食べる。 

クラーケンの至宝: どこかの海の最も深き場所で眠るとされている宝。 その実態は生物とも金銀財宝とも、はたまた海を流れる海流の名前とも言われているが、いずれも多くの船乗り達の恐怖と野望の対象であることに間違いない。

マーメイド・ラグーン: 珊瑚礁が円状に隆起してできた塩湖の海域。 かつてラグーン周辺には多く人魚が住んでいたと近隣諸国に伝えられている。 周辺の海は数十年前までは美しい珊瑚礁が続く海だったと言われるが、 現在では珊瑚の死骸が白く浜を覆う死の海となった。 塩湖は深い海溝となっており誰も立ち入ったことがないが、ここにクラーケンの至宝が眠ると噂されている。

マーメイド・ライン: このあたりの海に流れる海流の呼び名。穏やかな海流で荒れることもなく水難事故も起こりにくいと有名な海流。 しかしここ近年マーメイド・ラグーン周辺で数多の船の沈没事故が相次ぎ、徐々にその範囲を広げつつあった -

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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

日刊ゴーストファイブ 00/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/14/2012 14:04:22

【プロローグ】

[ 本文 ]

かつて七つの海を統べる強大な力をもつ海賊団が存在した。
その海賊団の名は「ホワイトアイズ」


世界の海を旅し、海に眠る財宝を手中に収めていた彼らは、そこから得た利益を貧しい小国の民に分け与えるなどし、広く平民に愛される海賊団でもあった。
しかしそれをよしとしない多くの海賊たちは、裏でホワイトアイズを沈める計画を立てていた。
調停を結んでいた海賊達の裏切りに合い、最強の海賊団ホワイトアイズは集中砲火を浴びせられ、たちまち船は火の海と化した。
女子供も容赦ない海賊達から二人の幼い子供を守るため、ホワイトアイズの屈強の男たちは子供を燃え盛る船から連れ出した。
船長ヒアシとその弟、ヒザシはホワイトアイズの誇りを守るため最後まで船に残り戦った。
幼いヒナタとネジは燃えながら沈んでいく船と、誇り高い父親達の最後を泣きながら見送った。


それから13年後~ヒナタとネジは逞しく成長していた。
呼びかけに答え世界に散った仲間たちは再び集結し、ホワイトアイズは新しく生まれ変わった。
復活を果たしたホワイトアイズの名は瞬く間に世界に広まっていった。
しかし、新生ホワイトアイズには先代と大きく異なる点があった。


13代目船長である日向ヒナタは海賊団ではなく貿易商に依頼された荷を世界各地へと送り届ける運び屋としてホワイトアイズを再興させていた。
貿易商たちは元海賊に重要な荷を預けることに当初は抵抗のあったものの、船長の人となりと確かな実績の積み重ねで今や絶対の信頼を得ていた。


そんなある日のこと、大国の重要極秘事項の依頼が舞い込んだ。極秘事項のため彼らには一切の情報を与えられていなかった。
普通の荷ではない、故にホワイトアイズに依頼がきたことは明白。彼らはその依頼を受け出航したのだった。


それが長い航海の始まりになるなどと、誰が思っただろうか…



順調な航海の途中、突然の嵐がホワイトアイズを直撃した。荒れ狂う海を船員たちは必死に船の体制を立て直そうと懸命に動いた。
その最中、あまりに巨大な為、甲板へと固定されていた積荷はワイヤーロープが負荷に耐えられず引きちぎれてしまった。
積荷は木箱から外に飛び出し、クルーたちは海へと落ちてしまわないよう、木箱からでた石櫃に集まった。


しかしその混乱に乗じたかのように海はさらに荒れ狂い、一行は仕方なく石櫃の中にあるものだけでも依頼人に送り届けるためその封を破り、蓋をこじ開けたのだった。
見るとその石櫃には何もなかった。しかし、不思議なことに石櫃はどこまでも深く底が見えないほど暗かった。そして石櫃の暗く深い底からどす黒く蠢くものが外へと出ようとしていた。


これは良くないものだ――一瞬で悟ったクルーたちは急いでその石櫃の蓋をとじようとした。だが、完全に閉じる前に内側からその蓋は弾き飛ばされ、勢いよく飛び出した黒い放出物はそれぞれが意志を持っているかのように空を覆い、放射状に散ってたちまち見えなくなった。


静まったかに見えた甲板で、ふたたび石櫃がガタガタと揺れだした。騒然とするなか、何かが石櫃から出てきた。
それはさっきまでのものと明らかに異種のものであるとひと目でわかった。
それは光り輝く金色のオーラを放った人の形をしたものだった。


人の形をしたそれはこの石櫃が何であるのか彼らに知らしめた。
これは「パンドラの箱」であると・・・そして自らを絶望の中、最後に残った希望「エルピス」と名乗った。


「パンドラの箱」かつて神々が人に災いを与えるため、この世に与えたもうた物―――この箱ははるか昔一度だけ開いたという――


長い苦しみの歴史がようやく終わり、休息を迎えられたというのに再び放たれた厄災は長き年月の中で新たな進化を果たしていた。
個をもった彼らは、より人らしいモノへと姿を変えたのだ。恐ろしい化物の姿へと・・・
残された希望であるエルピスは、再びこの箱へと厄災を封印する役割をホワイトアイズ一行に命じた。
原因を作ってしまった償いにと船長ヒナタはその申し出を受け入れた。
エルピスの言うことが真実ならば、この先に待つ運命は間違いなく絶望…


エルピスはヒナタの強い意思と、その勇気に好意を示し彼らに贈り物を与えた。
 エルピスの幽体の一部でもある5つの属性エレメンツを、持つにふさわしい資質をもった船員たちに力を与えた。
元は神の作りし存在であるエルピス、その幽体を宿した彼らは生命の樹の恩恵を受け、時間の枷を外された。
時間の経過による老いも死も存在しない、いわば生きながらにして死んでいるようなものだとエルピスは語った。
しかし再び箱に厄災が満ちたときエルピスもまた封印され、彼から分け与えられた力は再び彼に帰属するという。
人として生きるのはそれからでもいいだろう―とエルピスは彼ら語った。


5つの霊体を与えられた5人とホワイトアイズの乗組員たちは、世界を厄災から救うため、新たな航海へと出航したのだった。


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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

日刊ゴーストファイブ 01/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/15/2012 00:00:00

第1章【出会い】
[ 本文 ]

ホワイトアイズ一行は今日も大海原を行く。世界に散った厄災を全て石櫃に収め終えるまで彼らに安息の日は訪れない。


船長ヒナタは船室から出ると見張り台へとよじ登った。使い込まれた望遠鏡をキュッと引き伸ばして片目で覗く。穏やかな海、どこまでも続く水平線。
いつもの見慣れた海だった。
「……今日も異常なし……あっ!あれは………?」
望遠鏡を下ろそうとしたヒナタの目に常にないものが映った。
「子供……??」


「だれか錨を!!」
指示を聞いたクルーは急いで錨を海に沈めた。


「どうしたんです船長~」舵をとっていたトクマが間の抜けた声をあげた。


「子供が海に!早く助けないと!!救命ボートを…」


「その必要はない」
ヒナタの背後で冷静な声が響くと同時に、長い黒髪の青年が船を飛び降りた。


「ネジ兄さん!!」
青年が水面に降りる前に水柱が上がり、彼はそれを階段のように使うと、船の残骸にしがみついて気を失う少年のところまで移動した。


そっと手首に指を添え、脈を測る。微弱だが生きているのが確認された。
ネジが手で合図を送るとヒナタはほっとした表情を浮かべた。


その表情を見てネジは少年を抱え上げると来たときと同じように水柱をひょいひょいと駆け上がり船へと戻った。



「便利なもんだなぁ~~その能力!」
トクマが口笛を吹いてネジの背中をバンと叩いた。
ギロリとネジが睨む。
「なんだよー怒るなよ、褒めてるんだぜ?これでも」


そんなトクマを一瞥すると、ネジはヒナタに言われるままに船室へと入っていった。

医療用のベッドに横たえると、ネジは少年の服を脱がし清潔な寝巻きに着替えさせた。
着替える際には外傷がないかどうかチェックしたが大きな傷はないようだった。
しかし…


「ひどい熱だ…」
高熱にうなされながらも少年は目を開いた。


「君…大丈夫?」
心優しいヒナタは思わず身を乗り出して少年の顔を覗き込んだ。



その顔を見た少年はうなされながらも何事か口を動かすと再び意識を手放した。


ネジは常に寄せている眉間の皺をさらに深くして少年を見つめた。



それから数日後―――


ホワイトアイズは近隣の港へと入港していた。
補給と情報収集、そして今回拾った少年を医者に診せ、この船を降りてもらうために。


ヒナタは少年を連れて町医者を訪れていた。


「熱は解熱剤で収まるでしょう。衰弱が激しいようですが、きちんと食事をすれば元気になります。栄養価のあるものを食べさせてあげてください。
……しかし記憶の方はいつも戻るか…こればかりばどうにも…」


「……そうですか…」
ヒナタは隣に座る少年に目をやった。
気がついた少年は一切の記憶を失っていたのだ。生まれた場所も、自分の名前も、帰る場所すらこの少年は何も知らない。


この子をこのままこの島に置き去りになど……ヒナタは心を痛めた。
「ヒナタ様…」ヒナタの考えていることを知ってか、少年はすがるようにヒナタを見つめた。
でも私たちは普通の人間ではない…自分の甘さで幼い命を危険に晒すわけにはいかないのだ。



「……実は私たちは旅の途中でして…この子を連れて行くことはできないのです…幸いこの子は船乗りの知識があるようで…どこか雇ってくれるところが見つかるまでここで面倒を見ていただけないでしょうか……もちろん当面のこの子の生活費はお支払いいたします…」


「ふむ…そういえば人の手を欲しがっていたものが知り合いにおったような……、わかりました。彼は私が責任もってお預かりしましょう」


「ありがとうございます、よろしくお願いします!」


そんな二人のやり取りを少年は絶望した面持ちで眺めていた。
護衛を務めるネジはそんな少年を静かに見つめていた。



町医者を後にしたヒナタは何度も何度も後ろを振り返った。
窓の外から少年がこちらを見つめているのがわかった。
不思議と少年は駄々を捏ねるわけでもなく、ヒナタのいうことをただ黙って聞くと頷いた。


「いい加減にしてください船長…あなただって解っているからあの子を預けたのでしょう?」


「はい…でも…なんだか可哀想で………何も解らない場所に一人の残されるだなんて…あんまりです…」
トボトボとネジの後ろを歩くヒナタが泣き出しそうな顔をしていた。
少年は涙も見せなかったというのにあなたが泣きそうになってどうする。
とネジは思わず舌打ちした。


「大丈夫だ!どこでだって生きていけるさ!だからあなたが泣く必要はない!」


思わずヒナタの手首を掴みネジはヒナタを引き寄せて言った。



「……あ…ごめんなさい…ネジ兄さ…ん」



「……いえ……オレも言いすぎました……すみません…」



その夜―――


「でね、街でちょっと気になる話を聞いたんですよ…」


話し好きのトクマは、街であらゆる情報を掴んで持ち帰ってくる。


必要な情報とおなじくらい余計な情報も多い。とにかく話が長いのだ。



「……必要なことだけ話せよ?トクマ」


彼が何かを言う前に幼なじみのコウが一言添えた。


もちろん必要な情報は彼らにとっては厄災の事の他にならない。
「………わぁったよ…ちぇっ…」
壇上から引き摺り下ろされたような顔をするとトクマは語りだした。





「人食い人魚と大蛸か……」
一通り話を聞き終えるとコウが考え込むように反芻した。


「出現し始めた時期も重なる点が多いし…これは行ってみる必要がありそうですね」
コウはそう言うとヒナタを見た。
ヒナタは集まる視線に対し、強く頷いて見せた。



「それが本当なら今回は一度に二体の相手をしなければなりません……装備を今一度確認してから出航しましょう」


「分かりました、至急物資の確認作業をして足りないものは明朝追加で補給し、準備が出来次第出航だ。トクマ、その場所はきちんと把握しているのか?」


「愚問~~っオレを誰だと思ってんだよ」


トクマは海図を広げると迷わず一点を指差した。


「ここだ!」



翌朝甲板は物資の積み込み作業が急ピッチで行われていた。
そのころ停泊するホワイトアイズの船尾に近づくちいさな人影があった。
船尾には誰もおらず、侵入者は身軽に船と港との隙間を軽々と飛び越え船内へと入った。


侵入者に気がついたのはホワイトアイズが既に港を出航してから随分沖へと出た頃だった。



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[ 絵:重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: 空也|DATE: 12/15/2012 07:34:04|TITLE: 面白い!

すてきです(*´∀`*) お二人のコラボ最高!引き続き楽しみにしております^^/

AUTHOR: 重吉|DATE: 12/15/2012 08:48:15|TITLE: ありがとうございます!

空也さんコメントありがとうございます~v 最終日まで続く日刊ゴーストファイブを今後もどうぞよろしくお願いしますv 引き続きがんばります!!

AUTHOR: サウザント・広|DATE: 12/15/2012 20:11:13|TITLE: すばらぴ~♪ (・o・)/

はじめましてこんにちは、来年3,4月ごろに会員登録予定のサウザント・広です。

AUTHOR: サウザント・広|DATE: 12/15/2012 20:20:52|TITLE:

はすのさん、重吉さん。毎回お二人のイラスト・小説を見させていただいてます。 日刊ゴーストファイブ…、めっちゃおもろいです! \(^^)/ 残念ながら、現在のわたしは会員登録をしていないので、閲覧しかできませんが、コメント内でまたお会いすることがあれば、ぜひ、参加させてくださいませ! あわよくばワタクシの書く小説とコラボレーション(!?)もさせてくださ~い(ムチャ言うな)

日刊ゴーストファイブ 02/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/16/2012 00:00:00

第2章【新しい仲間】
[ 本文 ]


「……どうするコイツ?」
トクマが面白そうにコウに振ってきた。
そんなトクマをじろりと睨むとコウは現実を捉えながら言った。
「どうするって…もう引き返すことはできない…、かと言ってこんな沖で下ろすわけにもいかないだろう。もしものときのためにボートは無駄にはできないし…」


「しかしなぁ…みすみす危険な場所に子供をつれていくなど…」
最年長のホヘトが子供に目をやりながら頭をバリバリと掻いた。
大人たちの会話を少年はヒナタの影に隠れながら聞いていた。


「……オレっ、船のことならなんでも手伝うからっ!それにあなたたちが行こうとしている場所のこと、オレはよく知ってる!だからお願い……ここにいさせて!」
たまらず少年はヒナタの陰から出てきて言った。


「だってさ、どうする?船長」
トクマはヒナタへと返答を求めた。


一同の視線が集まる。


「……わかりました、あなたの同船を認めます。ただしここでは私や皆の言うことをちゃんと聞くこと。そしてこの一件が終わったらあなたをさっきの島で降ろします、いいですね?」


「はい……」


毅然としたヒナタの言葉に少年は一つ返事で頷いた。


「で、この小僧なんて呼んだらいいです?名無しじゃ用を言いつけるのもいちいち面倒じゃないですか」


「……ホヘトさんこの子に名前をつけてあげてもらえませんか?」



「え?オレがですか、船長?」


「うん…だって……ね」


幼い自分をここまで育ててくれたホヘトはいわばヒナタにとっては実の父親も同然だ。
ヒナタはホヘトに対してはいつまでも子供のような仕草を残していた。
そんなホヘトにネジの視線が刺さる。


「(睨むな、睨むな…)うーんそうですねぇ……」
ホヘトは少年の前にしゃがみこむとその顔をじっと見た。壁に寄りかかるネジの顔がちょうど少年の顔に並ぶ。



「っ!!!!!決まりましたよ船長!」


以外に早い決定に一同は目を瞠った。


「この子の名前は【ネジ】だ!!」



ジャジャーーンという音がどこかで聞こえた気がした。


「え?」一同の声がハモる。




「あ、あの…ホヘトさん…ここにもネジ兄さんがいるんですけど……」
ヒナタは恐る恐るホヘトへと声をかけた。


「いや~~だってこの坊主どこかで見た顔だと思ったら、ガキのころのネジにそっくりなんですよ、コウ、トクマお前らよく見てみろよ、なぁ、そう思わないか?」


「え?そうでしょうか―――ネジはもっと憎たら…あ、いや…ゴホン 」
「どれどれー?俺にも見せてくれよ」


大の大人三人に見つめられ少年は思わずヒナタの影に隠れた。

「もうっ…皆さん子供相手に大人気ない!…怖がらせないでください!!」


「……確かにそうかもしれません」

「確かにどころかこんな可愛げのないガキがこの世に二人もいるなんて驚きだよなぁ、オイ!」
トクマはカラカラと笑うとネジに近づいた。


「お前もそう思ってんだろ?似た者同士仲良くしてやれよな。小僧に船のこと色々お前が教えてやるんだぜ!」


「……どこが……まぁ船の雑用はオレがしっかり仕込んでやりますよ、この船で勝手な真似をさせるわけにはいかないですからね」


肩に置かれたトクマの腕を払うと、ネジはヒナタの影に隠れる少年の腕を掴み取り引きずり出した。


「痛っ……」


「…ネジ兄さん、子供相手に乱暴なことは…」


「こいつの教育係はオレです、船長は口出ししないでください」



「ごめんなさい……」
ピシャリと言われヒナタはシュンとうなだれた。


「ネジの言うことは最もです。もと海賊船に隠れて乗船するくらいの度胸も体力もありそうですし、そんなに心配することもないでしょう大丈夫ですよ」
うなだれるヒナタの小さな頭を優しくコウが撫でるとヒナタも少しだけ浮上した。


「う、うん……それもそうね。男の子だものね…じゃあネジ兄さん、ネジくんをよろしくお願いします」


「…………やはりその名前は決定なんですね、まぁ船長がそれでいいのであればオレは別に構いませんけど…」


諦めた様子のネジは幼いネジを連れて下層部へと降りていった。


出港して数日後のこと………
一行は目的のマーメイド・ラグーンへ続く航路マーメイド・ラインに入った。
あとはこの海流に沿って行けば自ずと【彼ら】に遭遇するはず…
ヒナタはあたりを見渡し固唾を飲んだ。
今まで何度となく厄災相手に死闘を繰り広げてきたが、その度に緊張が体を支配する。
彼らとて望んで厄災として生まれたわけではないのだ…
しかし彼らを野放しにして罪のない人々を苦しませるわけにはいかない……。


できるだけ苦しませずに封印できたらとヒナタは願うのだった。
すると一人佇むヒナタから紅蓮の炎に包まれた小さな火蜥蜴が現れた。


それはヒナタの腕に尾を絡ませ、長い舌で彼女の頬を舐めた。



「慰めてくれるの…?ありがとう…君は優しいコだね…」



ヒナタは火蜥蜴の頭から胴体へと撫でさすった。
燃える体だがその熱はヒナタ自身に害をもたらさない。
ヒナタの能力の元である火のエレメントの具象化した姿が小さく可愛い火蜥蜴で、今ではすっかりヒナタになついていた。
魂の結びつきが強いため、ヒナタの能力はほかの誰より群を抜いて強かった。
が、それゆえにヒナタは己の力を持て余すことが度々あった。


そしてヒナタの体にはある小さな異変が起こり始めていた
「ま、またっ?!…い、一体何が……?!」
ヒナタは眼帯の上から目を抑えた。ヒナタの動揺に火蜥蜴は煙の様に消えていった。


生まれた時から光をもたない片目。今まで一度だってなんの感覚も覚えなかった目が疼く。
痛みではない…言うなれば何かに共鳴するかのように響いているのだ。


異変はマーメイド・ラインに入ってから始まったように感じる。
この先使命の他に、別の何かが待っているとでも言うのだろうか。
ヒナタは船首に立つと水平線を見つめた。


「船長?」
遠くから呼ばれヒナタは振り返った。


「あ…ネジくん」


「どうしたんですか?どこか痛いのですか?」
幼い少年、ネジが荷物を置くとトコトコと走り寄ってきた。


それを見ているとほんとうに幼い日の従兄ネジを思い出す。そしてもっとはるか遠い記憶を揺さぶられるような不思議な懐かしさを覚えた。


片目を抑えていた手を外し、なんでもないとヒナタは少年ネジに笑いかけた。


「それにしても穏やかな海ね……こんなところに恐ろしい化物が出るなんて信じられないよね…」


「……かつてここは人魚が歌を奏でる平和な海でした……そして人魚姫は誰よりも優しく慈愛に満ちた人だった…クラーケンはそんな彼女を愛しずっと見守ってきた…」


記憶のないこの少年は、マーメイド・ラグーンに関する記憶だけは残っていたようで、近海のことにも熟知していた。


ポツリとネジが小さい声で遠くを見つめて語った。


その横顔はひどく大人びて悲しそうに映る。


「……ネジ……くん?」


「………とオレはずっとそういう風に聞かされてきました…」


そう言いながらヒナタの方へと向き直った少年の顔は年相応に戻っていた。



「そう……素敵なお話なのね…もっと詳しく聞かせてもらえるかな…?」


「船長が望むのなら…喜んで」


甲板に腰掛けたヒナタの隣に少年は座ると昔々の御伽噺を語り始める。
その二人の様子をネジは見張り台から静かに見下ろしていた。




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[ 絵:重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: サウザント・広|DATE: 12/16/2012 11:15:44|TITLE: ホヘトさん…! (爆笑)

日を改めまして、こんにちは、広です!  またしてもおもろいストーリーww ホヘトさん、確かに似てるちゃあ似てるけど、そのネーミングセンスゥフフフ(笑い過ぎ!!) 最後の最後まで楽しんで読ませていただきます!!ムチャを言うかもしれませんが、この小説…、どっかに保存したい!! (確かにムチャだ…)

AUTHOR: はすの|DATE: 12/16/2012 19:30:50|TITLE: ありがとうございます

>広様 こんばんわ(´∀`)連日コメントくださりありがとうございます。 日刊ゴーストファイブ楽しんでいただけて嬉しいですv 最後までぜひよろしくお願いいたしますv 保存…そこまで゚(゚´Д`゚)゚ありがとうございますv

日刊ゴーストファイブ 03/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/17/2012 00:00:00

第3章【海の悪魔】  
[ 本文 ]

夕食を取った後、円卓を一同が囲み地図を広げた。


「我々は今この辺り……情報によると大蛸が出現するのはここからここまでの区間が多いらしい…」
コウが地図を指差しながら説明する。


「広い海原での戦闘はおそらく大蛸の方が有利だろう…、よって勝負はマーメイド・ラグーンで行うべきと判断した。少年ネジが言うにはこの辺は諸島の多い浅瀬の続く海だという。巨大な大蛸は動きが鈍るだろう…ここに持ち越すまでは船を沈ませないことが先決だ」


「こんな浅い海をこの船で行こうってのか?!下手すりゃ浅瀬に乗り上げて身動きできなくなるぜ?!」


トクマが慌てたようにコウに切り返す。


「そのためにお前の力が必要なんじゃないかトクマ、お前の能力を使えばどんな地形だってうまく切り抜けられるだろう?」


「あ、そうかっ……!」


「まったくお前は自分の力をいつも忘れすぎだ……だからいつまでも使いこなせないんだ…」
コウががっくりとうなだれた。
「まぁまぁ、そう落ち込むなよ、コウ」
カラカラと笑顔を浮かべてトクマがコウの肩を叩いた。


「………ハァ…」
コウが盛大なため息を吐いた。


「まずは護りを固めることが先決ですね…巨大な蛸の足はひと振りで船を大破させると聞きます…ひと振りもこの船に下ろさせるわけにはまいりません…」
ヒナタが強い言葉でいうと隣のホヘトが大きく賛同し力説した。
「ですね!ここは一つオレの風の力でその蛸の脚を全てぶった切ってやろうじゃありませんか!」


「それにオレの天の力でアイツを内側から焼き尽くしてやりますよ。水属性にはオレの能力が一番効果的でしょうから」
コウが気を取り直してヒナタに笑顔を浮かべた。


「オレは…後ろから波を作って船を加速させればいいか?」


今まで静かに壁に寄りかかっていたネジが硬い口を開いた。


「そうだな、あとはトクマの舵取り次第ってことだ!」
ホヘトは力強く頷くとネジの頭を掴んで撫で回した。


「わっ、ちょっ!…やめてくださいよホヘトさん!」


「なぁに久しぶりに出来のいいお前を褒めてやりたくなったんだよ!」


がははと笑いながら尚もネジの髪をぐしゃぐしゃにかき回す光景をヒナタは笑顔で見ていた。


護ることに関して何のスキルもない自分に気落ちしていたヒナタだったが仲間を見ているとそれでいいのだと言われている気がする。


そんなヒナタの袖をくいっと小さなネジが引っ張り笑顔を見せた。


彼もまた自分を元気付けてくれているのだろう、ヒナタはネジへと微笑んだ。


束の間の穏やかな夜が更けていった。




翌日、豹変した海の様子に一同は驚きを隠せなかった。


海の墓場―――例えるならこの言葉しかない。


あたりは破壊された船の残骸が漂う死の海だった。生きているものなど居るはずもなく海鳥一ついない。生物は皆恐れをなしてこの海域には近寄らないのだ…


ここに近づくのは欲に駆られた人間と、哀れにも何も知らず人魚に引き寄せられた人間のみ。


その時ヒナタの眼帯の下の目が強く反応を示した。


ナニカガクル―――!!


