堕天
TAG: 天使 (7)
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/小説 (39)
|DATE: 11/11/2012 00:35:58▲
天使だから、一緒に生きてはいけないと、ヒナタはネジに言った。
苦痛と悲壮に、顔を一瞬歪めた後に、ネジは、奇妙に歪んだ微笑を浮かべた。
そして、天使たる証の純白の羽をひろげたヒナタを、愛しげに抱き締め…
「そんなの簡単だ」
そう言って、ネジは、背から生えた羽をへし折り…天使は、天の父の元に、二度と戻る事はなかった。
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嵐の夜に…
TAG: 人魚姫 (22)
/ネジ (54)
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/小説 (39)
|DATE: 11/15/2012 03:34:35▲
嵐の夜に出会った二人は、末永く。きっと、人魚のヒナタは、純真なので、ネジの邪さには、気付かないでしょう。
- [ 本文 ]
-
一目で、恋に堕ちた。
その姿は、月に照らされ、波間に浮かぶ白い真珠。
白い肌に、艶やかな黒髪…そして、岩に腰掛けた、なだらかな曲線を描く腰から先には、不可思議に柔らかな色に変わる銀鱗に包まれた魚の尾。
月と星を従えた彼女の歌声は、魚だけが聴衆。
日向家の目は、遥か彼方まで見通せる不可思議な瞳だが、耳は残念ながら普通のソレ。
ネジは、せめて歌う彼女に添いたいと、海に迫出したバルコニーで、ヴァイオリンを奏でた。
無骨で無粋とよく言われるが、ヴァイオリンは、貴族の嗜み程度には出来る事が、今はありがたい。
まさか、彼女に音が届くとは思わなかったが、海妖の彼女の耳は、人とは違ったらしい。
一夜ごとに、彼女が、ヴァイオリンに惹かれて、屋敷に近づいてくる。
そして、ヴァイオリンを弾かない時も、彼女が、バルコニーを凝視めている。
「…自惚れてしまうな」
思わず呟いてしまう程、彼女がじっと、自分を見ている。
黙っていれば…とは、よく言われるが、見目は悪くは無いだろう姿に産んでくれた、親へ感謝しよう。
このまま、彼女を力任せに、捕獲してしまう事はいくらでも出来るが、それでは招かざる災厄を呼び寄せてしまう。
部下を使って調べ捲くったが、彼女は多分、海洋を統べる海王の娘の一人。
真珠よりも、珊瑚よりも、美しい海の至宝。
幸いに、自分は、知略謀略を、ヴァイオリンよりも得手としている。
だから…彼女から、此処へ。
彼女の意思で、オレの元へ。
まずは、明日の海上パーティ。その天気は、夜半に荒天。
溺れるオレを、彼女はどうするだろう…。
海底に引きずり込むか?地上へ助けてくれるか?
無茶な一手だが、あの臆病な人魚姫を、地上に上げるには、賭物に命くらいは必要だ。
早く来い、オレの美しい人魚姫。
そして……
「もう、海には還れない。そう思え」
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[ 熊猫 ]
ケモミミ
TAG: 半獣人 (8)
/ネジ (54)
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/小説 (39)
|DATE: 11/17/2012 01:49:43▲
本当は、思う存分、かいぐりかいぐりしたいネジなのです。
「で、その獣に噛まれて?」
ネジの憮然とした顔に、ヒナタはシュンとした。
気持ちが沈むと、一緒に耳と尻尾もうな垂れてしまう。
もともと感情を隠すのが苦手なのに、こうもあからさまに駄々漏れになってしまう事に、ヒナタは落ち込む。
「は、はい。その…満月の時だけ…ちょっとだけ、変な格好になっちゃうの」
ちょっと…と、かなり控えめな言葉に、我ながら情けなかった。
耳は、横に伸びるだならまだしも、フワフワとした長毛に縁取られているし、尾骨が奇妙に伸びて、そこも、耳と同じような長毛に包まれ、尻尾になっている。
腕や足の形は変わらないが、肘と膝から下は、柔らかい毛に覆われ、爪が獣のように尖っていた。
瞳も一族の白眼に、琥珀の縦長の瞳孔となってしまっている。
毛皮や瞳は、任務に行った森で、出逢った小さな白い獣を思い出させる。
見た事もない獣だったが、子猫くらいの大きさで、人懐こく足元に擦り寄ってきた。
こんな事をネジに言えば、きっと酷く叱られるが、あまりの可愛らしさに、油断してしまった。
思わず、柔らかそうな白い毛皮の頭を撫でると、獣は、ヒナタの手に噛みついたのだ。
完全に牙が立つ前に、獣の口から手を引いたが、牙の先で傷が付いた。
そして、この姿だ。
原因は、獣に噛まれた事くらいしか、思いつかない。
ほんの少しの噛み傷でコレだ。
完全に噛まれていたら、どうなっていたか……
「…お、おかしいですよね」
あまりに厳しい表情で、自分を見るネジに、ヒナタは自己嫌悪に打ち拉がれた。
「おかしくはないが、人に見られたら、あからさまにマズイだろう」
呆れたような、ネジの言葉に、ヒナタは尚更とうな垂れる。
柔らかそうな毛に覆われた耳と尻尾が、しなりと下を向いてしまい、日向の白眼は、琥珀色にも見える涙で潤んでいく。
大人しく従順な半人半獣の姿のヒナタに、実のところ、ネジは…
―――――可愛すぎるだろう!!!!!!!!