ヒナタはすぐに理解した。これは警告なのだ。



「全員衝撃に備えて!来ます!!」



ヒナタは小さなネジを抱きしめると近くに伸びたロープを手繰り寄せ強く体を固定した。


「いいか!今は戦うことは考えるな!!まずはアイツを誘い込むことだけを考えるんだ。いいなっ!!」
ホヘトが声を張り上げて叫んだ。



静かだった海に地鳴りが響き水面に黒い影が見えた。


想像よりもその影は大きく、次第に水面を盛り上げてその正体を見せた。
過去に見た白長須鯨が可愛く見える…とトクマは思った。
真っ暗なその大蛸は巨大な目を船に向けた。


「………なんてでかさだ……こんなの初めてだぜ……こりゃ、一撃でもくらったらマジでヤバイな!」
あまりの巨大さに一瞬あっけにとられたトクマだったがすぐに気を取り直して舵を強く握った。


「総員戦闘開始だ!!ありったけの弾薬を放て!!アイツを船に近づかせるな!!」


コウが指示すると船の側面から砲台が現れ大蛸めがけて一気に発射された。
次々と発射された砲弾が的の大きな大蛸に当たり、流石にひるんだのか少しだけ距離を取った。


「よおし!今だネジ!!」


「了解!」


船尾に立ったネジは両手をかざすとその両手から水竜が現れた。その水竜が海へと放たれると沖合から巨大な波を作り上げ、船を後ろから押し流した。


「いい波だ!よしこのまま一気に突き放せ!」
ホヘトは船へと振り下ろされようとした大蛸の脚を風のカッターで切り落としながら叫んだ。


「……すごい……」
ヒナタは仲間の活躍に目を瞠り呟いた。そして自分も戦わねば……とヒナタは思った。


固定していたロープを外しヒナタはネジに語りかけた。


「これからちょっと揺れるかもしれないからネジくんは船室で大人しくいい子にしててくれるかな?」


ネジは小さな頭をふるふると横に振るとギュッとヒナタに抱きついた。


「おい、小僧、船長のいうことは絶対だといっただろう!大人しく船室に行けよ」
イライラと眉間に皺を寄せたネジが少年ネジを引き剥がしにかかった。


「や、やだっ!オレはヒナタ様と一緒がいいんだ!引っ込めおっさん!」


「お・・・・っさ?!」
「・・・ネ・・・ネジ兄さん・・・」
固まるネジに恐る恐るヒナタは声をかけるが・・・・



「こらネジ!!持ち場を離れるんじゃあない!追いつかれるだろーが!!」


後ろを見れば勢いが弱まった背後から大蛸が猛スーピードで迫っているのが見えた。


「なんだと……?!」
ネジは慌てて再び波を作り出した。


「どういうことですかあいつの脚!減ってないですよホヘトさん!!」
コウが雷撃を放ちながらもホヘトへと叫んだ。


「切っても切ってもまた生えてきやがるんだよ!!まさに海の悪魔だぜ!!こんな相手は初めてかもしれねぇな!!」


どこか楽しそうに見える彼は生粋の海賊なのだ。
それでもこんな状況のなか笑える仲間が頼もしい…ヒナタはそう思った。


「船長、何を――?!」


ネジの隣にヒナタが移動するとヒナタの腕から火蜥蜴が現れた。


「攻撃は最大の防御ともいいますからね」


ヒナタはネジに笑いかけると、小さく愛らしかった火蜥蜴は巨大な沙羅曼蛇へと姿を変えた。


「ごめんなさい!」
ヒナタがそう言うと沙羅曼蛇はヒナタの腕から離れ背後から追う大蛸に絡みつき炎で包んだ。


大蛸はもがき苦しみながら海へと沈んでいった。沈みながらもその炎は消える様子もなく尚、燃え続けていた。



一同が言葉を失う中、一番驚いていたのはヒナタ自身だった。


やはりこの海域には何かあるのだ……眼帯の下が今どうなっているのか…ヒナタは自分に畏れを抱いた。




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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: |DATE: 12/17/2012 00:26:47|TITLE: スズシロ

毎日楽しみにしています。 頑張って下さい。

AUTHOR: はすの|DATE: 12/17/2012 09:14:08|TITLE: ありがとうございます

>スズシロさま 応援メッセありがとうございますv 楽しんでいただけたら幸いですvo(^▽^)o

AUTHOR: サウザント・広|DATE: 12/17/2012 21:26:22|TITLE: ……! (スゴ過ぎて言葉にならない)

こんばんは、17日の夜中9時に読んじゃったワタクシ、広でございます。 (何やってんねん!!) 前回のコメントのお返事、ありがとうございます! 待っておりました、うれしい限りです!! (喜び過ぎ…) 今回のお話も、チョーカッケェー!!! (・□・)ノ 読みながら大興奮…(笑) …ところで、この小説、――どうやって保存すればよろしいでしょう~~!!(焦) 教えて~~くださ~い~~!!(泣)

AUTHOR: はすの|DATE: 12/17/2012 22:31:02|TITLE: えっと…

>広さま いつもありがとうございます(ノ∀`)どこまで楽しんでいただけるか内心ハラハラしはじめておりますv…えと、保存の件ですね。 て、企画終了後はサイト格納しますのでよろしければそのページをブックマークされるなどしたほうがPCにも軽いと思いますv┌(┌^o^)┐

日刊ゴーストファイブ 04/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/18/2012 00:00:00

第4章【ネジVSネジ】
[ 本文 ]





「や、やったのか……?」
ホヘトはもう黒い影が追ってこないのを見て戦闘態勢を解除した。


「いえ…まだです…倒せたなら厄災を火蜥蜴が連れて帰ってくるはずなのにあのコしか帰ってきませんから…」


「ってことはまだ生きてるってことか……とんでもない野郎だな」
ホヘトが思わず吐き捨てるように言った。


「今のうちに体制を整えよう、破損した箇所の修善を急げ!」
コウが冷静な指示を次々と部下に与えていく。


「我々はこのままマーメイド・ラグーンを目指しましょう!今なら大蛸の守りもない」


コウがヒナタへとそう提案する。ヒナタも士気の高まっている今がチャンスと捉えた。目の疼きもどんどん強くなっている、早く決着をつけなければと思い、肯定の言葉を言いかけたその時―――


バタっ 



ヒナタの後ろで何か音がした。
見ると小さなネジが甲板に倒れ伏していた。


「ネジくん?!」


倒れたネジに駆け寄りヒナタが抱き起こした。


「なっ…どうしてこんなに?!」


さっきまで彼の体温は通常だった、むしろ彼の体は幼い少年だというのに体温が低い方だった。しかし、今は燃えるように熱くなっている。


「だ、大丈夫です船長…オレに構わないで……はやく人魚を…」


「何言ってるの!こんなひどい熱……!」


ヒナタはネジを抱き上げると船室へと連れて行った。


ありったけの氷を砕き氷嚢に詰めると、ネジの体温を下げるため次々と体に当てていく。


先ほどまでの騒ぎが嘘のように、再び海は穏やかさを取り戻していた。



男たちは船上で徐々に近づくマーメイド・ラグーンを見つめていた。


するとどこからともなく美しい女性の歌声が聴こえてきた。



「おい、聴こえたか?」
ホヘトが一同に尋ねると皆が頷いた。



「いよいよ真打のおでましってか?話では美しい人魚だって話だぜ」
トクマが口笛を吹いた。


「バカ!相手は厄災だぞ…気を抜くなトクマ!」


「はいはい、お前ってどうしてそんなに頭が固いのかねぇ……」
コウの小言に肩を竦めてトクマはヤレヤレとため息を吐いた。


「ネジ、お前はヒナタ様を呼んできてくれ」
ホヘトにそう言われ、ネジは頷くと船室へ向かった。



「船長ちょっと来てくださ……ヒナタ様っ!!!」


見ると、ヒナタが床に崩れ落ち、そして先程まで倒れていたはずのネジがヒナタに馬乗りになっていた。
そしてその手はヒナタの目を覆う眼帯へと伸ばされようとしていた。



「小僧!!ヒナタ様から離れろっ!!!」


ネジは腰につけた剣を引き抜くとネジへと振るった。


しかしその剣はネジに当たる前にキィンと音を立てて折れてしまった。



「なっ!?馬鹿な!?!?」



「落ち着いてくださいネジさん…オレは何もしていません…船長が突然倒れてしまって驚いているのはこっちの…」


「うるさい!大体お前さっきまで酷い熱だっただろう?!」
今度は短剣を引き抜くと再び少年ネジに切りつけた。


赤い鮮血が飛散する。


「やっ、やめてネジ兄さんっ!!この子は何も悪くないの…っ!!!」
 少年をかばうヒナタがネジの剣を止めようと刃を手で握った。


「あ……ヒナタ様…オレは…」


ポタポタとヒナタの血が床に染み渡る。


それを見たネジが青ざめ、震える手から短剣が滑り落ちた。


「だ、大丈夫……このくらいの傷、すぐ治ってしまうのだから…ネジ兄さんは気にしないで…この子に当たらなくて良かった…ところで何かあって私を呼びに来たのでしょう?何かあったのですか?」


「今はいいから手当を……」


「だからもう大丈夫…」
「良くない!」
ネジは強く言うとヒナタの手を取り精製水で血を流し、驚いた。
ヒナタ傷は縫合が必要なほどだったはずなのに既に裂けた皮膚が治癒し始めていた


言葉を失うネジにヒナタが言う。
「ね…だからもう大丈夫……それにさっきから聴こえるこの歌声……近いんですね…彼女が…」
ヒナタはゆっくり起き上がり甲板へと出ようとすると後ろから声がかかった。



「ヒナタ様…あなた何かを隠していませんか…あなたに一体何がおきているんだ……何故何も言わない……あなたにとってオレたちは……オレはそんなに頼りになりませんか……」


「……ネジ兄さん?」


二人の様子をじっと黙ったまま少年ネジは見つめ、どこか苦そうな表情を浮かべた。


「おいネジ!いつまでかかっているんだ!?ヒナタ様こちらにっ!」


一向にヒナタが来ないためコウが改めて呼びにきていた。部屋を包む奇妙な空気に違和感を覚えるが今はそんなことを気にする場合ではない。


「ヒナタ様こちらへ!」


コウに呼ばれるままにヒナタは彼のあとについていった。



船室にはネジと小さなネジが残された。



「ネジさん……ヒナタ様の秘密知りたいですか?」


先に部屋をあとにしようとした小さなネジは試すような目を向けた。


「お前…本当に何者なんだ……敵ではないのか…?」


小さなネジはその言葉には答えず含んだ笑を浮かべると船室をあとにした。


「くそっ!お前が何者だろうとヒナタ様には指一本触れさせん!」

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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: サウザント・広|DATE: 12/18/2012 19:33:40|TITLE: ♪♪♪

こんばんは、これでもまだまだ未成年女子のワタクシ、広です 前回のコメのお返事、ありがとうございます。 ブクマか~、やったことないしめんどいので、とりあえずプリントアウトすることにしちゃいます!!(めんどくさがりだな!) すみません、教えて頂いたのに(泣) ネジvsちびネジ! なんちゅーおいしい組み合わせを! スリル満点ドキドキの展開です!!(ドキドキ) 今回はコメしかできませんが、またPixiv内(小説)でお二人とお会いできたら幸いです。 次回(っつーか明日)のゴーストファイブ、楽しみです♪

日刊ゴーストファイブ 05/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/19/2012 00:00:00

第5章【人魚姫】
[ 本文 ]




ヒナタは甲板へ上がるとすぐに異変に気がついた。


静かな海原に美しい歌声が響き渡り、クルーたちはそれに魅せられたかのように微動だにしない。


見ればホヘトとトクマも我を忘れたかのように歌声の聴こえる方へと引き寄せられていた。


「これは…一体?!どうしたの…皆?!」


すると目の前にいたコウも皆と同じ方へと引き寄せられていくではないか。



「コウまで?ちょっと…皆で一箇所に集中したら危ない………」


コウを止めようと引きとめようとしたヒナタはすごい力で後ろに飛ばされた。


「きゃっ!!」


マストに叩きつけられる寸前のヒナタをネジが抱きとめた。
「あ……ありがとう、ネジ兄さん…」


「一体どうしたと言うんだ……みんな」


ヒナタを立たせたネジはあたりの異様な雰囲気を瞬時に感じとった。


「……多分この声のせいだと思う……ネジ兄さんはなんともないの?」



「……ああ…そうみたいだ……それより小僧はどこへ?」


「えっ?…」
言われてヒナタは慌ててあたりを見渡すが、今や甲板には多くのクルーがひしめき合い、小さなネジがどこにいるのか検討もつかなかった。


「まぁ…今は皆をどうにかしないといけないな…この声の出処を確認しよう」


「はい!」


「どけっ!」


ネジが声の聴こえる方へと群がるクルーを体で押しながら進むとようやく船首へとたどり着いた。


「あれが……!?」


「…ネジ兄さんっ」
思うように前へ出れないヒナタが声をかけるとネジはヒナタの腕を捕らえ引っ張り出した。
ネジの隣に立ったヒナタは言葉を失った。


「あれが人魚姫……?!」
呆然とするヒナタの隣でネジが絞り出すように言った。


岩場に腰掛け艶やかな長い藍色の髪を靡かせながら人魚が歌を歌っていた。
幻想的な絵だと思う。この人魚が恐ろしい人食いの化物と誰が思うだろう。


そしてその人魚の風貌はネジがよく知る人物に酷似していた。似ているとか言う次元ではない…。どう見ても同一人物だった。


「どう…して……」


思わずよろめいたヒナタがネジへと体を預けた。
驚いた――だが、なぜだか頭のどこかではわかっていた気がした。


あれは……あの人魚は―――ワタシ??




「これは悪い冗談か……?なぜアレはヒナタ様と同じ顔をしているんだ……」
ネジが人魚を見ながら言った。


人魚はこちらの方を見つめるとさらに歌い続けた。
すると、船首に集まったクルーが次々と海へと飛び込みはじめたのだった。
水しぶきの上がる音が響く。ドボン  ドボン   ドボン    ドボン   
次から次へと落ちていく仲間をネジとヒナタはなんとか抑えようとした。


「馬鹿っ!!目を覚ませお前たち!!喰い殺されたいのか!?」


必死に抑えるが、クルーたちのその常に無い瞳に二人は為す術がみつからなかった。


そうこうしているうちに人魚に異変が起き始めていた…。


絹のようにきめ細かい肌は硬いウロコで覆い尽くされ口は大きく裂けると、鋭い牙がサメのように生えてきたのだ。
ピキピキと見る見るうちに恐ろしい化物へと変貌した人魚だったモノは岩場から海面へと飛び込むと水しぶきを上げながら船の方へ近づいてきた。



「このままでは全滅するぞ!いくらオレ達が老いで死ぬことはなくても喰われたらそれで終わりだ!魂を箱につながれたまま死んだらもう輪廻の輪に戻れなくなる…!永遠にあの暗闇に囚われるんだぞ!」



「ホヘトさんっ、コウっ、トクマさんっ!!皆正気に戻って!!!」


ヒナタの必死な呼び掛けも届かず仲間たちの足は止まらない。


「どうしたら……っ」
ヒナタは迷いながらも考えた。
解決策もないままみすみす皆を死なせるわけにはいかない……とにかく今は皆を護らなければ。


ヒナタは決断すると船首から飛び降りた。


「なっ!!無茶をする!!」


それを見たネジが急いで力を使い水の柱を作るとヒナタはそこに着地した。 
それからネジは次々と水面に水の柱を作り人魚とクルーたちとの間に水の壁を作り出した。


「長くはもたない!なんとか時間を稼いでくれ!!船長!!」


「はい!ありがとうネジ兄さん」



ヒナタは再び火蜥蜴を呼び出した。
「よしよし…いいコね……今日はもうちょっと力を貸してね」
ゴロゴロと喉を鳴らす火蜥蜴の喉をさするヒナタが優しく言うと火蜥蜴はこちらに向かう人魚へと視線を移し身構えた。


「さぁ…こっちよ!」


ヒナタが人魚へ大きく呼びかけると唸り声を上げながらヒナタ目掛けて勢いを上げた



それをネジは目視しながら、イライラと声を荒げた。


「まったくこっちはこんなに忙しいというのにあなたたちは何やってるんですか!!」


ネジは色んな鬱憤を腹に据えながらホヘト、コウ、トクマに近づくと遠慮なく右ストレートで頬を打ち抜いた。



鈍い音が甲板に響き渡たり、次いで倒れこむ音が3回。



「って――――っ」


「な、なんだ何が起こった!?!?」


「・・・・ネジ?一体何が・・・?」


口々に聞かれても一度に答えられるはずもなく


「いいからクルーを海から上げるのを手伝ってください!」



「え?あ、ああ…わかった…」
状況が飲み込めていないものの、船下の状況を見た彼らは慌ててネジの作った水の柱を使って次々と降りていった。




「やれやれ……しかし本当にアイツ一体どこに……?」
ネジは誰もいない甲板を振り返ると一人呟いた。

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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: 空也|DATE: 12/19/2012 09:51:22|TITLE: うひょうvv

ますます萌えてきましたvv たまりません////

AUTHOR: サウザント・広|DATE: 12/19/2012 17:55:28|TITLE: ('o')

こんばんは、また来ました、サウザント・広でございます。 今回も、謎が謎を呼ぶ素晴らしいストーリー…。 重吉さんのイラストも、相変わらずヒナちゃんが可愛く美しい…。ハッ、もちろんネジもコウさんも、トクマさんもホヘトさんもカッコ良過ぎです! 見るたび悶絶ww(オイ!!) はすのさん、『広』と呼んで下さってるようですが、ワタクシのことは覚えやすい、呼びやすい、もしくは書きやすい呼び方でお呼びくださいませ。 /(-_-)\ペコリ ゴーストファイブ、そしてヒナコレ…、最後まで楽しませていただきます!!