と、心の中で、悶絶して身悶えていた。
気が緩むと、完全に脂下がった、だらしない顔になるのが、わかっているから、必要以上に顔の筋肉を強張らせる。
「いいか、二人の秘密にしておこう」
そして、軽く咳払いをすると、もっともらしく、ヒナタに諭す。
「誰にも見られないように、その格好になってしまう時は、オレの所においで」
こんな可愛らしい姿を、人目に晒してなるものか!と、独占欲と激しい嫉妬心が、拳を振り上げているのを、おくびに出さずにネジは言った。
だが、そんな事を知らないヒナタは、いつもは厳しい従兄が、優しく気遣ってくれるのが嬉しくて、思わず表情を明るくする。
その気持ちの高揚につられて、耳がピンとたち、尻尾が振られると、ネジの頭の中では、ファンファーレが鳴り響くのだった。
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末永く
TAG: 悪魔 (3)
/ネジ (54)
/熊猫 (11)
/小説 (39)
|DATE: 11/28/2012 00:21:41▲
このネジは、ヒナタを召喚するまで、何百って悪魔を呼び出しては、なぞなぞをしたりして煙にまいて還してしまってます。多分、どこぞで悪魔ヒナタを見初めて、ひたすらにヒナタの召喚を願っていたのです。ネジのものなので、ネジが願ってヒナタに可能なら、ネジは不老不死です。まぁ、ただネジは、ヒナタと末永く暮らしたいだけなので、世界は平和です。ご安心を。
薄暗い部屋で、ネジはとうとう悪魔を呼び出す事が叶った。
魔方陣中に立つ姿を見て、ネジは願いを決め、悪魔に宣告した。
「魂だ。オレの魂をくれてやる」
いきなり、ネジが捧げ物を告げた事に、悪魔は些かたじろいだ。
大抵の者は、降ろした悪魔に願いを言うのだ。
まぁ、魂の収集が、悪魔の常套だから、順番はいいかと、あまり深く考えずに、悪魔はネジの望みを聞く事にした。
「望みは?」
その言葉を、可憐な姿をした悪魔の唇が、吐き出した時、ネジは悪魔以上に悪魔らしい微笑を浮かべた。
その残酷で、悪賢く、だが美しい微笑を見た時、悪魔は、自分がもう逃げられない事を知る。
「オレのものになれ」
そして、悪魔は―――――ヒナタという名を、ネジに知られ、永遠にネジと共にある事を、強いられることになった
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魂迎
TAG: 幽霊 (17)
/ネジ (54)
/熊猫 (11)
/小説 (39)
|DATE: 12/06/2012 03:33:57▲
- [ 本文 ]
-
あぁ…そうかと、ネジは急に腑に落ちた。
腹が裂けた。
腕も、足もどこかが無くなっているが、血が流れ過ぎて、痛みもない。
死んでも、おかしくない状態なのに、今の今まで、自分が死ぬと思いもしなかった。
どうしても、どうしても死なないと、ずっと思っていた。
どんな窮地に陥っても、どんな敵に囲まれても、絶対に、死なないとそう思っていた。
だが、今。
柔らかい微笑を浮かべて、ヒナタがいる。
そう、今なら、黄泉路の坂を下ってやってもいいと思った。
そう、あなたが、一緒なら。
この自分を置いて、先に逝ってしまい、ネジはずっと腹を立てていた。
だから、簡単には、絶対に、ヒナタの元にはいかないと心に決めていた。
でも、ヒナタが迎えに来た、この時なら。
そうして、瀕死のネジは、唇から今生終りの息で、小さく呟く。
「…………おそ…いっ」
最後の最期まで、彼らしい減らず口を叩く。