AUTHOR: はすの|DATE: 12/19/2012 19:37:02|TITLE: ありがとうございますv

コメントありがとうございますo(^▽^)o >空也さん 楽しんでいただけて嬉しいですvありがとうございますv >広さん 前記事にもコメントありがとうございました。プリントアウト・・・ありがとうございます。(ノ∀`) 私の拙い小説もしげきちさんの素敵挿絵で煌びやかにvvありがたいことです・・・┌(┌^o^)┐ ヒナコレへの応援ありがとうございますv

或る午後に

TAG: 使い魔 (3) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 12/19/2012 02:36:45

使い魔のヒナタが、大人になれるのは、ネジの愛に目覚めたときですが…何世紀かかるかは不明です(笑)
[ 本文 ]

サンルームで寛いでいると、カチャカチャと陶器が立てる音が近づいてくる。


ネジは、頁を捲る指を止めて、扉を開ける者へと、視線を向けた。
茶器を乗せた盆を捧げ持つ少女…いや、細い手足や、その背丈から、まだ幼女といってもいい位の子供が、入ってくる。
彼女の着る召使のお仕着せの黒のワンピースに、白いエプロンは、ネジの趣味ではなく、彼女が自分で選んだ物だった。


―――――せっかく、用意してやったのに…無駄にして…と、ネジは常々言うのだが、彼女は困った顔をして、ネジが用意したドレスを着なかった。


行儀良く、部屋へ入ると、彼女は、ネジの傍らのティーテーブルへ盆を置き、手際よくお茶を淹れる。
馥郁とした香りに、ネジの口元が、ほんの少し緩んだ。


「ご主人様、お茶です」


だが、彼女が一言、こう言った途端、ネジの口端は思いっきり下に下がり、眉は上り、眉間に皺が寄った。
ジロリと、稀有な白眼が、剣呑に彼女を睨む。


ネジが、その気になれば、視線で、全てを石にも、醜いケダモノにも、変える事が出来る。
シュヴァルツヴァルトを統べる主であるネジを、人々は、その目や姿、そして行いからヴァイスティーアと呼び、畏れていた。
この広大な森を囲む、近隣の王達の一人も、怖いもの知らずを謳うならず者も、ヴァイスティーアのシュヴァルツヴァルトに足を踏み入れるような愚考は犯さなかった。
いや、愚考を犯した者の全てが、シュヴァルツヴァルトで、矮小な姿に変えられ、二度と森から帰る事は許されなかった。


ネジの統べる森は、不可思議の場である。


獣も、樹木も、草花も、その全てが異界の影響を受けている。
其れは、ネジが望んだ結果でもあり、ネジそのものが影響を与えた結果でもあった。


何故なら、ネジは、純粋な魔が転化した魔法使いであった。


世界に並ぶ者のない魔法使いである主の言いつけに、彼女は逆らった。
睨みつける主は怖いが、それでも自分のような者が言ってはいけないと、思ったのだ。
だが、主は黙って睨むだけで、何も言ってこない以上、彼女が折れるしかない。


ウルウルとした泪目で、一応言い訳をしてみる。
「だって…ヒナタは使い魔で…だから…恐れ多いです」
「オレがいいと、言っているんだ。使い魔風情が逆らうな」
だが、ネジは、ムスリと怒ったまま、その言い訳を斬って捨てる。


ヒナタは、ネジの魔法によって創られた使い魔だった。


使い魔として生を得たのは、ほんの半世紀ほどで、魔としては、まだまだヒヨっ子もイイところ。
ヒナタの成長は、人の子より格段に遅く、その分、寿命は恐ろしく長いと、主は教えてくれた。
そして、お忍びで、主と初めて街に行った時に、人の子の歳で、自分の姿が、まだ10歳くらいだと知った。
主の様な体格を、大人と言い、自分の様な者は、子供と呼ばれると学んだ。
自分が、主のように大人と言われるのは、いつなのかと尋ねれば、主は「さあな…」と微笑って答えてくれなかった。
そして、街から帰ってくると、主は一つの言いつけをヒナタにしたのだった。


それは…
「ネジ…兄さん」
恐れ多くも主を「兄」と呼べという事。


主の言いつけは絶対だが、敬うべき主人を、兄…それも使い魔ごときの…ヒナタはぎゅっと目を瞑って、ネジの言いつけに従った。


「よし」


ヒナタの悲壮な表情と反対に、ネジは、ティーカップの湯気の香りを楽しみ、上機嫌な微笑を浮かべる。
主の美しい微笑を見られるのは、使える者として嬉しいが、どうしても納得のいかないヒナタは、何度も繰り返した疑問を、尋ねる。


「でも、どうして…お兄さんじゃないといけないんですか?」
これまで、答えらしい答えをくれなかったから、きっとまた、はぐらかされると思い、ヒナタは少々、拗ねた言い草をする。


いつもは大人しく、我が儘など言わないヒナタが見せた、そんな姿に、ネジは面白そうに目を瞠った。


そして、これも彼によく似合う、やや意地の悪そうな微笑を浮かべて、一応の理由を教える。
「街に行って、子供姿のお前に、ご主人様などと呼ばれると、オレが白い目で見られるからだよ」


確かに、街では、ヒナタ位の姿の子供が、働いているのを見かけなかった。
だが、ヒナタは使い魔で、子供ではない。


理由がそれならと、ヒナタは、ネジに提案をしてみる。
「じゃぁ…街に行くときだけ…」
「無理だろう。そんな器用さはお前にないよ」


呆れたように、ネジは鼻で哂って、肩を竦めた。
ネジの言い分が、確かな事だけに、ヒナタは、それ以上逆らえずに、愚図りだした。


「うぅ…私…魔法も使えないし、力もないし…変身も出来ないし…使い魔なのに…」
どうして、こんな自分を、力ある主人のネジが、使い魔として練成したのか、不思議でしょうがない。
だが、ヒナタがどんなに泣き言を言っても、ネジはただ微笑むだけで、答えてくれることはなかった。


「ふふ…確かにな」
「ふぇ…」
それどころか、ヒナタの言い分を肯定して、役立たずな事を否定してくれもしない。
あまりにあまりなネジに、ヒナタが思わず泣きそうになると、ネジは使い魔のヒナタを抱き寄せ…


「だが、茶は旨いよ」
そう言って、ヒナタを膝に乗せて、馥郁とした茶を飲んだ。


それは、かつて、愛しい少女が、ネジに淹れてくれた茶と、同じ香りと味。


かつて…あの懐かしく愛しい少女は、ネジにいつも旨い茶を淹れてくれた。


その少女が、無残な最期を迎えた時に、ネジは人から魔へと戻った。
魔から吹き出す、純粋な悪意と平等な残忍さが、一つの国を、大陸を…そして、世界を恐怖で満たし、時を破滅へと向かわせた。
世界に満ちた邪と悪の闇の中、光が小さく瞬いた。
それは、失った少女の欠片を、花と綺羅の供物を捧げ弔った塔から、ネジを呼ぶように、瞬いた。


ネジは、魔であった。


魔が捧げ、触れた少女の欠片は、悲しいかな魔に冒されていた。
それは、魔の時で瞬きの間、人の時間で永の時に、魔と人の欠片と美しい捧げ物の練成がなされた。
魔が、光に導かれ、塔へと姿を現した時、小さな光は、命の息吹として魔を授けた主人を、悦びを持てって迎えた。


その光の面影に、魔は、己自身でも出す事を忘れていた声を思わず呟いた。


―――――ヒナタ


そう、呟いた時、光はヒナタとして、正しく練成された。


そして、魔はネジへと還り、ヒナタを連れて、シュヴァルツヴァルトの主と戻った。



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熊猫

❋COMMENT❋

AUTHOR: はすの|DATE: 12/19/2012 19:49:45|TITLE: (´∀`*)ファタジーvv

ファンタジーvv熊猫さんのファンタジーvv(´∀`*)ハァハァv 素敵な幼使い魔ヒナタンをありがとうございましたvv ロリ・・いえっ小さな使い魔ヒナタンが一生懸命お茶を運ぶ姿はネジには鼻血ものですよね。彼女の目覚めは一体いつになることやらvvでも永遠の存在であるネジにはその時間すら愛おしいのでしょうね・・・ 羨ましいっ(´ε`;)

日刊ゴーストファイブ 06/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/20/2012 00:00:00

第6章【クラーケン再び】
[ 本文 ]





「確かこの辺に沈んだはず…、アイツ相当弱っているはずだ……今なら…」
少年ネジは一人ボートでホワイトアイズを離れると、先ほど大蛸が沈んだ海域に来ていた。


静かに海面を見ていた少年ネジはすっと立ち上がると海へと飛び込みそのまま潜水していった。


一方ホワイトアイズでは


「これで全員か?!」


「ええ、そのはずです!!」


「まったくよけいな仕事増やしやがって!おまえ等当分夜の晩酌はないものと思えよー」


トクマは先ほどまでの自分の状態を棚に上げ偉そうに言うのをコウは無言で肘鉄を食らわせ続けて口を開いた。
「いいからお前たちは人魚の歌が聞こえないように耳栓でも積めておけ!」


「…耳栓でどうにかなるようなものでもないんじゃない?相手は厄災なんだし」


「しないよりはましだろう…そんな無駄口を叩く暇があったら舵をとれ!ヒナタ様とネジが時間を稼いでくれているうちに移動するぞ、いつまた大蛸が襲ってくるかわからないんだからな」


「はいはい、わかりましたよ」


やれやれと言った風にトクマが言うと船尾へと移動し舵をとる


「よーし!前進全速!といいたいところだが、ネジは今取り込み中だ!おまえ等助けてやったんだから死ぬ気でオールを漕げよー!!」


「はいっ!!!」
クルーたちがトクマの声に答え次々と下層へと降りていくと、側面から次々とオールがでて海中を漕ぎ始めた。


「よぉしいこうぜ!!!」


「ヒナタ様、ネジ!!ひとまず船へ!ここでは奴らの方が戦いなれている!当初の予定どおりマーメイド・ラグーンへ!」


「聞いたかヒナタ様!時間稼ぎはもう十分だ!先に戻って下さい!!」


「わかりました!よかった…みんな無事で…」
ヒナタが船のほうをみた一瞬の隙を人魚は見逃さなかった。
姿を海中へと隠した人魚はヒナタの進行方向へ周りこんでいた。


「…っ!!しまっ…」


「ヒナタっ!!!!」
人魚の動きをみていたネジがヒナタと人魚の間に飛び込む。
人魚の大きな牙がネジの喉笛めがけて迫る。ネジにはもう回避は不可能だった。



「ネジ兄さんっ!!」
ヒナタの必死の叫び声が響いた。


「・・・・・・・・」
しかし次に聞こえるはずの肉を噛み、引きちぎる不快な音は聞こえず、辺りは静まり返った。


ヒナタは思わず堅く閉じた目を開いた。
そして見た光景に驚いた。


「どうして…?」


ネジの喉仏ぎりぎりのところで人魚はぴたりと制止していた。


「なんだか知らないが…」


ネジはこの機会を見逃さず真下の水柱を一気に高く噴出させた。


「しっかり掴まっていろ!」
「は、はい!」
言われるままにヒナタはネジの背後から手を回してしがみついた。


我に返った人魚はグルルとうなり声をあげ上を見あげた。


甲板へと着地するとネジは水面に浮かぶ人魚をみた。
人魚もまたこちらをしばらくみていたがやがて海中へと消えていった。



「ひとまず諦めたようだな……」


「ネジ兄さん…さっきのは一体?」


「…さぁ…オレにもなにがなんだか…」


ネジは間近でみた人魚の瞳を思い出していた。
一瞬だったがあの制止した時のあの瞳の色・・・ネジは思案しながらヒナタの眼帯を見つめた。



「なに…?」


「い、いや何でもない…」
ネジは頭に浮かんだ考えをかき消すようにかぶりをふった。


そんなネジを不思議に思いつつもヒナタは小さなネジの姿が未だ見えないことに気がついた。


「コウ、ネジ君はどこに…?」


「さぁ…私は見ていませんが………」


「まさかさっきの混乱に巻き込まれたんじゃ…」
「いや、それはない、あの中にあいつはいなかった…」
ネジが落ち着いた声で言った。


「それに…あいつ…あいつは恐らく人ではない」


続くネジの言葉にヒナタは目を見開いた。


「なにを言っているのネジ兄さん…あんな幼い子にそんなひどいこと……」


「オレは別に…いじわるで言っているんじゃない……」



「お取り込み中悪いんだけどさぁ、ちょっとまずい感じだよ?なーんか聞こえない?」


緊張したネジとヒナタの間にトクマの間の抜けた声が響く。


「おいおいおい、ありゃあ…やっこさんもう元気になっちまったってのか?」
ホヘトは覗こうとした望遠鏡をポロリと床におとした。
「のんびりしている場合ではないな!ネジすまないがもう一度頼む!」


コウが声をかけるとネジはすでに船尾へと向かっていた。
「了解!」



「うそ・・・そんなのうそだよね・・・」
ヒナタは少し前に、哀しくも美しい人魚姫の物語を語った少年ネジの寂しそうな横顔を思い浮かべて一人呟いた。
ここにいない少年ネジの気配を遠くから迫る巨大な大蛸から感じながらもヒナタはうそ・・・・うそ・・・と繰り返した。
眼帯の下の目はさらに強く反響していくばかりだった。


逃げられるなら逃げ出したい・・・けれども運命という方舟からは降りられないのだ・・・ヒナタは間近に迫るマーメイド・ラグーンを見据えた。


後ろから迫る大蛸は長い足を船にのばすこともなく一定の距離を保ったまま船の後を追いかけてきた。


「なんだ・・・あいつ追ってくるだけで攻撃してこないな・・・いったいどうしたってんだ・・・」
エアカッターをいつでも放てるようにホヘトは身構えていたが、大蛸はさっきまでの獰猛さは微塵もなく、ただ一行の後を追いかけてくるだけだった。
「もしかして目的地が一緒なだけとか」
トクマが気楽そうに言う。


船尾からそれを見つめるネジはそれを特に不思議にも感じていなかった。
「おまえはいったいなにが望みだ・・・」


「あ?なんか言ったかネジ?」
船を進めながらも浅瀬の砂を能力でどかす最中、トクマが声をかけた。


「何でもないですよ…ほら気が散ってますよ、トクマさん。集中しないと座礁しますよ」


「わぁってるって!座礁なんてさせやしないさ、オレのかわいいホワイトアイズをなぁ!!」


「・・・あいつオレよりトクマの扱いが巧いんだよな・・・」
コウは俄然やる気にみちたトクマを見ながらネジに目をやった。



浅瀬の海をくぐり抜け、もうこれ以上進めないところまでホワイトアイズはマーメイド・ラグーンへと近づいた。


「これ以上は無理だ、進めない」
トクマがそう言うとヒナタは頷いた。


「ホワイトアイズはここに停泊、ボートでマーメイド・ラグーンへ上陸しましょう・・・」


ヒナタの声にクルーたちはボートの準備をし始めた。
「ラグーンへは私たちだけで・・・みなさん、船のことをどうかよろしくお願いします」


深々と頭を下げるヒナタの姿にクルー達は騒然となった。
「おら、デレてんじゃねーぞ!!おまえ等ー!!この船に少しでも傷付けたらオレが容赦しねーからな!」


「は、はいっ・・・! トクマさんっ!!!」


骨抜きになったクルーに檄が飛ぶ。


そんな様子を見てヒナタは小さく微笑む。


「では参りましょう!」


コウがヒナタへと呼びかけた。


「はい!」


ボートへ乗り込んだ5名は人魚の棲家であるマーメイド・ラグーンへと向かった。


そしてホワイトアイズ一行とほぼ同時に海底から珊瑚の壁に張り付きながら、海から大蛸がラグーンへと這い上がってきた。
見る見るうちに巨大なその大蛸は小さくなり成人男性の姿へと変体した。


「・・・よし・・・アレが目を覚まさないうちにすべて終わらせよう・・・」
男はそう言うとラグーンの中枢へと向かい歩きだした。


腰まである長い黒髪をなびかせた男、それはホワイトアイズ一員である日向ネジによく似た男だった。

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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: サウザント・広|DATE: 12/20/2012 18:53:29|TITLE: おおおォォォ~~~!!!(大興奮)

Good evening~ またしてもノリッノリで来ちゃいましたサウザント・広です のおおォォォ~~~!! キタァァ~~~!!! クラーケンネジィ~~~!!!!ww(叫び過ぎやろ!!) 待っとりましたァ、かっくいい――それにしてもネジ、アンタ厳しいうえに怖い! ネジファンの私にはちょいちょい心配……(汗) はすのさん、お返事ありがとうございます♪ そこで、ちょっとムチャで勝手なお願いになっちゃいますが、ワタクシがpixiv会員になった際、この小説…… ワタクシが引き継いじゃってもよろしいでしょうか!?(読んでるうちにワタクシも彼等の旅が気になって気になってww[スゲー勝手だ!!])

AUTHOR: はすの|DATE: 12/21/2012 01:11:04|TITLE: ありがとうございます

>広さま いつも反応くださりありがとうございます。 お申し出の件ですが、広さまにそこまでこの作品を愛していただけてとても嬉しく思います。 ですが、企画者両名しばらくこの作品で遊んで行きたいと思っておりまして、「引き継ぐ」という段階には至っておりません。 日刊ゴーストファイブ最後まで楽しんでいただけたら幸いです。 広様の自作品でのご活躍期待しております。

我慢比べ

TAG: 猫娘 (8) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 12/20/2012 01:33:24

ただ、イチャイチャしているだけです★
[ 本文 ]

「にぃにぃにぃ」


可愛らしい鳴き声が、足元でする。
無視をしたいが、甘い声と共に、柔らかな感触に、苦虫を噛み潰したように食い締めていた口元も、思わず緩んでしまう。


「にぃ…にぃにぃ…」


ネジは、足元の声の主を、仕方なしに見た。
「そんな目で見るな…」


三毛の三角耳のヒナタが、ネジをじっと見上げている。
ヒナタは、器用にも猫耳と猫の尻尾だけという、獣変化をして、ネジの足に纏わり付いていた。
キバあたりにもでも習ったのか、いや、それともくの一で、開発した女子技なのか…


ネジの視線を感じて、ピクピクと動く耳に、機嫌よくうねる尻尾に、ネジはクラリと眩暈を感じる。


―――――さ、触りたい…


綺麗な毛並みの三角耳の感触を確かめたい…
きっと、程よく肉厚で、思う以上に深い毛皮で、フカフカの耳を。


腰骨から綺麗に立ち上がり、官能的な湾曲を描く尻尾を掴みたい…
きっと、柔らかな動きからは、想像も出来ない位に肉太な尻尾を。


高まる欲求でネジは、ヒナタの姿に、視線を外せなくなる。
ヒナタは、その差し迫った眼差しを感じて、最後の止めとばかりに、ネジの膝にアゴを乗せて…


「ぅにゃ~~~~ん」


ひと際、甘ったれた声で、鳴けば、ネジはがっくりと肩と頭を落として、敗北を認めるしかない。
「…わかった。オレの負けでいいから―――――心置きなく、触らせろ!」
男らしく且つ、潔くそう宣言すると、足元のヒナタが逃げる隙を与えずに、抱き上げた。


そして、がっしりとホールドし、耳に頬ずり、尻尾を握り締めて、陶酔した微笑を浮かべ、呟く。


「た…たまらん…」
「にぎゃ~~~~!!!」


後は、ヒナタがどんなに鳴き暴れても、ネジが満足いくまで、離してもらえる事は、勿論なかった。

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熊猫

❋COMMENT❋

AUTHOR: はすの|DATE: 12/21/2012 01:00:34|TITLE: ネジの勝利vv

ネジは敗北者であり勝者でもあるわけですねvv(。◕‿◕。)  三毛ヒナ様おかわいそうにvv 気の済むまで頬ずりさせてあげてくださいvv

日刊ゴーストファイブ 07/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) nbsp;|  DATE: 12/21/2012 00:00:00

第7章【珊瑚礁の舞台】
[ 本文 ]





マーメイド・ラグーンは中心へ向かうごとに深くなる海溝の様になっていた。
中心はどこまでも深く、到底ふつうの人間では行き着くことも叶わないだろう。


「噂じゃ、この一番奥底に伝説のクラーケンの至宝って言うのが眠っているらしいんだよ。名前はずっと前から聞いたことあったけど……まさか、こんなところにあったなんてな…」


トクマがザブザブと珊瑚でできた岩盤の上から底の見えない塩湖を覗き見ながら言った。


「おい、トクマ…ここは人魚の棲家だぞ、もうちょっと警戒しろ、引きずり込まれたらどうする。あとふざけた遊びは絶対にするなよ!」


トクマは今まさにそれを行おうとしていたので思わず口をとがらせた。


まったく長いつきあいのこの親友は頭が固くていけない。もっとざっくばらんに生きられないものかと思う。


「はいはい、わかりましたよ」
しぶしぶとトクマは浅瀬から戻ってきた。


「それにしても…静かだな。なんだか嫌~な予感がするぜ……」


ホヘトが辺りを見渡していると、静かな塩湖からチャプンと音が響いた。


「やっとお出ましか…って……」
しかし、その音は一つではなかった。


次から次ぎにチャプンチャプンと音が聞こえたかと思うと、水面から小さな顔がこちらをのぞいていた。
頭は堅い鱗で覆われ、鋭い牙を持ち鰭には明らかに有毒の針が飛び出ている。そして大きな赤い目がこちらをみていた。
それは水面から上がり始めると、岩盤の上をザブザブと歩きだした。その姿はまさしく半魚人であった。


「マジかよ」


トクマ、コウ、ホヘトはヒナタとネジが進んだ最奥へと続くと思われる洞窟の入り口を護るため身構えた。


「いいか、二人の向かった先へは一匹たりとも行かせるなよ!!」


「ええ、わかっていますとも!」


「…わかってるって…といいたいとこだけど正直オレ自信ないな、一番役に立てないんじゃない?」


「バカ!ここは巨大な珊瑚が隆起してできた岩盤だぞ!むしろおまえの独壇場だ!あとはおまえの気持ち次第だトクマ!」


「・・・なっ!オレの?!なるほどよーしわかった、オレに任せろ!」
コウの檄に乗ったトクマが地面に手を突くと、岩盤を割って鋭い槍状の珊瑚が無数に生えてきた。


「よし下手な鉄砲数打ちゃあたるスピア弾GOーーっ!!」


トクマの声で珊瑚の槍が半魚人めがけて発射され、半魚人達を次々と居抜いていった。


「……まぁいいけどな、効果あるみたいだし……しかしどうにかならんのかそのセンス……」


エアカッターを繰り出し半魚人を凪払いながらホヘトが呟いた。


「よーし、名前も最高、オレ最高!よしどんどん行くぜ!」


そんなトクマを嘲笑うかのように塩湖からは続々と半魚人が上がってきた。


「こりゃ…いい準備運動になりそうだな、トクマ」
コウが笑いながら目配せした。



一方、ヒナタとネジは


明らかに人工的に作られた階段の足元を火蜥蜴で照らしながら、ヒナタとネジは一歩一歩慎重に下へと降りていった。


長く続いた最後の一段を降りきると広い空間がふたりを迎えた。


最下層は膝下ほどまで海水が浸水しており、二人はできるだけ音を立てないよう奥へと進んでいった。
暗い階段とはうってかわり、洞窟の内壁には光ゴケがびっしりと生え、微弱な光を放っていた。
目が慣れてしまえばヒナタの火蜥蜴で辺りを照らさずとも済む明るさを得ることができた。


広場の天井はドーム状の透明な結界で覆われており、 そこから伸びる螺旋状のパイプが上の海溝へと伸び、塩湖へと繋がっているのが窺えた。
浸水していない小高い地盤の上には古びた長椅子やテーブルが無造作に置かれ、かつてここに何者かが住んでいたことを物語っていた。
そして、その中心には人一人ほどの大きな二枚貝が鎮座し、口を開いた貝はすでに命を終えていた。今も貝殻がサラサラと少しずつ砂へと風化しているのが見えた。


ネジとヒナタがあたりの様子を窺うと暗がりに人魚の姿があった。
変体したままの獣のような人魚はその水中へと下半身を沈めていた。
こちらの気配を感じていないはずはないが、人魚は微動だにせず、その瞳から涙を流しいていた。