そんなネジに、ヒナタは目を瞠り微笑を深くし、彼の魂へ手を伸ばしたのだった。
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或る午後に
TAG: 使い魔 (3)
/ネジ (54)
/熊猫 (11)
/小説 (39)
|DATE: 12/19/2012 02:36:45▲
使い魔のヒナタが、大人になれるのは、ネジの愛に目覚めたときですが…何世紀かかるかは不明です(笑)
- [ 本文 ]
-
サンルームで寛いでいると、カチャカチャと陶器が立てる音が近づいてくる。
ネジは、頁を捲る指を止めて、扉を開ける者へと、視線を向けた。
茶器を乗せた盆を捧げ持つ少女…いや、細い手足や、その背丈から、まだ幼女といってもいい位の子供が、入ってくる。
彼女の着る召使のお仕着せの黒のワンピースに、白いエプロンは、ネジの趣味ではなく、彼女が自分で選んだ物だった。
―――――せっかく、用意してやったのに…無駄にして…と、ネジは常々言うのだが、彼女は困った顔をして、ネジが用意したドレスを着なかった。
行儀良く、部屋へ入ると、彼女は、ネジの傍らのティーテーブルへ盆を置き、手際よくお茶を淹れる。
馥郁とした香りに、ネジの口元が、ほんの少し緩んだ。
「ご主人様、お茶です」
だが、彼女が一言、こう言った途端、ネジの口端は思いっきり下に下がり、眉は上り、眉間に皺が寄った。
ジロリと、稀有な白眼が、剣呑に彼女を睨む。
ネジが、その気になれば、視線で、全てを石にも、醜いケダモノにも、変える事が出来る。
シュヴァルツヴァルトを統べる主であるネジを、人々は、その目や姿、そして行いからヴァイスティーアと呼び、畏れていた。
この広大な森を囲む、近隣の王達の一人も、怖いもの知らずを謳うならず者も、ヴァイスティーアのシュヴァルツヴァルトに足を踏み入れるような愚考は犯さなかった。
いや、愚考を犯した者の全てが、シュヴァルツヴァルトで、矮小な姿に変えられ、二度と森から帰る事は許されなかった。
ネジの統べる森は、不可思議の場である。
獣も、樹木も、草花も、その全てが異界の影響を受けている。
其れは、ネジが望んだ結果でもあり、ネジそのものが影響を与えた結果でもあった。
何故なら、ネジは、純粋な魔が転化した魔法使いであった。
世界に並ぶ者のない魔法使いである主の言いつけに、彼女は逆らった。
睨みつける主は怖いが、それでも自分のような者が言ってはいけないと、思ったのだ。
だが、主は黙って睨むだけで、何も言ってこない以上、彼女が折れるしかない。
ウルウルとした泪目で、一応言い訳をしてみる。
「だって…ヒナタは使い魔で…だから…恐れ多いです」
「オレがいいと、言っているんだ。使い魔風情が逆らうな」
だが、ネジは、ムスリと怒ったまま、その言い訳を斬って捨てる。
ヒナタは、ネジの魔法によって創られた使い魔だった。
使い魔として生を得たのは、ほんの半世紀ほどで、魔としては、まだまだヒヨっ子もイイところ。
ヒナタの成長は、人の子より格段に遅く、その分、寿命は恐ろしく長いと、主は教えてくれた。
そして、お忍びで、主と初めて街に行った時に、人の子の歳で、自分の姿が、まだ10歳くらいだと知った。
主の様な体格を、大人と言い、自分の様な者は、子供と呼ばれると学んだ。
自分が、主のように大人と言われるのは、いつなのかと尋ねれば、主は「さあな…」と微笑って答えてくれなかった。
そして、街から帰ってくると、主は一つの言いつけをヒナタにしたのだった。
それは…
「ネジ…兄さん」
恐れ多くも主を「兄」と呼べという事。