「オレたちに気がつかないのか?一体何に気を取られているんだ…?」


「ネジ兄さん足元っ…!!」
みれば足下には無数の卵が地面を埋め尽くさんばかりに並んでいた。


「卵……こんなに……」
みれば卵がいくつか孵った後が見受けられた。


「…あの人魚は人を糧にし、自分の仲間を増やしている。そうなれば近隣の街は壊滅的な被害を受けるだろう…。これは一つ残らず処分しなければな…あなたの炎の力で…」


ネジが冷静かつもっとも正しい判断をヒナタに投げかけた。


「…でも…これから生まれる命に罪は……」


「なにを言っている、アレと同じものが増えていくのをあなたは黙ってみているのか?」


「わかってます…でも……」


「いいか……」
ネジが何か言いかけようとすると別の場所から声が聞こえてきた。


「気にしなくてもいい、その男の言うとおりアレは人を滅ぼすために創られた神の駒のなれの果て…魂のない骸。あなたが胸を痛める必要など皆無…すべてまやかしにすぎない」


「誰だ!?」
ネジがヒナタの前へと出て剣を抜いて構えた。


高台に無造作におかれたソファーから黒い陰が立ち上がり前へと進み出た。


「…ようこそ、クラーケンの巣へ」


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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: サウザント・広|DATE: 12/21/2012 20:01:05|TITLE: (^□^;)

どもども、一日中喉を痛めながら過ごした私、サウザント・広です。 気付けばもう中盤、いよいよターゲットのアジトに潜・入! クラーケンネジも出てきて、もっとおもしろくなっていきそうな雰囲気ですネ♪ お返事どうもです! あや~、やっぱし…(^_^;) ちょっとムチャ言い過ぎちゃったみたいです…(シュン…) どんな感じならよろしいでしょうかね…(しつけェな) 私の自作を…!? まあ、準備のためいくつか構想してますが、来年pixiv内で楽しんでいただけるなら心強いです。 ありがとうございます、アナタだけです、そう言って下さるのは、…今んとこ。(感涙)

日刊ゴーストファイブ 08/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/22/2012 00:00:00

第8章【決戦】
[ 本文 ]

「…ようこそ、クラーケンの巣へ」
恭しく頭を下げた長身の男が長い髪をなびかせて顔を上げた。


「!!!」
ヒナタとネジはその顔をみて驚愕した。


クラーケンと名乗った青年はヒナタの前に立つ従兄ネジと瓜二つだった。


「あなたは誰……?なぜネジ兄さんと同じ姿に?」


「オレは古よりこの海に棲む黒き悪魔クラーケン…それからこの顔は元々のものです…彼を模しているわけではありません。ホワイトアイズ船長ヒナタ殿…」


「………」


なぜ名前を知っているのかと聞くまでもなかった。
今目の前でクラーケンと名乗った人物が、先ほど船を追ってきたクラーケンなのであれば、クラーケンに感じた気配が彼と同じものであるならば…
彼は短い間ではあるが行動を共にしたあの小さな少年と同一人物なのだ。


クラーケンは呆然とするヒナタを尻目に続けた。


「そして、あそこにいる人魚はかつてこの海の至宝の存在であった人魚姫の魂の欠片・・・まがい物。その空の魂の核に今はあなたがたが追っている魔物が宿っている」


クラーケンは産卵を終え水面に横たわる人魚を冷たい目で見て言った。


「まがい物…?お前だって箱から逃げた厄災の一つだろう」
黙っていたネジが口を開いた。


「正しくは違うな…オレは厄災ではない。だが体を取られたことは事実、おかげであんな小さな姿になってしまったが……今は君たちのおかげでこうして体を取り戻すことができた。感謝している」


「あなたの望みは一体?」
ヒナタは思わず問いかけていた。


「アレを封印し、オレのなかで抑えている魔を封印するのはあなたがたの使命、オレの望みではない。オレが望むのはあなたの眼帯の下のものだ」



「……え?」
思わずヒナタは眼帯を抑えた。


「あなたが異変を感じているソレは本来あなた自身のものではない…それを本来あるべき姿に戻したい。それがオレの望み――
クラーケンが言い終えぬうちにネジがクラーケンへと斬りかかった。


「やはりお前は彼女に害を与える存在だったか!!お前の望みなど知ったことか!!!今すぐ封印してやる!!!!」


目に見えぬ速度で斬りかかるネジの剣をクラーケンは軽々とかわしていく。


「落ち着け青年、なにも彼女を傷つけようとしているわけではない……熱くなるな…」


余裕すら感じさせるクラーケンにネジは水のエレメント能力で水を集め弾丸のように打ち出した。


それはクラーケンに当たる直前に跳ね返されて細かい雫と化した。


「オレの力はこの海そのもの…お前の力ではオレは倒せない…」
クラーケンは体から蛸の脚を生やしネジを拘束した。


「やめてっ!!」


思わずヒナタがクラーケンへと叫んだ。


その声に人魚が体を起こし唸り声を上げた。


「心配せずとも殺しはしない…それよりあなたの声でアレがこちらに気がついたようだ。話は後にして今はアレを倒すのが先でしょう」


クラーケンは脚を戻しネジを開放した。
「貴様っ!!」


「話はあとだ、来るぞ!」



人魚の声が広場に轟くと水中に眠る卵が次々と孵化を始めた。



そしてそれはみるみるうちに大きくなり地上でホヘトたちが対峙している半魚人と同じ姿となった。


そして彼らと同じように脚を持った半魚人へと変体した人魚がこちらを見て目を細め、地獄のそこから響いているかのような轟音を響かせた。
その声に答えるように小さな半魚人たちが総員でヒナタたちへと向かってきた。



「……船長!遠慮は無用、わかっているな!!」


水を集め始めたネジがヒナタに強く語りかけた。


「………はい!」


ヒナタはそう答えると腕に絡んだ火蜥蜴もまたそれに答えるように火を吐いた。


「………」


その二人の掛け合いをクラーケンは静かに呪文を唱えながら見つめた。


「ここはあの人の場所…お前たちになど穢されてたまるか……」
詠唱を終えたクラーケンを中心に放射状に放たれ光の鎖が飛びかかってきた半魚人たちを拘束する。


「いまだ!」


ヒナタはその声に答え火蜥蜴を開放すると火蜥蜴が沙羅曼蛇へと変化し拘束された半魚人を次々とその巨大な口へと飲み込んでいった。


巨大なクラーケンすら炎で包んだその熱量は小さな半魚人たちを一瞬にして灰へと燃やし尽くした。


その強大な力にネジがヒナタを見るとヒナタは泣いていた。眼帯をしている方の目から涙を流していた。


「……ヒナタ様…?」


ネジに生まれた隙をついて別の半魚人がネジへ飛びかかるってきた。
思わず舌打ちして構えたネジの背後からクラーケンの鎖が伸びた。


「足でまといになるのだけはやめて欲しいものだな…」


拘束された半魚人を切りつけながらネジが言い返す。


「憎まれ口はそのままのようだな…」



人魚が激昂し3人に向かって驀進すると、残在の半魚人たちも同時に向かって来た。


「ネジ兄さん!クラーケンさんを守って!」



「……!!」


ヒナタの呼びかけにネジは瞬時に理解しクラーケンを自分に引き寄せ幾重にも水の結界を張った。


「これだけでは持たなそうにないな……少しのやけどは我慢しろよ」
ここに来てからのヒナタの能力の驚異的な伸びを見てきたネジがクラーケンに言う。


「君も冗談をいうことがあるんだな……しかしオレは焼かれるのが好きではない。よってすこし君に協力しよう」
クラーケンがそういうとゼリー状の膜が内側から溢れてネジの水の結界に練りこまれていった。



「船長、一撃で決めろ!!」


そのネジの呼びかけにヒナタは強く頷いた。


沙羅曼蛇は更に細長い龍から翼竜へ姿を変えるとその背にヒナタを乗せた。翼竜は天井間際まで上昇すると下に向けて炎の息を照射した。
海面は干上がり卵は全て灰も残らず消し去られ半魚人も塵になった。
そして巨大な半魚人へと変体していた人魚も燃やし尽くされた。


結界の中、ネジとクラーケンはその様を言葉を発することもなく見つめていた。


燃え盛る炎の中、人魚はネジ達のいる結界に届くはずもない手を伸ばしていた。


「………」
その姿にネジは思わず涙をこぼした。


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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: サウザント・広|DATE: 12/22/2012 08:53:28|TITLE: わお…

おはようございます、昨日の喉の痛みがまだ取れない私、サウザント・広です。 まさかのクラーケンネジと共闘!! クラーケンネジの言葉、人魚の死に際の行動、ネジの不可解な涙……、まだまだ謎多し! 明日がホントに楽しみです♪ いつものようにお返事待っとります

AUTHOR: はすの|DATE: 12/23/2012 01:45:04|TITLE: ありがとうございます

>広さま いよいよ物語も佳境です、最後まで楽しんでいただけたら嬉しいです、応援ありがとうございます。 お風邪お大事に・・・( ^ω^)_凵 

日刊ゴーストファイブ 09/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/23/2012 00:00:00

第9章【もうひとりのヒナタ】
[ 本文 ]





炎は徐々に収まっていった。あたりは水が蒸発する水蒸気さえなくカラカラに乾いていた。

翼竜は小さな火蜥蜴の姿に戻ると完全に動きを止めた人魚へと近づき、魂の宝珠に潜む厄災に牙をかけ引きずり出し飲み込んだ。
そして再びヒナタの腕へと戻っていった。

「よしよし…いい子ね」ヒナタが腕に絡んだ火蜥蜴をひと撫ですると、火蜥蜴が口から結晶と化した厄災をヒナタの手に出した。


血のように赤く禍々しい色をしたそれをヒナタは懐にしまった。


獰猛な半魚人へと変化していたそれは再び小さな人魚の姿へと変貌した。


水のない床に息も絶え絶えの人魚が転がっていた。
やけどだらけのその体はもう幾ばくと持ちそうにない。



ネジは静かに跪くと、そっと人魚を抱き起こし天井の向こう側から水を呼び寄せ人魚を水の膜で包んだ。


膜の向こう側から少し安堵したように人魚は笑った。そしてネジの向こう側に立つクラーケンへと視線を移した。


しかしクラーケンはそれ以上歩み寄ることはなかった。


水の膜の向こう側から手を伸ばし何事か語りかけた後人魚は事切れた。
そして水の膜が弾けた。目を閉じた人魚の頬に水が涙のように流れ落ちた。


伸ばしていた腕は今や重力でだらりと垂れていた。



人魚を抱き上げたネジがクラーケンに怒りの表情をあらわにした。


「なぜ…なぜ応えなかった…!!なぜ名前も呼んでやらない!!」


激昂するネジに対しクラーケンは静かに答えた。


「……なぜならそれは擬い物だからだ……本当の彼女はソレではない…姿かたちは彼女でも…魂は虚ろだ…」


クラーケンはヒナタへと近づき眼帯の上から目をそっと抑えた。


「本当の彼女はここにいる……」



「……それは違うわ、ネジ兄様……」




クラーケンを【ネジ】と呼んだヒナタがその眼帯を外した。


「……?!ヒナタ様……?」
ヒナタの変化にネジは驚愕した。
 

 ヒナタの幼い頃から異質だった瞳はいまではネジが腕に抱いた人魚の瞳と同じ色に変色していた。



そしてヒナタの目から光が放たれ、外へと出たソレはやがて一人の女性の姿へと形作られていった。


光が出て行くとヒナタはその場に崩れ落ちた。


「ヒナタっ!」


ネジはそっと人魚を床へと寝かせると、急いでヒナタに駆け寄った。


「うっ……」
うめき声を上げてヒナタはネジに支えられながら立ち上がった。


「あれは……」


光が消えていくとそこには白いマーメイドドレスに身を包んだ女性が立っていた。


「ヒナタ姫……」
クラーケンはその女性をそう呼んだ。


「………」
ヒナタ姫と呼ばれた女性が悲しげにクラーケンを見つめ返した。


「……一体どうなってるの…?あれは…あの人は…」


ヒナタよりも女性らしく、憂いと儚さを帯びた女性は人魚と同じ顔、ホワイトアイズ船長ヒナタと同じ顔をしていた。


「船長にお話したのは、今ここにいる彼女のことですよ」
混乱するヒナタにクラーケンが短く説明した。


「……じゃあこの人が…人魚姫……でも足が?」


たしか話で聞いたヒナタ姫は人魚だったはず…しかしいま目の前にいる女性は二本の脚を持つ人間だった。


ヒナタがつぶやくように言うと人魚姫が頷いた。


「はい…私は人魚姫ではありません……」


その言葉にクラーケンが目を瞠った。


「なっ?!…あなたは何を言っているんだ…」


「ネジ兄様……私は自分の欲望のために同胞を捨て、海の国を滅ぼしかけた罪人……そんな私に海洋神様は罰をお与えになり…肉体を持たない海流としてこの世にお繋ぎになりました…今は残留思念によってこの姿を維持しています…魂の無いまやかしは私の方なのです…」


「そんな馬鹿なこと…」


クラーケンは言葉を失いながらも搾り出すように答えた。


「そんな果てしない時のなか、自我を失いかけていた私はこの娘を見つけました」


ヒナタ姫はそういうとヒナタを見つめた。


「えっ……」


「あなたは覚えていないでしょう…まだ幼い子供でしたから…。海に落ちたあなたを助けた時、あなたの未来にこの場所を見たのです…あなたの背負う未来とともに…」


「あなたが私を…?そういえば…幼い頃嵐に投げだされた私は奇跡的にも助かったと聞いたことがありますが…」


思わずヒナタがネジを見るとネジはヒナタにそっと頷いて見せた。


「ネジ兄様……あなたが魂を分けたあの小さな人魚が本物の人魚姫…。私は本来の形を捨て人となり神から罪を与えられた罪人です」


「嘘だ……アレはオレの作ったまやかし…本当のあなたは今ここにいるあなただ!」


思わずその体を掴まえようとしたクラーケンのその手はそのまま空を突き抜けた。


「……ねっ?私はあなたの知る人魚姫ではないのです…彼女こそがこの海の白い真珠なのです。不完全な核によって生まれた彼女は言葉を持たず、何一つあなたに伝えることができなかった…それが不幸の始まり…」


「……っ!?」
死の間際、自分に向けて手を伸ばし何事か囁いたあの光景がクラーケンの頭に蘇った。



クラーケンはフラフラと床の上に横たわる人魚の傍に膝をついた。
力のない手をそっと包んで持ち上げた。


「……」


固く目を閉じた人魚の頬に新たな涙が生まれる。
ポタポタと頬を伝う涙が乾いた床へと広がっていった。




ヒナタもネジもクラーケンへかける言葉を見つけられず、ただ見守ることしかできないでいた。


悲しみにくれるクラーケンは絶望の淵に突き落とされ、深い悲しみの最奥へと引きずり込まれた。
愛する人を手にかけた事への怒りが自己の消滅を願った。


その強すぎる想いが彼の中で封じられていた厄災を目覚めさせた。


「だめです!!飲み込まれては!!!」


「クラーケンさん!?」


「お前っ!!」



3人の呼びかけも届かず倒れる人魚を抱き上げたクラーケンは真っ黒な闇に包まれていった。


「あいつ……どこへ消えたんだ…?!」


ゴゴゴゴという地響きが聞こえ天井の結界に亀裂が生じると結界は一気に消え失せ、一気に海水が落ちてきた。
このでは水圧に潰されてしまう。


「!!!!!」
ネジがヒナタを引き寄せ結界の準備をしようとすると。
「あなたがたは私が守ります!」
ネジとヒナタを今は海流であるヒナタ姫が姿を変えふたりを強い水圧から守りながら海溝を上ると塩湖から噴出した。

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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

お人形さんごっこ

TAG: 人形 (4) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 12/23/2012 00:22:06

楽しいのは、ネジだけかも……
[ 本文 ]





ヒナタの言葉に、ネジは考えこんだ。
日向は、木ノ葉でも有数の忍の旧家で、例えヒナタが幼い女の子とは言え、一般人のような玩具はない。
玩具よりも、忍具をあたえるのが、当たり前。
だから、ヒナタが、内緒だよ…と、耳打ちした言葉に、ネジは悩んだ。
―――――お人形で遊びたい。


そして、考えて考え抜いた挙句……
シュッ…シュッ…と、煌びやかな帯をネジは、器用に締める。
ヒナタの部屋には、子供の玩具はなかったが、旧家の子女として恥ずかしくないようにと、何着もの着物が揃えてある。
ネジは、其れを部屋に広げて、ヒナタに着付けていた。
「ネジ兄…」
「しっ…」
振袖を着付けられたヒナタが、呼びかけると、ネジは、その紅を塗った小さな唇に指を押し当てて、黙らせた。
「ヒナタさまは、お人形でしょ?お人形は、おしゃべりしちゃいけないんだよ」
ヒナタは、人形を持っていないし、勿論ネジだって持っていない。
だから、人形遊びをしようと思っても、無理なんだが、ネジは、この1つ下の従妹に甘かった。
いつも大人しくて、我が儘を言わないヒナタの望みを叶えるために、ネジは考えに考え抜いた。
人形はないが、だいたい従妹は、お人形みたいに可愛いのだから……
なら、ヒナタが人形になればいいと、ネジは思い至って、人形あそびなら、着せ替えだと、遊びはじめた。
金襴緞子に、綾錦、色とりどりの帯締め、ふんわりとした縮緬の帯揚げ、刺繍を施した半襟…
「さぁ、出来た。ほら、見て」
ネジは、着飾ったヒナタを鏡の前に連れて行き、ご満悦と微笑う。
「うん、可愛い」
ネジが手放しに褒める言葉に、ヒナタは控えめに頷く。
ちょっと…というか、自分が思っていた人形遊びとは、随分と違っているが、ネジが楽しそうならいいかとヒナタは思った。

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熊猫

日刊ゴーストファイブ 10/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/24/2012 00:00:00

第10章【闇に住まうもの】
[ 本文 ]

「なんか…下からすごい地響きがするんすけど……」
敵を一掃した後、地下から地鳴りがするのをトクマは感じた。


それを聞きコウは地面に耳を当てた。確かに地鳴りのように聞こえる。


「ヒナタ様が心配だ、俺たちも下へ行った方が…どうやらここも落ち着いたようだし」
常に冷静なコウがヒナタを心配して慌て始めた。


「…まぁ…二人が下へ降りてからなにも音沙汰がないしな…」


「よっしゃ!行ってみよ…」
トクマが立ち上がろうとしたとき
大きな地鳴り音とともに塩湖の底から海水が噴出したのだった。


そしてその水が切れるとヒナタとネジが宙に浮いているのが見えた。


「なっ?!なんでまたあんなところから!!!!」
落下を始めた二人に慌ててホヘトが上昇気流を二人の落下地点へと送り込んだ。



二人は風の力でゆっくりと着地した。


「ヒナタ様ご無事ですか!!!」
コウが全力疾走で駆けつけヒナタの安否を気遣った。


「……え、ええ……私は大丈夫…」
コウを安心させようとヒナタは無理に笑顔を浮かべた。



「……?ヒナタ様…一体…」
その変化に気がついたコウが訪ねようとすると



「いけない!みなさんここをすぐに離れてください!!!!」
二人が落ちてきた空の上からもう一人そこに降り立つと言い放った。


その姿を見たホヘト、コウ、トクマが止まる。

「なっ、なんだっ?!ヒナタ様がもうひとり?!」
「こ、これはいったい!?」
「いや、こっちのヒナタ様の方がグラマーかなぁー」


最後の言葉を言ったものにはすぐさまネジのパンチが飛んできた。


「いいから彼女の言うことを聞いてください!ここから離れないと!!」



「一体なにが起こっているんですか?!」
ヒナタはヒナタ姫に尋ねた。


「ネジ兄様の体に抑えられていた厄災が彼の心の闇を増幅させて辺り一体を飲み込もうとしています!!どこまで大きくなるのか……急いでここを離れないと!」



「心の闇…」


内部の海水がほとんど全て出てしまい、むき出しの谷になってしまった海溝へと目をやると地下から暗闇が広がっているのが見えた。
クラーケンの悲しみがこの地を飲み込み、全てを闇に沈めようとしている。
それほどまでに愛していたのだ………彼の深くて大きな愛を感じてヒナタは心を痛めた。



彼が話してくれた昔々の御伽噺………。


いつか目覚めるのを信じ一人で暗い海の底でただ待ち続けた人……二度も愛する人を失った彼の悲しみは計り知れない…



「逃げてばかりではなにも変わらないわ……」


「…ヒナタさん?」


ヒナタが強い言葉でヒナタ姫に語りかけた。



「彼は深い悲しみの底で震えている…小さな子供のように……彼を連れ戻さないと!!」
そう言うとヒナタはたった今上がってきたばかりの海溝の谷へと飛び降りた。


「……あのバカ!!!」
ネジは思わず悪態をつくとヒナタの後を追って飛び降りた。



「えっ!?あの二人なにしてんの?!なにやってんの!?!?馬鹿だろ?!大馬鹿だろっ!!!!」


「いいから俺たちも行くぞ!コウ、そのバカも引っ張ってこいよ!」
そういうとホヘトがネジに続いて飛び降りた。


「ほら行くぞ、トクマ!」


「さらばオレのセカンドライフ~~~!!」


コウがトクマの腕を掴むとそのまま勢いをつけて飛び降りた。
残されたヒナタ姫はふわりと微笑むと空中に掻き消えた。




闇の中へと飛び降りるとそこはなにも見えずただ暗闇が広がるばかりだった。
着地したのかも、空に浮いているのかも実感が無い曖昧な世界だった。


この広い世界にただひとり……そんな孤独を感じた。


ヒナタはあてもなく暗闇を歩いた。すると視線の先に何か光が小さく見えた。
心細さにヒナタは思わず駆け出していた。


どんどん光が近づいて来る。ヒナタは息を切らせながらも走り続けた。


すると小さな部屋へたどり着いた。小さな白い部屋の外はなにもない。ただ暗闇が広がるだけだ。


そしてその部屋にポツンと少年の姿が見えた。その少年は人形を大事そうに抱えていた。
その少年はヒナタのよく知る少年、ネジだった。



「ネジ君…」


ヒナタが声をかけると少年はびくりと体を震わせた。立ち上がり慌てて物陰に隠れようとする。


「まって!私よ、ネジ君!怖がらないで」


ヒナタはネジを安心させようと身をかがめてネジに視線を合わせた。


「……誰?…僕からこのコを奪い取りにきたの…?」


そういうと抱えた人形を更に強くかき抱いた。


「そんなこと…大丈夫安心して、私はあなたを助けにきたのよ…こんな怖いところは嫌でしょう?さぁ私と一緒にここをでましょう?」
ヒナタはネジへと手を差し出した。


「ううん……ここからは出られないよ…だってこのコはここでしか生きられないんだから…だからおねぇちゃんもここで僕たちと一緒にいればいいよ。ずっとここに…」


「えっ…?」


「そうすればこのコも寂しくないから…」


そう言ってネジが顔を上げるとヒナタは驚愕の声を上げた。


「あなた……ネジくんじゃない…!!!」


ネジと思った少年の目は暗闇につながっているかのように仄暗い色をしていた。
この外に広がる暗闇そのものだと思った。


瞬時に間合いを取ろうとしたヒナタの脚に少年から伸びた触手がヒナタを捉えた。


「もう遅い…ここに自ら飛び込んだお前が愚かなのだ…ここにはもうあの男は存在しない…あの男は自分すら無に還そうと望んだのだ…おかげでオレは自由になれた……この魔力に満ちた肉体は素晴らしい……くくくっ…」


ギリギリと巻き付いた触手がヒナタの体を軋ませていく。


「ぐっ……そんなこと……っないっ!!!彼は強い人だもの……あなたなんかに負けるはずない……!!!」


ヒナタは片手をなんとか前へ向けると火蜥蜴を呼び出した。


「甘いな!」


新たな蝕手が今度は火蜥蜴に巻き付いた


キィィィィーーと声を上げた火蜥蜴がそのまま強く握り潰されて煙を上げて消えた。


「そんな?!私の力が……」


「お前の力は先の戦いで得た情報から無効化が完了している、オレは本来破壊者として創られだが…この男の力を得て新たに虚空の力を得た……全て無に還すことができる偉大な力…オレは最強の存在に生まれ変わったのだ」


「そんな膨大な力…あなたになど扱えないわっ!!」



「ならば試してやる……この辺一体の国を闇へと葬り去ってやろう…お前に見せられなくて残念だがな…!」


厄災は蝕手でヒナタの首をへし折ろうと力を込めた、すると次の瞬間宙に浮いていたヒナタは床に落ち蝕手はその体から切り離されていた。



「ふぅ……まったくおしゃべり好きのあったま悪い厄災で助かったぜ!」


「ホ…へトさん…」
倒れたヒナタをコウがその隙をついてヒナタを厄災から引き離した。


「まったくだ……子供の姿で油断させてヒナタ様を騙すなど許さん!!」


「子供だからって容赦しないけどな!」


トクマがあっかんべーをしながら付け加えた。



「みんな……来てくれたの…??」
周りを見渡せばいつも一緒にいてくれる仲間の姿が見えた。


先程まで感じていた孤独感はヒナタの中から消えた。


「当たり前だ!全く後先考えずに飛び込んだり…無茶なことをするのはもうやめろ!!!」
突然雷のような声が頭上に響く。見上げるとネジが怒りの形相でヒナタを上から睨みつけていた。


「ごっ、ごめんなさい……っ」
その顔に思わずひぃっと声を上げ、身を縮めさせ、固く目を閉じた。
すると次の瞬間ふわっとした感触を感じた。


ヒナタの片目にいつもの眼帯が当てられしっかりと結ばれた。
結ぶために近づいていたネジと目が合うとネジが慌てて体を離した。


「上に落ちていたのでな……」


少しだけ頬を染めたネジがなんだか幼く見えてヒナタは思わず微笑んだ。


「ありがとう…」



少しだけ気分が落ち着いたが、状況は好転したとは言えない… この厄災の能力……一度でもその身で受けた力はもう通じない。
つまり、たった今、力を使ったホヘトの能力はもう無効化されるはず…。



距離をとって何か打開策を打ち出さないとこのままでは全滅………。
そんなわけにはいかない……


思考を巡らせるヒナタにどこからか声が聞こえた


―――こっちよ―――





「えっ??……」


「どうかしましたかヒナタ様?」


「誰かの声が聞こえたような―――」


そして先程よりも大きな声が再び聞こえた


―――こちらへ――早く――!!




「みんな今はなにも言わずに私についてきて!!」


ストンとコウの腕から降りるとヒナタは呼び声のする方へと駆け出した。


「なんだかわからないが野郎ども船長に続け―――!!!」


「はいっ!!!」


ヒナタに続き先陣を切ったホヘトに続いてコウ、トクマ、ネジが厄災から遠ざかるように走り去った。



「ふん…逃げたか?……いいだろう、せいぜい足掻くがいい…どうせここからは出られんのだからな……」


少年がすうっと床へ吸い込まれるよう消えると、白い部屋も暗闇に圧縮されて消えていった。


闇の玉はどんどん大きくなりマーメイド・ラグーンを全て覆い尽くし、更に拡大を始めていた。


離れた沖合いで彼らの帰投を待つクルーたちはその異様な光景に固唾を飲みながら見つめていた。

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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

神殺し

TAG: 三つ目 (4) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 12/24/2012 01:49:31

能ある鷹の爪がもがれた感じでですvvv
[ 本文 ]

「いたい…」
そう言うとヒナタは、蹲ってしまった。
小さなヒナタの背中を擦りながら、ネジは顔を覗き込んだ。
「額?」
紅葉より小さなヒナタの手が、おでこの真ん中を押さえている。
掌を、ぎゅっと押し付けて、痛みを堪えるように、目を閉じているヒナタの様子が、酷く可哀想だ。
先日の誕生日で、やっと四つになったヒナタは、夏に誕生日を迎えたネジよりも、ずっと小さい。
背丈も、身体の細さは、勿論、言葉も動作も、ネジよりも、子供子供していた。
父に連れられ、伯父の家で、初めて小さな従妹に会った時、その幼さにネジの庇護欲がひどく刺激された。
優しい従兄に心配されたヒナタは、痛みにうっすらと涙ぐんだ目で、ネジを見た。
「うん…チクチク、チクチクするの」
痛みを感じている額の真ん中を、押さえたままの手を、ネジはそっと掴む。
「どれ?見せて」
ネジが優しく促すと、ヒナタは手の力を抜いて、額から手をどけた。
そこには、傷の一つもない、白くつるんとして、すべすべした額がある。
「………」
だが、ネジの白眼は、ヒナタの額にあるものを見ていた。
ネジは、父ヒザシが、悔しがり諦めきれない程に、日向の血を強く引き、才に溢れている。
ヒナタの額の真ん中に、黒と白が玉を作り、帯を引いて、互いを追いかけ合い、混ざろうとも分かれようともしているような奇妙な形をしているのが、ネジには見える。
グルグルと回っている、その塊に、ネジは不安を感じた。


コレは、ヒナタをネジから、取り上げてしまう。


塊の辺りに、ネジが指を置くと、じわりと塊の形が歪に滲む。
まだ、コレは弱いと、ネジは感じた。
だから、今のうちに、コレをヒナタから消さないと…ネジの大事な従妹は、手の届かない処へ行ってしまう。
ネジは、ヒザシに教わったばかりのチャクラを指の先に、集めていく。
「…痛いの…取ってあげる」
「うん」
真剣に慎重に、チャクラを掌へ集中し―――――音もなく、塊は霧散した。


ネジは、ヒナタの額の塊を、チャクラで握り潰した。


だが其れは、選ばれた者だけに開眼する森羅万象の目。


日向の血が、永に望んでいた、万物の支配を許される神の目。


今、第三の目と呼ばれる神眼使いが、滅された。

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熊猫

蛇と鳥

TAG: その他 (17) 異形 (1) /ネジ (54) /空也 (9) /イラスト (51) /小説 (39) |DATE: 12/24/2012 18:50:23

☆真に強いヒナタ様を夢見てみました(*´∀`*)
[ 本文 ]





蛇と鳥



はるか昔の話し。


異形の一族があった。
彼らは他の異形とは違う特殊な特徴があった。
幼い頃は、かよわき人の姿。
けれど、16歳を迎えると
己の真にふさわしい異形へと変化する。


一族の王の娘、ヒナタもその日を迎えた。
偉大な王は、天翔ける大きな翼を持つ大鷲の異形であった。
歴代の王族は全て鳥の異形となる。
長女のヒナタも…落ちこぼれではあるが
それにならうと思われた。


だが、侍女の悲鳴に王は娘の部屋に駆け込んだ。
そこには、地べたを這いずり回る、忌まわしい
蛇の異形の姿があった。
「なんということだ…我が姫が地這いなどに…」
王は怒り、ヒナタを殺そうとした。だがそこに
亡き弟の遺児である大鷹の異形であるネジが
飛び出し、ヒナタを庇った。
「王よ、姫を殺さないで下さい。」
王は訝しんだ。ネジは落ちこぼれのヒナタを蔑み
憎んでいたはずだ。天才である自分より劣るヒナタが
王位に就くことを誰よりも悔しんでいたはず。
なのに何故かばう?まさかこれを利用して王家を
乗っ取る気ではないか。王は、ならばと命じた。
「お前が、死ぬなら、ヒナタを許そう。」


**************************


心の臟を貫かれて、即死したはずだった。
ネジは赤々と萌える松明に、導かれて
暗い洞窟の中を歩いていた。
所々に刻まれた文様は、死者の国へ誘う物語を
あらわしていた。それで、自分は死者の国へ
歩いているのだとネジは気づいた。
やがて、大きな空洞に着き、そこには一つ目の
巨人がネジを待っていた。
「可哀想になあ…こんなに綺麗な異形なのに。」
言葉は哀れんでも、目は楽しんでいる。
死の国への門番か。残虐な臭いがする。
「地獄か天国か選ばせてやる。その綺麗な羽根を
くれたらなあ?」
巨人は、毛むくじゃらの大きな手をネジへと伸ばす。
死者の悲しさか、導かれた場所にたどり着いた今
逃げられないように、足が地に張り付いて動かない。
そうか、こうやって、こいつは死者をいたぶり
楽しむのか。死の苦しみが二度もあるなど…
そしてこっちの方が、たちが悪い。
ぐりりと翼をひねるように掴まれ思わず苦痛に呻く。
にたりと笑う巨人の黄色い歯の間から緑の涎が垂れる。
思わず目を逸したネジの腹に巨人の蹴りが入った。
同時に掴まれた翼が反動で強く引っ張られる。
「ーーーーーーーーーっ」
激痛に呻いた瞬間、目の前を真っ白な光がはじけた。
巨人の手が離れ、痛みから解放されたネジのからだに
柔らかくて白いものが巻き付く。無数の蛇を身にまとい
その身は白い蛇の異形となったヒナタであった。
「ヒナタ様?!どうしてここに?まさか殺されたのか?!」
約束を違えたのかと王への怒りで目の前が真っ赤に染まる。
だが、ヒナタはネジを巨人から守りながら告げた。
「いいえ…いいえ…私は死んでいません。」
「では、なぜ?」
「私は…蛇です。蛇は空は飛べないけれど、再生の能力を
もちます……だから…」
ネジ兄さんを…取り戻しに来たのです、と優しく微笑む。
その天女のような美しい微笑みにネジは魂を奪われ微かに喘ぐ。
そして意識を失うネジを、しっかりと抱き守りながら
しかしヒナタは、聖母の笑みから、蛇の異形の怒りの面に変貌し
巨人を威嚇した。死者を甚振る残虐な巨人にヒナタは怒り
凄まじい眼光で、巨人を一瞬で石のでくのぼうにしてしまう。
そうしてヒナタはネジを死者の国への門前で取り戻すと
彼を蘇生したのだった。


復活した若き鷹の異形と、蛇の姫がその後どうなったかは
誰も知らない。

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[ 空也 ]

日刊ゴーストファイブ 11/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/25/2012 00:00:00

第11章 【蒼の結界】
[ 本文 ]

ヒナタが呼びかける方へと走ると再び光が見えてきた。


また罠なのか…それとも……


しかし今はその声のする方へと行くしかなかった。


進んで行くと蒼く輝く波打つ結界が目の前に現れ、ヒナタ達はその中へと進んだ。恐れはない、むしろ安堵する…そう思った。



「あれは……クラーケンさん?」
蒼い結界の中には光の玉に包まれた幼いクラーケンが胎児が母胎に包まれているかのような姿で眠っていた。


「眠っているのか…?」
ネジもその玉へと近づきクラーケンを確認した。



【彼は今全てを拒絶し自らの消滅を願っています…】



「また?あなたは誰なの?!」


「どうしたんだ、船長?!」


ホヘトは見えない何かと話している様子のヒナタの肩を掴んだ。


「えっ?」
振り返ればコウ、トクマも不思議そうに自分を見つめていた。



「みんなには聞こえないの…?」


すると蒼い結界の中から人が現れた。しかしその下半身は人ではなかった。


【私は声を持たない人魚…今はあなたの魂に直接語りかけています…同じ波長を持つあなたにしか聞こえません…】


「またヒナタさまと同じ顔の…いったいどうなっているんだ?」
コウが現れた人魚を見て驚きの声を上げた。


「まぁ…この世には似た顔が三人はいるって言うしな…」
トクマが人魚とヒナタを見比べながらぼんやりと呟いた。


「いや似てるというか…どうみても同一人物だろ」
ホヘトもまた呆然とふたりを見比べながら言った。


「彼女が伝説に残る人魚姫です…」
ネジがクラーケンから離れ、人魚の方へと歩きながら説明した。


「生きていたのか?」


そのネジの問いかけに人魚はコクリと頷いた。


【果てた肉体は厄災に取り込まれたことで命を繋がれました…。今はクラーケン様が消えてしまわぬように厄災から守っています…】


その言葉をヒナタは皆に伝えた。


【厄災の力はもうお分かりですね……同じ力は二度と通用しない…一度でアレを滅ぼさなければいけません…】


「でも…どうやって……」


【あなたがたの力を一点に集結させるのです…5つの要素を一つに…それに私と彼の力を加えれば…】


「要素を一つに…?でもクラーケンさんは…?どうやって彼から力を借りたらいいのか…」


【それはネジさんになら可能です…】


「ネジ兄さんが?」


しばし二人のやり取りを静かに見ていた一同がネジを見た。


【彼もまた同じ魂の波長を持つ人…このままではクラーケン様は闇に呑まれてしまいます…一番安全なのはネジさんの中…】


「ネジ兄さんの中に移すというのですか…それに危険はないのですか…?…もしそれがネジ兄さんの命の危険を伴うというなら…私には到底受け入られま…」
「いいだろう」
ヒナタが言い終えぬうちにネジが簡潔に答えた。


「ネジ兄さん?」


「大凡のことはわかった。それしか方法がないのであれば試してみるしかない。オレたちはここで死ぬわけにはいかないのだから」


「なんだか知らないがネジは強い男だ!なぁに心配はいりませんよ!こいつは殺しても死なないタイプだからな!」
ホヘトがそういうと豪快に笑いながらネジの髪をかき回した。


「ちょっ、また!やめてくださいよっ」


「いいじゃねぇか!お前はオレのガキ同然なんだからな!」


抵抗していたネジがそれを聞いて大人しくなる。


「………ふん……ホヘトさんも年をとったということか…仕方ないな…全く」



「……コウ、トクマ…あなたたちも協力してくれますか?」


「なに言ってるんですヒナタ様!」「聞くまでもないよな―――っ!」
コウ、トクマもまた笑顔でそう答えた。



「―――ありがとう。今回は少しばかり時間がかかりすぎました。皆も心配していることでしょう!帰りましょう、みんなのところへ!」


ヒナタの力に満ちたその声に一同は強く答えた。



【………あなたが羨ましいです】


寂しそうに笑う人魚にヒナタがそれに答えた。


「あなたにもいるじゃありませんか……」


ヒナタのその言葉に人魚はクラーケンを見ると頷いた。どこか陰りのあるその顔にヒナタは小首を傾げた。


【では彼の魂をネジさんへ……】
人魚が光の玉に触れるとそれはどんどん小さく圧縮され、ちいさな黒い真珠となった。
それを手に人魚はネジの上着をはだけるとその胸へと近づけた。
すると黒い真珠はネジの体に吸い寄せられるかのようにひとりでにネジの体へとはいっていった。


「ぐっ……」


小さいが質量の高いそれを受け入れるのはネジに大きな負担を与え、ネジはそれに必死に耐えた。
固く歯を食いしばり体からはじっとりとした汗が溢れた。


「だ、大丈夫?!ネジ兄さんっ」


思わずヒナタが駆け寄ろうとするのをネジは手で制し、ヒナタの足が止まる。


「心配いらない…」


【……ありがとう…彼を受け入れてくれて……】


「オレは……別に嫌いじゃなかった……可愛げなんか微塵もなかったがな…」


【…聞こえるのですか?私の声…】


「最初からな…」


目を瞠った人魚にネジがそれだけ答えるとグラリと大きく揺れた。


「ネジ兄さん!?」


今度こそヒナタはネジへと駆け寄ると倒れるネジを受け止めた。


そして結界の向こう側から暗い気配が迫りビリビリとした威圧感がこちらへと迫ってくるのを一同は気づいた。


「やっこさん気がついたみたいだな…」
ホヘトが結界の波が荒れ狂うのを見ながら笑った。


「自分の危機を察知したのでしょう…そう馬鹿でもなさそうだ」
コウもホヘトに笑いながら言い返した。


「人魚姫ちゃん、オレたちはどうしたらいいんだ?」
トクマがホヘトとコウに並びながら問うた。


[皆さんの持ちうる限りの力をヒナタさんへ・・・・チャンスは一度です・・・]
人魚姫の言葉をヒナタが伝えると一同に緊張が走った。


「心配は無用です、これで決められなければ最後・・・迷わずに私を信じてください・・・」
ヒナタはホヘト、コウ、トクマの手をとって重ねると最後にもう一つ手のひらが加わった。


「お人好しで甘ちゃんでおせっかいな人だが、それでもこの人はオレたちの船長・・・信じるさ」


「ネジ兄さん!」
意識を取り戻したネジがいつもの彼らしい笑顔を見せた。


「おいおいおい、ネジにおいしいとこもってかれちまったな~~~まぁ、いいか!」
トクマがぼやきながらもう一歩の手を重ねた。


「よし!ヒナタ様にすべて預けろ!いいか全部だぞ!!人魚のお姉ちゃんもだ!!」


ホヘトが4人に檄を飛ばした。


「了解!!!すべての力をヒナタさまへ!!」


円陣を組んだ場所にすべてのエネルギーが集い暗闇を切り裂くかのような光が奔った。
それと同時に蒼の決壊は外からの衝撃派によって破壊されあたりに飛び散った。



「おのれ、死にぞこないの人魚ごときが邪魔をっ!!!」


クラーケンの姿をした厄災は巨大な重力球を創りだしヒナタ達に、向けて放った。


「やばいぞ!!!」


「だめだ!まだすべてヒナタ様に預けていない!!」



騒音が響き渡り、辺りは濃霧で満ち、視界が遮られた。


「やったか……」
厄災は目を細めじっと奥を見つめた。そしてようやく霧が晴ていくと、彼は顔を歪ませた。


「なんだと………」


厄災の放った重力球はドレスをまとった女性が受け止めていた。


「あなたは………!!!」
ヒナタが現れた人物を見て声を上げた。
「よかった…間に合って、さぁ、今のうちに早く!!」


「よし、おまえたち、あのグラマーな姉ちゃんが押さえてくれている間に急げよ!」


「わかってるよ!」


「あなた体が……?!」
ヒナタ姫の体はすでに下半身がきえかかりその存在が危ぶまれているのだと分かった。


「……わたしはもう個を持たない存在…姿が消えても私は再び海流へと帰属するだけ…あなたが気にすることはありません…」


「でも…」
動揺するヒナタをよそに姫は人魚へと向くと語りかけた。


「人魚姫…あなたにこれをお渡しします……」


ヒナタ姫の手から七色の光の玉が差し出されるとそれは人魚姫の喉へと入っていった。人魚姫の冷たく凍えていた喉は次第に暖かく柔らかくなっていった。


「あっ…わ…たし…声が…」



人魚姫は思わずヒナタ姫をみた。


「…あなたの声を…?」


ヒナタ姫はなにも言わずただ頷いた。


そして、最後にネジをみると唇だけ動かし何かを伝えるとヒナタ姫は完全に消滅した。


ネジは空中に溶けるように消えたヒナタ姫へと呟いた。


「ヒナタ姫・・・あなたは嘘つきだ・・・」

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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

❋COMMENT❋

AUTHOR: 重吉|DATE: 12/25/2012 09:28:36|TITLE: 「みんなのちからをかしてください!!」

よいこのみんな―o(*・ω・*)o―!! 入場者プレゼントのレインボーライトを照らして映画館に奇跡を起こそうヽ(*・∀・*)ノ!! ※映画館入場特典レインボーライトは中学生以下のお子様のみ配布となります。  高校生以上の方は心のレインボーライトを点灯して応援してください☆☆

向こう側の少女 前半

TAG: その他 (17) /ネジ (54) /つぼち (2) /小説 (39) /関連(2) |DATE: 12/25/2012 03:29:25



いつからそこにいたか分からない。


ただ、気づくと私は薄暗い部屋の中たたずんでいた。


ここはどこ?


手を伸ばす。


見えない壁が、行く手を阻む。


ここはどこ?


・・・誰か、誰か・・・


あぁ・・・


ここには誰も、・・・いない。

「向こう側の少女」
[ 本文 ]


少年は、注意深く辺りの様子を窺うと、さっと、空き教室に身体を滑り込ませた。
静かに扉を閉め、大きく息を吐く。ここならば、やたらと自分に構ってくる暑苦しい級友も追っては来まい。
 少年は、すでに使われなくなった机やいす、棚や教卓が乱雑に詰め込まれた教室を見渡し、どこか座れそうな場所を探した。ポケットに入れた文庫本を引っ張り出して、制服に埃がつかないように気をつけながら狭い隙間を進む。左胸につけた名札が棚の角にあたってカツンと音を立てた。プレートには「日向」の文字が刻まれている。少年は名を日向ネジ、といった。成績は優秀。友人は少なくはないが、多いわけでもない。彼は昼休みの時刻を知らせる鐘が鳴ると、こうして本を片手に一人教室を抜け出し、屋上で読書にふけることを日課にしていた。しかしここ最近、熱血馬鹿の級友に居場所が知れてしまい、一人は良くないだの何だの言って付きまとってくるようになった。ネジは、これでは読書も出来ないと、新しい安息の地を求めてこの空き教室に辿り着いたのだった。
 物置と化したその教室は、長らく人が入った形跡もなく、どこもかしこも埃をかぶっていた。ネジは比較的きれいな椅子を見つけると、埃を払ってそこに腰かける。パラパラと本のページをめくり、途中になっていた所から読み進めようとして、ふと真横に大きな鏡が置かれていることに気付いた。不思議なことに、その鏡だけは周りと違って一切埃をかぶっていない。最近運び込まれたのであろうか、しかし、こんな大きな鏡が学校にあっただろうか。ネジはそこまで考えて、まぁいいか、と本に目を落とした。


****


 それから数日、ネジは昼休みの度に、その教室に通うようになった。そこは、昼休みだというのに不思議なくらい静かで、生徒の声一つ聞こえなかった。音と言えば、本のページがめくられる音や、ネジが足を組みかえるときに椅子が軋む音くらいのものだった。
 その日もネジは、既にこの部屋にやってきてから2冊目になった文庫本を開き、いつもの椅子に腰かけた。そのとき、ふと、視線を感じたような気がしてネジは何となく辺りを見渡す。当然周りには誰もいない。気のせいか、と改めてページを開く。と、その時、誰かが近づく気配とともに、はっきりと耳元で声が聞こえた。


『うそっ・・・もうそんなに読んじゃったんだ・・・』


「・・・え?」


思わず、ばっと顔を上げ、きょろきょろとあたりを見回す。・・・誰もいない。
しかし、気配だけは依然として近くにある。


『えっ?あっ・・・ごめんなさい、驚かせちゃったかな・・・』
「なっ・・・?」


また、声。今度は先ほどよりも遠慮がちに。
ネジは教室を見渡すが――といってもモノだらけであまり見えないが――人の影は見えない。


『あの、すみません・・・こっちです。』
「え?」


ネジがふり返ると、目に入ったのはあの鏡。そして、そこには自分の姿が映って――いなかった。


『えっと・・・はじめまして・・・?』


鏡の中に、少女が立っていた。


ネジは声も出せずに目を見開く。幻覚を見るほど、自分は疲れているのだろうか。鏡の中に、自分以外の人が見える。どこか靄がかっている部分もあるが、その顔立ちははっきりとわかる。背丈はネジと、同じくらいだろうか。切りそろえられた前髪に、背中までの長さはあろう黒髪。どこかの学校の制服なのかセーラー服に身を包み、恥ずかしそうに笑っている。恐らくネジよりも二、三歳年上に見えるその少女は、驚きのあまり固まって動けずにいるネジに申し訳なさそうに首をかしげた。


『ごめんね・・・?いつも聞こえていないみたいだったからつい・・・あ!いつもありがとう!本すっごくおもしろいよ』
「ほ、本・・・?」
『あ、その・・・!あなたがここで本を読んでいる時、横から一緒に読んでいて・・・。勝手にごめんなさい・・・』


あぁ、それでこの人は先刻驚いていたのか・・・昨晩少し読み進めたからな・・・と混乱する頭の片隅で考えながら、ネジは鏡の中の少女を改めて見る。現実離れした状況に、頭がついていかない。ただ、不思議と恐ろしい感じがしないのは、彼女が非常に恥ずかしそうにはにかみ、もじもじと手を胸の前でいじっている姿が、普通の少女のそれと何の違いもないからであろうか。


『あの・・・大丈夫?ごめんね、驚いたよね・・・。』
「あ・・・それは、まぁ、驚きます・・・けど。」


しばしの沈黙。ネジはこの通常ならあり得ない状況に、どうしていいか分からず固まっていた。相変わらず頭が上手く回らない。と、その時少女が沈黙に耐えかねてか口を開いた。


『あ、あの、いつもここで本、読んでるけど、好きなの?』
「え?あ・・・ま、まぁ・・・」


突然の質問に戸惑いながらもネジが答えると、少女は嬉しそうに手を合わせてほほ笑んだ。
鏡の中の頬が、わずかに染まり、淡い桃色になる。


『そっかぁ・・・私も好きなんだー・・・えへへ、おそろいだね?』
「は、はぁ・・・」
『あ!』
「な、なんですか・・・?」
『ごめんね!読書の時間なくなっちゃうよね、私のことは気にしないでいいからね?』


『さぁ、どうぞ』とばかりににこにこと笑う少女に促されて、思わず本を開いたネジだったが、隣でじっと見つめられては集中できない。そもそも、彼女は一体何者なのだろうか?幽霊?幽霊は鏡の中にもいるのだろうか。そもそも幽霊などという非科学的なものが存在するのか。しかし現実に目の前にあり得ないことが起こっている・・・。ちらりと横目で少女を見やると、真剣に本の文面を目で追っていた。こちらに危害を加えてくる様子もないが・・・。


キーンコーンカーンコーン・・・


予鈴が鳴り、ネジは殆ど読み進むことなく手にした本を閉じた。
鏡をみると、少女が名残惜しそうに息を吐く。


『休み時間、終わっちゃた・・・いつもあっという間なんだよね・・・。』

そういって笑う少女が、あまりにも寂しそうな顔をするものだから、ネジは反射的にこう答えてしまっていた。


「また、来ますよ。」


何も考えず口から出た言葉だった。しまった、と少女を見ると、一瞬ぽかんとして、それから嬉しそうににっこりと笑った。


『・・・ほんと?』
「あ・・・その・・・はい。」
『うれしい!待ってるね?』
「はい・・・じゃあ、俺はこれで・・・」
『うん。またね。』


教室を出る直前、ネジがふり返ると、まだ少女は鏡の中で手を振っていた。



****



翌日の昼休み、ネジは再び例の教室の前に立っていた。思わずまた来る、とは言ったものの、ネジは・・・迷っていた。鏡の中に、普通生きた人間がいるわけがない。冷静になって考えて見れば、明らかにおかしい。誰かのいたずらの可能性もある。こうやって自分をからかっているのかもしれない。もしくは、昨日見たことは全て幻だったのかもしれない。何にしろ、関わらないのが一番だ・・・。
それでも・・・
ガラ、と扉を開けると、ネジは例の鏡を目指して狭い道を進んだ。鏡が、ネジの姿を捉える。昨日見た少女は、いない・・・なんだ、やはりただの夢・・・


『本当に、来てくれたんだ・・・よかった。』


突然の声に、驚いて鏡を凝視すると、先ほどまでネジを映していた場所に、嬉しそうにほほ笑む少女が立っていた。


『いつもより遅いから、もう来てくれないかと、思ったの。』
「・・・すみません。」
『ううん!来てくれただけで、嬉しいの。・・・本当に、・・・本当に、ありがとう。』


少女はほほ笑んではいるものの、その目はわずかに潤み、そして、一粒の涙がこぼれた。


「えっ・・・」
『っ・・・ご、ごめんなさい・・・!その、嬉しくてつい・・・ごめんね、気にしないで・・・』


突然の少女の涙に、ネジは慌てて少女の元に駆け寄る。少女の長い睫毛を濡らして、涙はどんどん零れおち、彼女の制服に一粒、二粒と吸いこまれていく。
少女は涙を拭うと、ネジを見てほほ笑んだ。


『私、ずっと、ひとりだったから。・・・あなたがここに来てくれて、・・・嬉しかったの。』


『だから、・・・、ありがとう。』綺麗に涙を流す少女の姿に、ネジは何も言えず、そっと、鏡に手をあてた。
面倒事は、嫌いだ。それでも・・・気づけばここにいた。自分は、何故再び来てしまったのだろう。
しばらく黙っていたネジだったが、視線を上げると、少女の目を見て、静かに口を開く。


「泣かないで、ください。その・・・女性に泣かれると・・・困る。」
『ご、ごめんね・・・。』
「べつに・・・あなたは悪くない。」
『・・・ありがとう。優しい、ね。』


少女は目の端に雫を残したまま、ゆっくりとネジの手に合わせるように、ネジよりもはるかに小さなその手を差し
出した。
手に触れる感触は、鏡の冷たいそれでしかなかったが、確かにそこにはぬくもりがある。


「俺は・・・ネジといいます。・・・あなたは?」
『え・・・?』
「名前を、知らないと・・・呼べないでしょう?」
『あ・・・ヒナタ・・・です。』
「・・・ヒナタ、・・・さん。・・・俺はちゃんと来るから、大丈夫ですよ。だから・・・」


「もう泣かないで、下さい。」そういって、ネジは微笑んだ。この人を、泣かせたくない。ここに来る理由など、分かっていた。鏡に触れる指先に力がこもる。例え、彼女が人でないとしても、この人に寂しい思いは・・・。
ヒナタと名乗った少女は目に涙を溜めながら、あはは、と声を立てて笑う。


『・・・これ、嬉し泣き、だよ?』
「それでも、・・・困ります。」
『ふふ、・・・うん、ありがとう。』



ヒナタは袖で涙を拭くと、『また・・・邪魔しちゃったね。』と綺麗に笑った。



続・・・

はじめましての方もお久しぶりですの方もこんにちは!つぼちです。 ヒナコレ参加する!と実はずいぶん前から意気込んでいたものの、やはりぎりぎりになってしましました。ごめんなさい! そして続きます。重ねてごめんなさい!後半はもう少ししたら・・・ またこの場をお借りしてこの素敵な企画を立ち上げて下さった重吉さまと、はすのさまに、心よりお礼申し上げたいと思います有難うございます。 ヒナタ様おめでとう。メリークリスマス。

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つぼち

向こう側の少女 後半

TAG: その他 (17) /ネジ (54) /つぼち (2) /小説 (39) /関連(2) |DATE: 12/25/2012 05:08:03

[ 本文 ]

渇いた咳が、埃っぽい部屋に響く。
ネジが鏡の中の少女と出会ってから3週間がたとうとしていた。
ネジは毎日欠かすことなく昼休みになるとこの教室にやってきて、ヒナタのいる(?)鏡の傍で本を開く。最近は放課後も彼女の元へ通うようになったため、二人で読んだ本の冊数もこれで5冊目になる。
本を読む合間に二人は様々なことを――主にネジがヒナタに語り、ヒナタがニコニコと二いているのであるが――話した。クラスメイトのこと、担任のこと、家族のこと・・・
―――「俺には、両親がいないんです。」『・・・え?』「俺が幼い時分に他界してしまって・・・それからは叔父の下で暮らしているんだ。」『そっか・・・ごめんね、辛いこと聞いちゃって・・・』「いえ、もう、ずいぶん昔のことですから。」『それでも・・・ごめんね。』彼女の見せる悲しげな表情に、何故かネジはひどく心が痛んだのを覚えている。
ネジは咳が治まると、口にあてていた手を外し、本のページをめくった。
ヒナタは鏡の中から心配そうにネジの顔を覗きこむ。


『・・・大丈夫?』
「ええ、・・・平気です。」


ここ最近、ネジは体調を崩している。数日前から咳が止まらず、時々ふらつくこともあった。一緒に暮らす叔父や六つ年下の従妹は心配したが、ネジは無理にでも学校に来ていた。他でもない、・・・彼女を悲しませないために。
最近になって、鏡に映るヒナタの姿は以前よりもはっきりと見えるようになってきた。以前のように靄がかかることも無くなり、彼女の長いまつ毛の一本一本までが見てとれる。表情は曇ってこそいるが、こうみるとヒナタは本当に美しい少女だった。


『・・・ほんとうに?』
「はい。」
『でも、顔色が、わるい・・・』
「そんなこと・・・ありませんよ。」
『うん・・・ごめんね・・・』


悲しそうに鏡の境界に手をあてがうヒナタに、ネジは無理に笑って見せる。


「なぜ、あなたが謝るんですか。それに、俺は大丈夫ですよ。」
『でも・・・無理、しないでね。』
「・・・はい。」


なぜヒナタがこんなにも悲しそうな表情を見せるのか、ネジには分からなかった。
ただ、そんな顔が見たいわけではないのに。


キーンコーンカーンコーン・・・


予鈴が埃っぽい教室に鳴り響く。ネジは本を閉じ、「じゃあまた、放課後に来ますね。」と言って、立ち上がった。途端、視界が歪み、ネジは耐えきれず前のめりに膝をつく。同時に止まっていた咳の発作が再びネジを襲った。


『ネジ君・・・!』
「っ・・・コホッ、ゴホッ、・・・んく・・・!」


ぼやけた視界の中、ふと誰かの手が優しく肩に添えられたような温かみを覚え、振り返ろうとするが次々と咳がネジを襲い、ネジは片手を床について治まるまでを耐えるしかなかった。ようやく落ち着いた頃には肩のぬくもりは消えていた。ヒナタが心配そうにこちらを覗きこんでいる。


『大丈夫・・・?』


「だ、だいじょう、ぶ・・・です。」
『無理して、来なくても・・・いいんだよ。』


ネジは黙って立ち上がると、「また放課後に。」と言い残して教室を出た。


******


翌日の昼休み、いつものようにネジが本を片手に席を立つと、目の前に級友のロック・リーが立ち塞がった。マッシュルーム型に切りそろえられた髪型の彼は、腰に手をあててネジの行く手をふさいでいる。


「なんだ、リー。邪魔だぞ。どいてくれ。」
「いいえ!今日という今日こそは行かせません!」


リーはびしっとネジを指さすと、「君は、最近見るからに体調が優れていません!それなのに大人しくしていないとは何事ですか!」とネジの手から文庫本を取り上げる。


「何をする!」
「今日は大人しく教室にいてください!僕は君を心配しているんです!」
「・・・余計なことをっ・・・?く、ゴホッ、コホ、ゴホッ!」


リーから本を奪い返そうとした時、突然ひどい咳がネジを襲った。あまりの苦しさに膝をついて口元を押さえたが、どんなに止めようとしても咳は一向に収まらない。


「ネジ!?大丈夫ですか!?」


次第に意識が遠のき、ネジは級友の声を遠くに聞きながら意識を手放した。



* * 



『だれか・・・だれか・・・』


誰かが、泣いている。


『寂しいよ・・・一人にしないで・・・』


泣かないでくれ。
大丈夫、俺がそばに・・・



* *


目ざめたネジが見たものは、白い天井だった。ゆっくりとベッドから身体をおこし、あたりを窺う。どうやら保健室のようだった。ベッドを取り囲むようにして引かれたカーテン。差し込む光の具合から、既に夕方だと言うことがわかる。


「え・・・!?」


ネジは焦って時計を見る。壁に掛けられた時計は、午後3時を指していた。
(ヒナタの処へ、行かないと。)
昼休みに、発作に襲われ倒れた所までは覚えている。恐らく、そのまま気を失ってここに運び込まれたのだろう。今日、彼女には何も伝えていない。きっと、ネジが来ないことで不安に思っている。彼女は、いつもひとりだから。
ベッドから降りようとしてバランスを崩す。身体に力が入らず、息が上がる。


「っ・・・!く・・・」


それでも、行かないと。
彼女はそこで・・・待っているのだ。



****


保険医が留守にしていたことが助かった。ネジは保健室を抜け出すと、重たい身体を引きずるようにしてヒナタのいる空き教室に向かった。
まだ授業時間のせいか、誰とも会わない。
ネジは教室に入るとヒナタを目指してモノとモノの隙間を進む。
何度も身体をぶつけながらも鏡の前に辿り着くと、力尽きて膝をついた。


「ゴホッ!コフン、コホッ!く、・・・!」


苦しみに耐えながら顔を上げると、鏡の中にヒナタが立っていた。
鏡の向こう側とは思えないほど彼女の存在は現実味を帯び、鮮明で、美しい。


『ネジ・・・君・・・。』
「昼は、・・・すみま、せん・・・約束っ・・・ゴホッ!」
『ごめんね・・・』
「なん、で・・・あなたが謝る・・・ゴホ、ゴホ、ゴホ!!」
『ごめん・・・なさい・・・』


ただただ涙を流すヒナタに、泣くなと言いたいのに、来れなくて悪かったと言いたいのに、咳がそれを阻む。


「ひな、たっ・・・ゴホッ!!」


口にあてた手の平に、生温かい感触を感じ、目を落とすと、手のひらが赤く染まっている。
血、だ。


「っ・・・!」
『ネジ君っ・・・』


自分なら、大丈夫、だから心配するな・・・そんな言葉の代わりに激しい咳がネジの肺を蝕んでいく。
ふと、視界に人影が動いたような気がして、なんとか顔を上げようとした時、頬を体温のある両手で包まれた。


「え・・・?」
『ごめんね・・・本当にごめんね・・・』


ヒナタが、鏡の中から抜け出して、目の前で泣いていた。鏡の中でしか見たことのない彼女の涙は、床に弾けて染みを作る。


『私のせいなの・・・ゆるして・・・』
「ちがう・・・あなたは、わるくなっ・・・コホッ、ゴホッ・・・!」


発作のような激しい咳に、身体を丸めて苦しむネジを、濡れた瞳で見つめ、ヒナタは立ち上がって今まで拠り所であった鏡に近づいた。彼女はネジに向き直ると、弱々しく微笑んでこう言った。


『・・・今まで、本当に・・・毎日来てくれて・・・嬉しかった・・・ありがとう。』
「な、に・・・ひな・・・ゴホッ!」


床に両手をついて苦しむネジに、ヒナタは一瞬駆け寄ろうとして、その動きを止めた。唇を噛んで、そのネジに触れようとした手を引っ込める。辛そうに目をそらしたヒナタの目からは大粒の涙がこぼれおちる。


『私が・・・あなたの命を削っていることくらい・・・分かってたのに・・・。』
「ちがう・・・。」


ネジが首を振って見上げると、ヒナタは鏡に手をかけて笑う。どこか寂しそうなその笑顔に、嫌な予感を覚えた。


『ありがとう。・・・わたし、本当にたのしかった・・・』


そういってヒナタは――自身の鏡を力いっぱい押し倒した。


『・・・ありがとう。』
「よせ・・・!」


それなりの大きさのある鏡は、ネジの目の前でゆっくりと倒れ、床に叩きつけられて、砕け散った。飛び散った破片が、宙を低く舞う。


「っ・・・!」


同時に、見上げたヒナタの姿に亀裂が走り、すっ・・・と透明になっていく。
ヒナタは笑ってしゃがみ込むとネジに微笑みかけた。


「ど・・・して・・・」
『もう、さみしく・・・ないから。』


『ありがとう。』彼女の言葉と笑顔を最後に、ネジは再び意識を失った。



******


ネジが目を開けると、まず目に入ったのは、やはり白い天井だった。ただ先ほどの保健室ではなく、どこか別の場所のようだった。


「目、さめた~?」
「っ・・・!?」


ベッドの側に、保険医のカカシが本を手に腰かけていた。


「もー大変だったんだから。具合悪いならじっとしてる!保健室をぬけださない!あ、ここ病院ね。」
「先生・・・俺はいったい・・・」
「覚えてないわけ?君空き教室で倒れてたんだよ。血も吐いてたみたいだしびっくりしちゃった。あとでリーにお礼、いいなさいよ。彼が見つけたんだから。」
「そう、ですか・・・すみません。」
「はい!じゃあ、俺、君の叔父さん呼んでくるから。心配してたよ。謝んなさいね。」
「はい・・・あ、あの。」
「ん?」


扉に手をかけたカカシを、ネジが引きとめる。


「俺の側に・・・鏡が・・・割れていませんでしたか。とても大きな・・・」
「えー?なにそれ?そんなのなかったけど。」
「いえ・・・すみません。なんでもありません。」
「はいはい、じゃ、またあとでね。」


病室の扉が閉まり、ネジは再び起こした上体をベッドに横たえた。
大きく息を吐き、手で目を覆う。
一筋の涙が、少年の頬を濡らした。



終

設定は前半に言うべきでしたが、外見的には一部ネジと、二部ヒナタです。 ちなみに、なんか似たようなの知ってる・・・って方がいたら、お友達になって下さい。設定の一部分は○リックです。←

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つぼち

❋COMMENT❋

AUTHOR: 風 | DATE: 12/26/2012 01:06:23|TITLE:

It's really a sad story...I hope Neji could accompany Hinata, but they meant to separate in the end. How sorrowful... Neji should remember her in his whole life. I wish they can meet each other again. (Maybe Hinata転生...)

AUTHOR: つぼち|DATE: 12/26/2012 13:56:38|TITLE: 風様v

コメント有難うございます! 日本語で失礼します;;; 私もこの後ネジはずっと、鏡の中の女の子のことは忘れられないのではないかな、と思っています。 実は後日談も考えていて、10年後に出会った少女がヒナタにそっくりで・・・としようかな、と思ったのですが、・・・無理にハッピーエンドで終わる話にしなくてもいいかな、と今回はこういう形になりました^^ でもやはり2人には幸せでいてほしいですよね! 有難うござましたv

読心

TAG: サイキッカー (3) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 12/25/2012 01:01:56

ラブラブです。
[ 本文 ]






「はい、ネジ兄さん」
「ありがとう」
ヒナタが、差し出した巻物を受け取り、ネジは調べ物の続きを始めた。
目当ての巻物だったらしく、ネジは真剣な眼差しで、集中する。
その様子に、ヒナタは満足気に微笑むと、そっとネジの傍を離れ、他のくの一の元へ戻った。
「よく、分かるわね」
「え?」
ネジとヒナタの様子を、眺めていたくの一が、感心したように呟いた。
その言葉に目を真ん丸としたヒナタに、彼女は以前、ネジと任務を共にした事があると話した。
「ネジって、何考えてるのか、わかりにくいじゃない」
無口で、表情も乏しいネジとのコミニケーションの取りにくさに、頭を抱えお手上げ状態になったのだ。
だがヒナタは、小首を傾げ、苦笑する。
そんなヒナタの様子に、彼女は、くの一らしい事を思いつく。
「あ、それって、読心の術とか?」
「ち、違うよ…」
「え~~なになに?白眼だから?瞳術?え~~教えてよ~~」
執拗く絡む彼女に、ヒナタは、困ってしまう。


それは……ただ、好きだから、ネジの事がわかってしまうだけなのだから。

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熊猫

日刊ゴーストファイブ 12/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/26/2012 00:00:00

最終章【クラーケンの至宝」
[ 本文 ]

「よし!いいぞ!!全て船長に送った!もうなんも出ないぞオレは!」
ホヘトがそう言い手を離すと後ろへと倒れ込んだ。
「僕もです…」「オレも~~っ」
コウも膝を付き、トクマもがっくりとうなだれた。


「……オレとコイツの力も…全てあなたに送った!」


「わたくしも…です」
ネジと人魚姫もまた力尽きた。


「……ありがとう皆の力お借りします…」


ヒナタは一人厄災の前へと躍り出る。


「なんだ……お前一人でなにができるというのだ……」



「私は一人ではありません!……あなたを封印します!エルピスよ、私に箱を!!」


ヒナタが天高く手を掲げるとホワイトアイズにあるはずのパンドラの箱が空間を超えてヒナタの手に収まった。


それを見て厄災は思わず後ずさった。
ヒナタは先ほど人魚から取り除いた厄災の結晶を取り出すと箱へと収めた。



「さぁ、お還りなさい……ここがあなたのいるべき場所なのだから…できれば自分から戻って欲しいのだけど…」


「ほざけ!!小娘が…たかが人の子が少し力を持つからとつけあがるな!!!」


厄災は既にクラーケンのかたちをも形成せず、己の形を忘れてヒナタへと向かってきた。


「………平静さを欠いたあなたの負けです!皆から託された力を今ひとつに!!」


ヒナタを中心に火、水、風、土、天、闇、光の7つの要素のシンボルが輝き一つに混ざり合った。


そしてそれは小さな一本のダガーとなった。刀身が七色に輝く美しいダガーひと振り。


自ら持ち主を選ぶかのようにそれは小さなヒナタの手のひらにしっくりと収まった。


それを見た厄災は愉快そうに声を上げた。


「なんだそれは……っ!!そんなものでオレと戦うなど愚かな!!自分の愚かさを闇の中で嘆くがいいっ!!!」




ヒナタを粉砕する勢いで厄災が激突した。



「ヒナタ様っ!!!」


見守っていた3人が思わず駆け寄ろうとするがいつの間に結界が張られたのか3人は弾き返されてしまった。


「なんだ!これは…!!」
ネジが結界の前で唇を噛んだ。強くかみすぎて血がうっすらと滲んでいた。


「これは恐らくヒナタさんが創った結界…皆さんを巻き込まないための…」
人魚姫がそういうとネジはくそっ!!と結界をその拳で叩いた。


「ヒナタ様はどうなったんだ…」
コウが目を凝らしてじっと様子を見た。激突の衝撃の強さを濃い密度の風塵が物語っていた。



「いたっ!ヒナタ様だ!!」
トクマが指差した方向には、小さなダガー、一本で厄災の一撃を軽々と止めたヒナタが立っていた。



「……なんだと……!?」



「見た目で判断するなと…神様に教わらなかったのですか?」


ヒナタはそういうと高く跳躍し厄災の真上まで上がると一気に降下した。


「かつて破壊者であり虚空の王よ!あなたこそ無に還るがいい!!!」


ダガーを構えたヒナタが厄災を貫通し着地した。


断末魔の叫びとともに大きく膨れ上がっていた厄災は一気に収縮を始め小さな結晶と化した。


それはコロンとヒナタの手のひらへと転がり落ちてきた。


「封印……」


ヒナタの言葉で再び箱が現れ暗く冷たい結晶は箱へと封印され、パンドラの箱は現れた時のように空間から消えた。



手に持った七色のダガーもその形を失いそれぞれの宿主の元へと還っていった。



「………終わった………」


ヒナタが消えた箱を見つめながら呟く。大きな力をその身に受けた反動でひどく体がだるいと初めて感じていた。



黒い闇は徐々に薄れ硬い外壁はガラガラと珊瑚の残骸のように崩れ始めた。
そして闇の中と思っていた場所はマーメイド・ラグーンの最深部だと知った。


珊瑚が崩れる音と共に別の振動が響き始めた。


「なんだ!?ここ…沈没してるんじゃないのか!?」


トクマがいち早く地質の異変に気がつき声を上げた。



「なんだって…ここは最深部だぞ…沈んだら海の底じゃないか…冗談じゃない…」
コウがいつもながらに冷静に分析した。



「なぁに…ここはいっちょオレの力でな…」


ホヘトが手をかざすがなにも起こらなかった。



「頼むよ冗談やめてくれよー」



「うりゃ!…あれ? そりゃ!!………どうも……ダメみたいだなこりゃ」



ホヘトがお手上げといったふうに両手を上げた。



「そりゃ全て力をだしきったのだから仕方ないでしょう、しばらくは使えないんじゃないですか?」


ネジがしれっとした表情で語った。その背には人魚姫を背負っていた。


「え?なんなのコイツ?なんかムカツク!!」
トクマが今回無意識に美味しいとこ総取りのネジに憤った。


「じゃあどうすればいいのか……」
コウが顎に手を当てて思案していると…


「階段ありますよ」
さも当たり前のようにヒナタが階段を指差していった。いつもの笑顔とともに。


それにネジも普通に頷いた。




「え?」若い二人の思考についていけない3人は呆けた声を上げた。


「なにぼうっとしてるんですか?そんなところに立ってたら危ないですよ!」


そう言うとヒナタは階段を駆け上がり始めた。


「悪いがもう定員オーバーなので自力で上がってください」


皮肉な笑顔とともにネジもまたヒナタに続いた。


「……なんだろう、この気持ち」
コウがこめかみをピクピクさせながら笑った。


「おお、コウのこんな顔は初めて見るぜ…」


トクマが身震いしながら階段の方へと走り出すとコウもものすごい勢いで走り出した。


「老体に鞭打つってのはこのことか……ってオレはまだ若いっての!!」
セルフツッコミを入れながら最後にホヘトが続いた。


火事場のなんとやらで、ゴーストファイブ一行はなんとか崩壊する寸前に地上へとたどり着いた。



乗ってきたボートを見つけると一行はそれに乗り込み沈むマーメイド・ラグーンへと目をやった。
残された陸地も遠ざかる事に見えなくなりマーメイド・ラグーンは完全に海へと没し、再び辺り一帯に静けさが戻っていった。



「しかし……結局【クラーケンの至宝】はなんなのかわからずじまいだったなぁ…最下層にはなんもなかったし…デマだったんだなぁきっと」
トクマがぼんやりと言った。


「お前まだそんなこと考えてる余裕あったのか…」
コウがほとほと呆れ顔でいった。


「至宝は金銀財宝ではないのです…トクマさん」


人魚が海面を泳ぎながら話しかけた。


「なら…一体なんなんです?」
ネジの問いかけに人魚姫はネジの胸に手を当てた。


「至宝というのはこの海に平和と安定をもたらすものの総称……かつてそれは人魚姫だと言われていましたが…この長い時の中、この海を守っていたのはクラーケン様です…。彼こそが至宝なのです。
…そして、今はここに居ます……」


そういうと人魚姫の手が光りを帯、ネジの内側から再び黒い真珠が現れた。


「ぐっ……やるならやると言ってくれ!!結構しんどいんだから…」
呻きながらネジが毒づいた。


「ご、ごめんなさいっ…」


「だ、大丈夫?ネジ兄さん??」


ヒナタが心配そうにネジの背中をさすった。先ほどまでの勇ましい彼女の姿は消えいつも通りのヒナタだとネジは横目でちらりと見ながら安堵した。


「ああ………、こういう無茶なところが案外似てるもんだな…あなたとこの人は…」


「え?そ…そうかな…?」


きょとんとしたヒナタが思わず人魚姫を見ると彼女も笑っているのでつられてヒナタも笑みを浮かべた。



「で、クラーケンは今どうなってるんだ?生きているのか…?」
真顔のネジが人魚姫に尋ねた。言葉は乱暴だがクラーケンへの配慮を感じ人魚姫は深く頷いた。


「体は厄災によって失われましたが彼は魔性の存在…魂を持つ核があれば復活も可能…。しかしそれには時間が必要です。そして、彼自身が生きることを望んだとき初めて目覚めることができるのです…。長いあいだ眠っていた私を守ってくれたこの人に代わり、今度は私がこの方を守ります…」


「……でも住むところもないのに…?それにたったひとりで……」
ヒナタは思わず口をつぐんで俯いた。


「……住むところならあります……沈んでしまってもあの場所はこの下に眠っているだけだから…」


「でも…」


「私は一人じゃありません…この海が平和になればきっと魚たちも戻ってくるでしょう」


黒い真珠をその手のひらにつつみ、人魚姫が明るい未来を語った。


「…きっと目覚めるだろう…ソイツは執念深そうだし、せっかちだろうからな」


ネジがそういうとトクマが目を光らせた。


「まるで誰かさんみたいだな~~やはり同類同士わかりあうんだな~~」


「本当にあなたが羨ましい…ヒナタさん…皆さん本当に色々とありがとう…」


「行くんですか…?」


「……はい……ほんとうにあなたがたにはなんとお礼を言ったらいいか……」


「いいえ、むしろあなたたちを巻き込んでしまったのは私たちの方かも……」
ヒナタが暗く沈んだ声でいうと人魚姫は首を横にふった。



「それでも助けてくれた……本当にありがとう……またいつかここを訪れることがあればぜひ立ち寄ってください……」


ヒナタ姫は浮上するとヒナタを強く抱きしめた。


「旅のご無事を祈っています……」


「ありがとう…人魚姫……」


そういうと人魚は離れながら答えた



「いいえ私はただの人魚……彼が目覚めたとき、はじめて私は人魚姫になれます……」



「えっ……?」


人魚姫の言っている意味を理解できないまま人魚姫は水中へと戻った。


「さようならヒナタさん……ネジさん、ホヘトさん、コウさん、トクマさん……お元気で」



それそれが人魚姫に別れの言葉を言い終えると人魚姫は深い深い海の底へと消えていった。






しばらく海を漂っていると船影が見えそれがホワイトアイズだとすぐに気がついた。


向こうからもヒナタたちを呼ぶ声が聞こえた。


ヒナタは思わず大きく手を振った。


ようやく長かったこの冒険もひと段落。明日からはまたあらたな航海の始まり…


でも…、と。



ヒナタは全てを忘れて、まずはお気に入りのバスタブでこの体に付いた塩を洗い落としたいと考えていた。

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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

日刊ゴーストファイブ 13/13

TAG: 人魚姫 (22) 幽霊 (17) /コウ (15) /ネジ (54) /はすの (35) /重吉 (19) /小説 (39) /関連(16) |DATE: 12/27/2012 00:00:00

【エピローグ】
[ 本文 ]

人魚と別れたホワイトアイズ一行は、次なる厄災を探す為、大海原を進んでいた。


ヒナタは戦いですっかり汚れてしまった愛用のコートを洗ってもらう為、それを脱いで渡した。


「じゃあ船長はその間これを着ていてください」


箱を手渡すクルーに言われるままにヒナタは箱を受け取ると、自室へと入り蓋を開けた。


「………これ…」


現れたのは簡素な装飾ではあるが質のいいシルクのオフホワイトのドレスだった。こんな服を見るのはいつ以来だろうと思う…。
物心ついた頃から剣を携え、腕を磨く日々。
ドレスを手に取りヒナタは姿見の前でドレスを合わせてみた。


短く切り揃えられた髪ではバランスが悪いように感じてしまう。


こうして見ていると、長い髪をたたえた儚げな横顔を思い出す。
自分と同じ顔を持つ、ヒナタ姫のことを。


姿見から離れ、ヒナタは窓からそっと海へと目をやった。今もこの広い海のどこかを漂っているのだろうか。
すでに意識さえ失くした彼女にはもう二度と会うことは叶わないのだろう。
眼帯の下の異変は嘘のように収まり、瞳の色も元通りに戻った。


最後の彼女の表情と、人魚姫が言った言葉が頭に今も残る。


モヤモヤとした思いを抱えながらもヒナタはドレスに袖を通し、船室を出て甲板へ立った。


すでに日の落ちた甲板には人の気配はなく、見張り台に立つ数人の姿だけだった。
だれもヒナタに気がつくものはいなかった。



今では遠ざかってしまったマーメイド・ラグーンの方向をヒナタはひとり見つめていた。



「そんな格好で風邪をひくぞ」


後ろから声が聞こえ、次いで肩からコートがかけられた。


「ネジ兄さん……」


「…あなたがドレスを着るなんて珍しいこともあるものだな」


「…っ!どうせ私には似合わないって思っているのでしょう?」


どこかからかう様なネジの口ぶりにヒナタは口をフグのように膨らませた。


そんなヒナタの仕草ネジは目を丸くし、次いで目を細めた。


「とんでもない、よく似合っている…」



「えっ……?あああああ、あのっ……あ、ありがと……ぅ」



てっきりいつものように小馬鹿にされると思っていたのでヒナタは少しばかり拍子抜けした。
口を開けば小言ばかりの従兄に褒められるとなんだかくすぐったくてヒナタは再び海へと目をやった。



再びヒナタの心に先ほどの疑問が浮かんできた。



「そういえば…」


「ん?」


「ヒナタ姫が消える前、ネジ兄さんに何か伝えようとしていましたよね……一体何を…?」


ネジを見つめて問うヒナタに対し、ネジは少し間を置いて答えた。



「………あれを受け取るべきはオレではない」


「クラーケンさん……?」


「ああ……」



「………内緒…なんですね…」


それより先を言おうとしないネジにヒナタは諦めたように言った。



「まぁな……何か気になることでもあるのか?」


ヒナタはそう言われ胸につかえていることを言おうとした。
きっとネジなら彼なりの答えを見つけている。そんな気がしたから。


「……あの…」


「ん?」


海を見つめるネジの横顔を見ながら喉まで上がってきた言葉をヒナタは飲み再び海へと視線を戻した。


本当のことを知ったところで何かが変わるわけではないのだ…
海に溶けて消えたあの人も、深い海へと消えた人魚も確かに個として存在していた…
そして自分もまた別の存在としてこの世に今生きている。それが今分かることの全てだ…
吹っ切れたように表情を明るくしたヒナタはネジへと尋ねた。


「いつか…旅を終えたらまたみんなでここに来ませんか?」


「そうだな…一体いつになるかわからないが、きっとまたみんなでここに来よう…」


その言葉にヒナタは満面の笑顔を見せた。
「元気が出たみたいだな。さっきまでのしけた顔じゃせっかくの席が台無しだからな」



「え?なんのこと…?」


「ほら!今日はコウが腕によりをかけたご馳走を用意しているそうだ!!主役が遅れてどうする!!」


ネジはそういうとヒナタの腕を引いて皆の集まる船室へと向かった。


「えっ??主役???一体なんの話を…ネジ兄さん??」


訳もわからないままヒナタがずるずるとネジに連れられて扉の前にたった。



「今日が何の日か忘れたのか?」


ネジが扉を開いてヒナタの背を押した。


「わっ…」


勢いよく押されたヒナタは部屋に脚を踏み入れた。



そしてパンパンパンと紙の破裂音が響き、色とりどりの紙テープがヒナタの目の前に舞った。


「えっ?!」
クラッカーを両手に持ったクルーたちが笑顔でヒナタを迎えた。



ホヘト、コウ、トクマが大きなケーキを抱えて満面の笑みを浮かべていた。



「ハッピーバースディ 船長!!!!!」


盛大な拍手とともにクルーたちの声が部屋に響いた。





「………みんな……ありがとう…」


ポロポロと涙を流しながらクシャクシャの笑顔を浮かべるヒナタを仲間達が優しく見守っていた。


ヒナタを祝う宴は夜が明けるまで続いたという―――


【END】



余談だが船長ヒナタのバースデーケーキのロウソクは毎年決まって16本立てられているという。


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[ はすの ]
[ 絵:重吉 ]

ドールハウス

TAG: 親指姫 (4) /ネジ (54) /熊猫 (11) /小説 (39) |DATE: 12/27/2012 00:17:59

ワンピースを作っております。
[ 本文 ]






チクチクチク…と、銀色の小さな針で、ネジは、白い布を縫っていた。
「いてっ」
一人暮らしが長くても、余り縫い物をした事はなかったから、ちょっと縫っては、指に針を突き刺す事を繰り返していた。
ネジの指は、修行のせいで皮が厚く、小さな縫い針では血も出ないが、それでも痛みは感じる。
そうして、指を止めると、机の上にある小さな箱から、「ぴー」と高音の鳴き声がする。
ネジは、その声の方へ、苦笑いをする。
「大丈夫、大丈夫だから」
「ぴーぴーぴー」
机にのせてある箱は、机に椅子、タンスと、小さなベットが納まっている。
そして、その椅子に、ちょうど親指くらいの小さな人がいた。
それは…腰までの黒い髪を持ち、色白の肌の少女で、その顔は日向ヒナタその人だった。
「ぴーぴーぴぴー」
ヒナタが、任務で行方不明になって、数日後、どういう事か、ヒナタは親指ほどの大きさになって、ネジの前に現れた。
身体が小さいせいか、声は鳥かねずみの鳴き声のようになり、人語として聞き取るのは難しい。
だが、ネジは会話をしていた。
確かに、鳴き声として聞こえているのだが、なんとなく、何を言っているのか、わかるのだ。
「無理。その大きさで、鋏も針も持てないだろう。時間はかかるが、オレに任せておけ」
ヒナタを気遣ったネジは、慎重に指を頭の上において、そっと撫でた。
「おもちゃじゃなくて、家具もそのうち、ちゃんとしたのを作ってやるからな」
「ぴーぴー」
「気にするな、意外と楽しいから」
お菓子の空き箱の急ごしらえのヒナタ部屋を、赤毛のアン風のカントリー調の部屋に作り変えようと、ネジはウキウキと考えていた。

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熊猫

木の葉の里は猫で大騒ぎ?

TAG: その他 (17) 猫 (1) /その他 (2) /ネジ (54) /弥生にゃんこ (1) /小説 (39) |DATE: 12/27/2012 15:37:56

[ 本文 ]


「マンチカン部門の優勝は日向ネジさんのヒナニャンです!」


司会者がカテゴリー別の優勝猫の名前を挙げている。
ここは木の葉のキャットコンクールの会場。
優秀なブリーダーが手塩にかけて育てた自慢の猫が集まっている。


デビューしたばかりのヒナニャンがマンチカン部門で初優勝という快挙に、ブリーダーネジは喜びを隠せない。
「さすがは俺のヒナニャンだ!お前ならやってくれると信じてたよ!」
ネジはヒナニャンを抱きあげて頬ずりをした。


「おう!ネジ!初優勝おめでとう!」
「ああ!シカマル!おまえのテマリもソマリ部門優勝だって?3年連続なんて凄いじゃないか!」
「まあな…でも最優秀賞がなかなか取れなくてな…今年はヒナニャンが出てきたからまた駄目かもな…」
「そうなのか?俺は初めて優勝したからよく分からないが…ヒナニャン優勝候補なのか?」
「ああ…さっき審査員が話してるのチラっと聞いちまったけど…ヒナニャンは審査中も大人しくて…それでいて気品があるだろう?かなりポイント高いらしい…」
「そうか…ありがとう…でも審査は水ものだから分からないぜ!」
「ああ!俺も負けてられないぜ!めんどくさいけど今からもう一度グルーミングしてくるぜ!」
「おう!じゃあな!」


(そうか…ヒナニャンはコンクール向けの猫だったのか…)


今年産まれたマンチカンの中でも、ヒナニャンはとても気が弱く、母親のオッパイにありつけずにピーピー鳴いていることが多かった。
他の兄弟に踏みつけられても咬まれても、まるで抵抗しない大人しい猫で、これでは元気に育たないだろうと思い、手元に置いて可愛がっていたのだ。
まさか、コンクールに出られるほど美しく育つとは想像もできなかったが、ネジの愛情を一心に受けたヒナニャンはそれはそれは可愛らしいマンチカンに育っていた。


「それでは!これより最優秀キャットの審査を開始いたします!種類別部門で優勝した猫のブリーダーは該当の猫を連れて壇上に上がってください!」
司会者の声にそこかしこから美しい猫を連れたブリーダーたちが壇上に上がっていった。
そしてテーブルの上に一列に猫を並べた。
そこへ審査員が上がってきて、猫たちを仰向けにしたり、目や鼻の具合を見たり次から次へと審査していった。


『あたしはラグドールのあんこよ!毎年あたしが優勝してんだからアンタたちは引っ込んでなさい!』
審査の最中に何やら猫同士のおしゃべりが始まったようです。


『何言ってんのよ!猫の中ではメインクーンが最優秀に相応しいのよ!このあたし!綱手がね!』
『あーヤダヤダ!オバサン同志のいがみ合いは!』
『うるさい!輸入猫のテマリは黙ってな!』
『何だか怖いわね~!ロシアンブルーのいの!』
『ホントよね~日本猫のサクラ!』
『そこ!自分らだけ良い子ちゃんズラしないでくれる?』
『すいません…ターキッシュアンゴラの紅さん』
『ところで新参者がいるようね』
『あ…あの…ヒナニャンです…お初にお目にかかります…よろしくお願いします…」
『はんっ!かわい子ぶって猫を被りやがって!』
『私達…猫なんですけど…』
シャム猫のテンテンのツッコミが炸裂する中、審査が終了し、審査員が壇上から降りて行った。


「それでは!最優秀キャットを発表いたします!今年の木の葉の最優秀キャットは………マンチカンのヒナニャンです!」
ファンファーレが鳴り響き、紙吹雪が飛ぶ中をブリーダーのネジは壇上に上がり、審査委員長からトロフィーを受け取った。


『なんですってー!』
先程まで黙っていてお喋りにも興じなかったスフィンクスのオロチマちゃんがいきなり暴れ出し、会場のテーブルを倒したり審査員を引っ掻いたりし始めた。
そして、飛び乗られて引っ掻かれた審査委員長に
「オロチマちゃんは失格にします!」
と言われ、ブリーダーのカブトはションボリしながら帰って行った。


「あー!ビックリした!」
ネジはいち早くヒナニャンを抱き上げて会場から飛び出していたので、何の被害にも遭わなかった。
「コンクールがこんなに危ないものなら…もう出場するのはやめて…ヒナニャンと毎日家でゴロゴロしてよおっと!」
『私も他の猫に会うのは嫌です…ネジ様とおウチでゴロゴロしたいです!』


ネジには猫語は分からないけど、喉を鳴らして擦り寄ってくるヒナニャンを大事そうに抱えて帰って行った。





終わり

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弥生にゃんこ

インタビューウィズヴァンパイア

TAG: 吸血鬼 (8) /カカシ (1) /ネジ (54) /光村真知 (3) /小説 (39) |DATE: 12/27/2012 20:26:04

祝☆ヒナコレ2012!
今年は参加します!!
[ 本文 ]





「ご存知の通りに、」

 

 金唐革紙の壁紙に四方を囲まれた部屋は薄暗かった。
 重厚な調度も全て、薄闇の中に沈黙している。ある意味大変に勿体無いことだ。白日の下でも十分に観賞に耐えうる、金のかかった品々であるだろうに。
「ご存知の通りに、私達のありようは吸血鬼、ヴァンパイア、と呼ばれる生き物のそれに大層似ています。」
 ゴブラン織りの張られた肘掛椅子に身を沈め、少女はゆっくりと語り出した。
「ただ、血を吸うわけではありません――」


 こんなことはとうに知っておいででしょうけれども、と前置き、それでも少女は丁寧に序説から言葉を綴った。
「吸血鬼、という存在は、出血多量、という医学知識を人が持ち得なかった時代に考え出されました。さして大きな傷を負ったわけではないのに…受けた傷の大小や深浅に関わらず、死んでしまう生き物がいるのは何故か、という疑問がそもそもの始まりでした。昔の人々は、その理由を、血というものに求めたのです。血には何か不思議な力、生きるためのエネルギーみたいなものが宿っていて、だから、さほどにひどく肉体を損ねてはいなくても、沢山の血を失ったものは死んでしまうのだと。
 そして夜の闇には、そのエネルギーを狙う魔物が跋扈しているのだと」
 薄明かりの中でも、彼女の膚のその白さ、滑らかさは十二分に見て取れる。
「ある意味でそれは正解です。…食べ物や飲み物を摂ることではエネルギーを得られない生き物…エネルギーを体内で合成できない、と言えばいいのでしょうか…純粋な状態のエネルギーでないと、自らの血肉にできない生き物」
 呟いて、少女は長い長い睫毛をしばたたかせた。愁いを帯びた白い瞳が伏せられる。
 暫く、室内には沈黙が満ちた。
「遥かな昔、大気にはもっと力があって…ただ呼吸するだけでよかった。それだけで世界に満ちているエネルギーを摂ることができた、といいます。でも…」
 細い肢体が椅子の背に軽く預けられた。
「…私が生まれた時 既に、世界はそうではなかった」
 ひそやかに、ため息のように告白は行われる。
「だから」
「人間からエネルギーを摂る」
 言葉尻をさらえば、少女は押し黙った。

「勿論、誰からでも摂れるわけではありません。適性というのか、素質というのか…体内で、太古からのエネルギーを作れるひと、というのは決まっていて…多分、それは生まれつきのものなのだと思います」
 暫しの沈黙の後、取り繕うように言って、少女は長く伸ばした黒髪の、これだけは短めに切った両脇の部分に指先を遊ばせた。
「ただ素質があるだけでもダメで、素質のある人に、…牙を打ち込む、と言えば良いのでしょうか…刻印を施すとか、しるしをつける、花を施す、…花を付ける、という言い方をするみたいですけれど。それをして初めて、エネルギーが摂れる状態になります」
 少女が身じろぎするたびに、喉もとからつま先まで、慎み深くその肢体を覆った白いワンピースの、表面がちらちらと、藤色の、すみれ色の、はたまた菖蒲色の、光沢を見せる。
「基本的には、一番最初に花を施した者の…あの、ものに。最初に花をつけたひとの、ものになります」
 もの、という言い方を、ひどく時間をかけて、ゆっくりと少女は発音した。まるで新人アナウンサーが、何度も練習したがついに滑舌良く発音できなかった単語を、本番で喋る時のように、慎重に。おそるおそる。
「自分が花をつけた相手からでないと栄養をとれないし、また、花がついていても、他の誰かの花では、栄養を分けてもらえないのです」
「つまり専属?」
「…まあ、そう…ですね。そんな感じです」
 すこし肩をすくめて、少女は苦笑した。
「だから当然、一度自分が花をつけた相手のところに何度も通うことになります」
「それこそ、陳腐な吸血鬼映画のように」
 茶化してやれば、少女は今度はくすっと、屈託なく笑う。微かにだったが、この会見で初めて、見せた気負いのない表情だった。
「でも、花をつけられても死ぬようなことはないんです…普通に飲んだり食べたりしていれば、花自身の――つけられた人自身のことも花、と呼ぶんですけれど――分のエネルギーはとれるので。
 私たちに与えるエネルギーと、花が消費するエネルギーは、どうも別のもののようで」
 ふうん。別に、良かったのに。たとえ、命を削り渡しているのであっても。
「ただ、あの…体のどこかに、独特の痣ができます。その…あの…つ、つまり…」
 へどもどと言いよどむ少女の、先をまた与えてやる。
「吸血鬼ものによくあるような牙の痕のように?」
「…はい」
「噛まれたところにできるんだーね?」
「あっ…いえ、いいえ、別にそんなことは…ただ、あの、…ええと、最初にエネルギーを貰った時に触った箇所に比較的多く出るようですけど」
「そしてそれは、別に頚動脈の位置に限らない」
「…………はい……」
「所有の証、というわけだ」
「………………………」
「他には?」
「あの…花になると、代謝の速度が変わります。年を取るのがゆっくりになる、と言えば判りやすいでしょうか」
「不老不死?」
「それは…」
「それこそ心臓に杭を打たれないと死なない?」
「…心臓に杭を打ち込まれて死なない生き物って、いるんですか……」
 聞きようによっては皮肉だったが、言いようによってそれは、単なる疑問文になっていた。
「それは、そうだーね。つまり不死ではない」
「私たちと同じ能力を得たりもできません…」
「じゃあ、痣が出来て、年を取るのがゆっくりになる。それだけ」
「…大体は」
「ゆっくり、って具体的にどれくらい?」
「判りません…ただ、多分だけれど、花は、対(つい)の寿命に合わせた時間を生きられるように、引き伸ばされてるんじゃないのかなって…」
「対?」
「え、あ、そ、その、花と呼ばれる人に対して、花にするひとを…私たちの側の種族を、そう、言うんです。…私たちの間でそう呼んでいるだけですけど」
 しどろもどろと説明する少女は、何故だか途端にもじもじし始めた。
「あの…あの、あなたに花を付けたのは、多分スカーの系譜です」
 挙句、下手糞に話題を変える。
「スカー?」
「俗称ですけど。傷跡にすごく似た形のしるしになることがとても多いんです。ヨーロッパの辺りに棲んでいる一族なんですけど」
 ああ。
 呟いて、自分の顔を派手に飾る傷跡(にしか見えない)に触る。
「君は?」
「私は…私の家系が花をつけると、額によく出ます。アジア地域に住んでいる一族に多いことなんだそうです。
 アジア地域の神様は、額に何らかの天印がある姿でよく表現されていますけど、それは私たちの花が影響したらしいです。私たち自身は人里を離れても生きていけるのですが、花は長くは生きられるし、病気とかにも罹り難いみたいだけど、それ以外は普通の人間だから…」
「人に混ざって生活していくことを好み、結果、神格化されちゃったわけだーね」
 長く若さを保ち、病にも倒れぬとあらば、何か特別の恩寵のある存在か、そも人間とは根本で異なる高次の存在として崇められることがあるのも頷ける。
「そうみたいです。宗教とか文化とか…一族の痕跡が結構残っていて、探すと面白いです」
 少女はまた屈託なく笑い、外見がほんの女学生ほどの年齢にしか見えないだけに、知識欲に目覚めたばかりの伸び盛りのようで、微笑ましい。
 ほんの少し水を向けたら、案の定、嬉々として乗ってきた。
 ボロブドゥールの無数の石像の中から、近縁の一族の印を額に付けた像をようやっと一つ、見つけた話。
 家系で花に現れる印は変わるが、印の異なる家系同士で婚姻を結んだら、生まれた子供の花は両家の印の特徴の双方を混ぜ合わせた形になり、それが西洋の、婚姻によって新たに出来た家は祖となった家の紋を混ぜ合わせて造る風習になったこと。
 チベットの石塔の中に、一族独特の合図を隠したものがいくつもあって、人が信仰のため積んだ石の塔と、どちらが先だったのかもう判然としないことなど。
 知識を得て単純に喜んでいるさまは、もしやこの、少女の姿をした生き物は、存外見かけどおりの年齢なのではと思わせるところがあった。

 暫く会話を楽しんで、頃合を見てそろそろおいとまするよと腰を上げる。
 見送りのためにか、扉口に出てきたところを見計らい、何でもないようなことのように振り返って、不意打ちを仕掛けた。
「ああ、そういえば。花に対して、対(つい)という言い方を使うのは何故」
 少女の瞳が大きく見開かれた。そうすると、白い瞳が、オパールのように複雑な色味を内包しているのが見て取れる。
 一瞬身を退きかけた手首を捉える。
 間近に見下ろす表情が歪み、
「……花は…花にとっては、生涯ただ一人の…相手だからです。でも、私たちは…」
まるで、喪服も脱がぬうちから、さあ、次はあの男に嫁げと。言い渡された未亡人のような、顔になった。
「時に…一生に、複数の花を…持つことがあります…」
「花が対の寿命にあわせた長さを生きられるなら、生涯につき花一人ということになるのに?」
 少女の顔に掘り込まれた苦痛の色がはっきりと、深いものになる。
 花は長くは生きられるし、病気にも罹り難いが、それ以外は普通の人間。
 先ほどのやりとりを思い出す。
 病気に罹り難いということは、罹らない、という絶対の確約を示すものではないのだろう。ほかにも、何かの理由で死んでしまうことがあるとも示唆している。
「…ああ、花が先に死ぬこともあるんだ。死なれたら、次の花を探すんだ」
「……はい」
 答える声は可哀想なくらい震えていた。可哀相などと、思わないけれど。
「逆を言えば、今の花が死なない限り別の人間を花にすることはできないの」
「それは…わかりません」
「なぜ?」
 詰問調で問い詰める。
「試したことも、そういう話を聞いたこともないので…」
「試さないのはなぜ?」
「………………」
 真珠の歯がただカタカタと鳴っていた。
「何か理由がある?」
「………………………その」
 ほんの少し語調を和らげれば唇を開くので、さらに声を努めて優しくして、先を促した。
「うん?」
「………その、対にとって、花は…花、は、その…単なるエサ、ではないので…」
「一度食べればそれでおしまいではない?」
「それも、ありますけど…」
「少なくとも、皿の中の食物のようには扱えないわけだ」
「……」
 ありきたりの食事を摂らないいきものに対して、これは判りにくい喩えだったかもしれない。
 捕われた手首を取り戻そうと、必死にもがくのを許さず、骨を折り砕いても構わないという意思を表示するように拘束を強めた。
「裏の裏を読むのが性分なんだよね。それに分析は得意な方なんだ。『時に』一生に複数の花を持つことがある、死なれたら次の花を探す、でも今の花が生きているうちに次を探すことはしない…愛着だって言えばそれまでだけど。花はエネルギー源なんでショ、もし死に掛けてるなら次を確保しておくのが当たり前じゃない。それをしないのは」
「やめて、もうやめて下さい…放して…」
「はっきり言ってくれる?」
 少女の大きな瞳から雫が零れ落ちた。深く俯き、捕われていない方の手でその顔を覆ってしまう。
「一族の…多くは…」
 嗚咽とともに、彼女は吐いた。
「花を失うと…次の花を選ぶことを放棄し…拒絶し…て、しまうことが殆どです…」
 結果、待つものは何か。
 心臓を貫かれて死なない生き物はいない。
 何一つ食べずに生きながらえる生き物もまた。
 それが答えだ。

「ありがとう」
 言葉が先か、手首を放すのが先か。非力なりに我が手を取り戻そうと必死に抗していた少女は唐突な解放に勢いあまって後ろに大きくよろめいた。背後の薄暗がり、正確には部屋の奥に位置する更に別の扉から駆け込んできた影が、こちらに飛び掛ってくるか少女を受け止めるか、一瞬だけ逡巡する。
「それが聞きたかった」
「貴様その顔二度と見せるな!」
 結局少女の体を抱き取って、代わりに怒号を叩きつけてくる影、否、青年の額に、浮かぶ卍に似た印を見るまでもなかった。
 自分だって、対の相手が誰かと親しく口を利いたり、あまつころころ笑ったり、挙句に力づくの真似を働かれるのを、耐えられはしない。
「訊きたいことはみんな聞いたから、言われなくても二度と会わなーいよ」
 ひらひらと手を振ってやる。
「ああ、重ねてアリガトね?俺なんか指先掠らせただけで殺せるのに、そうしなかったのは俺の対のことを考えてくれたんでしょ?俺を亡くせばあの人が悲しむ」
 これは青年の腕の中、殆どくず折れている少女に。
 そうだ彼(・)は悲しむ。
 痛くないですか?綺麗な顔だったのに。俺の顔にも傷があるから、こんな形で花が出ちゃったのかなあ。
 そう言ってこの顔に指先を滑らせて見てくれだけの傷さえ痛がったひと。
 二親を早くに亡くしたとかで、自分自身についての知識を殆ど持ち合わていない彼。
「お前の対は優しいねえ。…大切にしなよ」
 お前は、と言い添えるのはやめておいた。
 毛を逆立てるように威嚇してくる青年と、顔を伏せたまますすり泣く少女を省みず、今度こそ扉を開け放つ。
 光と活気に溢れた街に足を踏み出せば、背後の会見場は既に白昼夢のようにしか思えなかった。涙を流した少女も詮無い亡霊。
 自分の唇が酷薄な形に笑むのをカカシは自覚した。
 誰がどんなに泣き傷付いても構わない。自分の対が泣き傷付かないためならば。
 理非善悪など知らない。情などとうに凍らせた。そうして、命が尽きるまであの対と共に生き、死ぬ時は彼の命も貰っていく。次の花など自分は決して許さない。

 

 少女はいまだ泣き止まなかった。
 苦痛に耐えかねたように、絶望に打ちひしがれたように、嗚咽を吐き出し続けている。
 途方にくれてネジは、自分の手のひらの中に納まってしまう小さな肩口を撫でる。ほぼ見てくれどおりの年齢でしかない彼にとって、女の子というのはただでも度し難いいきものだ。
 見た目だけなら自分より、むしろ一つ二つ年下に見える少女が、実際にはいくつなのか、ネジはまったく知らない。その過去にいったい何があったのかも。
 彼に出来るのは、ただその肩口を撫でてやることだけ、
「…そばにいる、」
ひそやかにだが確りと囁きかけてやれるだけ。
「俺はずっとアナタのそばにいる、」
 オパールの虹彩を持った白い瞳がネジを見上げる、彼女がちっとも自分を信じてくれていないことをネジは知る、誓いははかなく破られていくものだと思っていることを。
 それでも彼は繰り返す、
「そばにいるよ」
 籠の扉が開け放たれても外に飛び立たない鳥のごとくに。
 いつかこの言葉よ届けと祈りながら。

 

 




(2012.12.27)

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光村 真知

Mirage☆ Night

TAG: 雪女 (4) /? (5) /光村真知 (3) /小説 (39) /関連(2) |DATE: 12/27/2012 22:22:10

[ 本文 ]
「旅の者ですが道に迷い夜も更けてまいりました」
冬の夜、そう言ってあばら家の、扉を若く美しい女が叩いた。
そして。



冬のきんと冴えた青から、はんなりと綿白の、あるいは薄黄色の、溶け込んだような青へと。
春の空の青はどこか優しく、自慢の恋女房のようである――と言えば、村の衆から
「惚気はもう聞き飽きた」
と返されるのは判りきっているから、口には出さないが。
もっとも当の女房殿は、この時期になると決まって憂い顔。それというのも彼女は稀なほど暑さに弱く、水がぬるむにつれて体調を崩していく。夏の間中はぐったりと、ろくに日陰から出られぬというほどなのだ。そのくせ名乗る名はヒナタ、村の悪たれどもが面白がって囃し歌まで作って歌い、激怒した息子が駆け出していって大立ち回りを演じたのも今ではいい思い出だ。


その淡い青い空の下に薄紅の、花弁を震わせ桜花の精が言う、
「それは契約、」
本性を現すかのような桜色の断髪を揺らめかせて。
「秘密を守る代わりに、女房でいてくれる、」
雪女 氷女(こおりめ)の類は、時に人里に下りてきて、一方的な契約を交わしていくのだと。
あるいは彼女らは神仙の類で、そうやって人間というもののこころやまことやあいの強さを試しているのかもしれない、と。
一方的な契約を持ちかけて、人がそれにどう応えるのか試す山神は多いのだから。


この冬ようやく見つけ出した雪女も、言った。
「これはある種の約定。だが仕掛けるのはこちらでも、破棄するのは常にそちら」
だからこそ、私たちは代償を請求できるのよ。
代償とは何か。命を奪られるのか。
問えば、何かをひどくふかく悲しむように、三重になった赤い目を瞬かせ
「なお悪い」
答えられた。
「息を吹きかけられて凍らされる。だがそれは、山域に踏み込んだ報いに凍らされるのとはわけが違う。魂までも凍てつかされ、氷漬けられ、輪廻の輪に戻ることはできなくなる」
そうして雪女の、ながい長い永い、生が尽きるまでのほんの慰めの氷人形になる。
年経た雪女ならばそうした氷人形を幾体も、持っていることさえある。まるで童女が集めた千代紙のように。
赤い唇を蠢かせた雪女が吹雪の只中に消えてから、ようやく思い出した。
あれは先の村長の末息子の、女房だった女だ。
熊のような髭を生やした末息子は腕の良い猟師だった。その女房は婀娜っぽい美人だった。仲睦まじく暮らしていたのに、いつの間にか末息子はいなくなった。女房も。自分がほんの子供の頃の話だ。


不意に桜花の精は姿を消してしまった。それで振り返ると、小道をヒナタがほてほてと、やってくるところだった。
ああ、と合点する。桜花の精は春のものだから、女房とは相性が悪いのだろう。
こちらを見つけて、はっと顔を輝かせる、「旅の者ですが道に迷い夜も更けてまいりました」、そう告げてきたあの冬の夜から変わらぬ仕草だ。
自分のもとに足を急がせる、女房はいささかも変わっていない。
村の衆は
もちのよい女
などと言うが。
自分にはわかる。
確かに昔よりは落ち着き、囲炉裏の火にあたふたしたり、煮えた鍋に近づけなくて半べそをかいたりするようなことはもうないが。幾人もの子を産み、育てて肝が据わったからそうなった、というほどのことで。
長い髪には白いもの1本混ざらず、肌は変わらず新雪のように白くふっくらと、触れる手の下で肌理は細やかに、撫でる指に伝わる弾力が衰えることもない。ほかの肌身を試してみようなどと、思ったことはないから比べたわけではないが。
沢山いた子供らもみな育ち、男なら嫁を取り、女なら嫁に行き、独立して、家に残るのは末のハナビだけだというのに。
「あの…お花見を?」
いまだ自分に話しかける時ははにかんだようになる、女房にうんと頷いてふと噴出しそうになる。
気付かないわけがあるか。
「旅の者ですが道に迷い夜も更けてまいりました」、
そう言ってやってきたあの夜から、そもそも火を怖がった。囲炉裏のそばを勧めても、竦んだようになって隙間風のあたる隅から出てこなかった。遠慮が勝っているのか、それともやむを得ず宿を借りた家で、若い男と二人きりなどという状況に怯えているのかと気を回して、深くは追求しなかったのだが。
作ってくれる飯は美味いが、どれももれなく冷えている。冷めている、のではない。冷えているのだ。時には半ば凍っていたりすることさえあった。
夏の間中暑さにへばっているくせに、寒くなってくるとやたらに元気で、くるくるとよく立ち働く。人が厭う冬場の水仕事もまるで平気だが、湯には絶対に入らない。
それでも黙って、夫婦として暮らした。いつかの夜に、彼女が決して言うなと言ったから。
ふと己の手を見下ろした。もう若いとは到底言えぬ手だ。判っている。大抵なら女房の顔を見て、過ぎた歳月を数えるんだろうなあと思えば尚おかしい。
「…? どうか、した?」
隣でヒナタが、娘のような口をきく。
「いや、」
お前を見てたら思い出したんだ、いつかの冬の夜に会ったうつくしいもののけのことを――
言いかけて、口をつぐんだ。
今まで夫婦として過ごしたのと同じだけの時間を、過ごすほど自分に寿命は残されていない。
だからといって彼岸とやらで、ヒナタが来てくれるまで待ちぼうけるつもりもない。
いつか言おうと思う。
笑いかけてやることもこの腕に抱きしめてやることも出来なくなっても、長く永いという雪女の生を、愛しい女が終えるその日までの、ささやかな慰みにでもなれるなら、それ以上に喜ばしいことはないのだから。




[ 追記 ]
重吉さまの雪女から。
「嫁にするしかないじゃない(∪^ω^)!!」
ああコレは確かに嫁にするしかあるめぇよ。
と、いうわけで。
ほかの方々の作品が、圧倒的にネジヒナが多いので、ちょっとひねって誰がお相手とも読み取れるようにしてみました。

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光村 真知

❋COMMENT❋

AUTHOR: 重吉|DATE: 12/27/2012 22:47:30|TITLE: 生きててよかった…(/∀T)

ありがとうございます!!こんな幸せなことが自分の未来に起こるなんて言われたらどんな苦難も乗り越えられそうな幸せです!!夢…?!生きててよかったよママン…(/∀T)

星に願いを

TAG: 人形 (4) /キバ (5) /シノ (4) /ネジ (54) /光村真知 (3) /小説 (39) |DATE: 12/28/2012 00:45:20

[ 本文 ]
きみはだれ。
少年は尋ねた。
少女は答えず、ただ俯いた。はにかむように。



ヒナタがバージョンアップした。


具体的に言えば、昨日までおかっぱ髪の、ネジとさして年の変わらない女の子だったものが、今日会いに来てみれば、黒髪を長く腰の辺りまで伸ばした、優艶な女性になっている。成人と呼ぶにはまだ遠い年齢だが、14のネジには十分に大人だ。
一瞬わけのわからない衝動に駆られて彼は叫びだしそうになったが、ぐっとこらえた。
そんな子供っぽい真似を抑制できないと見られるのはごめんだったし、思い出したからだ。
初めて会った時、さして違わない年に見えたヒナタはしかし、ネジが年を重ねてもずっとそのままだった。
それがある日いきなり、自分より年かさの、少女になった。まだこどものネジには、どうしてそんなことが起きるのかよく判らなかった。面影は色濃く残していたし、言うことが同じだったから、それがヒナタなのだと理解は出来たが。
理由を問うても、ヒナタは困ったように微笑むだけで、結局判らなかった。もともと彼女は、技術的なことや知識――そらはどうしてあおいの、くもはどうしておなじかたちをしてないの、なんであめがふるの、といった幼い日の質問から、活断層の正確な位置および現在地が震度5以上の地震に見舞われる確率、蛋白質の構造式からコラーゲンへの構造式への変化といった最近の問いかけまで――には正確な解答もしくは解法を即答してくれるのだが、いくつかの事柄になると途端に歯切れが悪くなるのである。解答不能分野は主に情緒的なことに集中していたが、彼女自身のことも、問うて答えてもらえぬことの一つであった。
そうこうするうちにネジの背が伸び、モニター越しの彼女に追いつき、目線が並び、そして追い越した。
あれと同じことが起きたのだ。
毎年、毎日、成長していくネジとは違い、ヒナタは何年かおきに一度だけ、年を取るのだ。そういういきものなのだ。
二回の経験からネジはそのように結論付け、――本日の「レッスン」の方に意識を切り替えた。
愛くるしい少女から、少し年上の女性への、はじめてのともだち 兼 幼馴染 兼 姉 兼 妹 兼 教師 兼 母親 兼 参謀役の変貌に、どうにも態度はぎくしゃくとしたものになってしまったが。


ヒナタが人間でないことなどとうの昔に気付いている。
昔、日向博士たちが――自分の父と伯父だが――行っていた研究の、何らかの産物なんだろう。大戦が起こらず、親たちが今も生きていれば、もっと何か判るだろうに、と嘆くネジは、ヒナタの「本体」は地上のどこかの施設にあると思っている。たとえば今自分が根城にしている研究所跡のような。
そのネジから、3万5千kmほど頭上で、人造の星が太陽光パネルを光らせたことを彼は知らない。
右に照射システム「通牙」を備えた攻撃衛星KIBA、左に地表は勿論地下建物内の索敵をも可能のインセクト・システム搭載スパイ衛星SHINOを従えた3連星の女王、星々の領域から地上の一人を撃ちぬくことも、百万人の大都市を一夜にして灰燼に帰すことも自在な狂気の兵器のことは。
自分の額には、彼女を制御するのに不可欠なチップが埋め込まれていることも。




[ 追記 ]
4.はじめてのともだち も兼ねつつ。

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光村 真知