主の言いつけは絶対だが、敬うべき主人を、兄…それも使い魔ごときの…ヒナタはぎゅっと目を瞑って、ネジの言いつけに従った。
「よし」
ヒナタの悲壮な表情と反対に、ネジは、ティーカップの湯気の香りを楽しみ、上機嫌な微笑を浮かべる。
主の美しい微笑を見られるのは、使える者として嬉しいが、どうしても納得のいかないヒナタは、何度も繰り返した疑問を、尋ねる。
「でも、どうして…お兄さんじゃないといけないんですか?」
これまで、答えらしい答えをくれなかったから、きっとまた、はぐらかされると思い、ヒナタは少々、拗ねた言い草をする。
いつもは大人しく、我が儘など言わないヒナタが見せた、そんな姿に、ネジは面白そうに目を瞠った。
そして、これも彼によく似合う、やや意地の悪そうな微笑を浮かべて、一応の理由を教える。
「街に行って、子供姿のお前に、ご主人様などと呼ばれると、オレが白い目で見られるからだよ」
確かに、街では、ヒナタ位の姿の子供が、働いているのを見かけなかった。
だが、ヒナタは使い魔で、子供ではない。
理由がそれならと、ヒナタは、ネジに提案をしてみる。
「じゃぁ…街に行くときだけ…」
「無理だろう。そんな器用さはお前にないよ」
呆れたように、ネジは鼻で哂って、肩を竦めた。
ネジの言い分が、確かな事だけに、ヒナタは、それ以上逆らえずに、愚図りだした。
「うぅ…私…魔法も使えないし、力もないし…変身も出来ないし…使い魔なのに…」
どうして、こんな自分を、力ある主人のネジが、使い魔として練成したのか、不思議でしょうがない。
だが、ヒナタがどんなに泣き言を言っても、ネジはただ微笑むだけで、答えてくれることはなかった。
「ふふ…確かにな」
「ふぇ…」
それどころか、ヒナタの言い分を肯定して、役立たずな事を否定してくれもしない。
あまりにあまりなネジに、ヒナタが思わず泣きそうになると、ネジは使い魔のヒナタを抱き寄せ…
「だが、茶は旨いよ」
そう言って、ヒナタを膝に乗せて、馥郁とした茶を飲んだ。
それは、かつて、愛しい少女が、ネジに淹れてくれた茶と、同じ香りと味。
かつて…あの懐かしく愛しい少女は、ネジにいつも旨い茶を淹れてくれた。
その少女が、無残な最期を迎えた時に、ネジは人から魔へと戻った。
魔から吹き出す、純粋な悪意と平等な残忍さが、一つの国を、大陸を…そして、世界を恐怖で満たし、時を破滅へと向かわせた。
世界に満ちた邪と悪の闇の中、光が小さく瞬いた。
それは、失った少女の欠片を、花と綺羅の供物を捧げ弔った塔から、ネジを呼ぶように、瞬いた。
ネジは、魔であった。
魔が捧げ、触れた少女の欠片は、悲しいかな魔に冒されていた。
それは、魔の時で瞬きの間、人の時間で永の時に、魔と人の欠片と美しい捧げ物の練成がなされた。
魔が、光に導かれ、塔へと姿を現した時、小さな光は、命の息吹として魔を授けた主人を、悦びを持てって迎えた。
その光の面影に、魔は、己自身でも出す事を忘れていた声を思わず呟いた。
―――――ヒナタ
そう、呟いた時、光はヒナタとして、正しく練成された。
そして、魔はネジへと還り、ヒナタを連れて、シュヴァルツヴァルトの主と戻った。
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[ 熊猫 ]
我慢比べ
TAG: 猫娘 (8)
/ネジ (54)
/熊猫 (11)
/小説 (39)
|DATE: 12/20/2012 01:33:24▲
- [ 本文 ]
-
「にぃにぃにぃ」
可愛らしい鳴き声が、足元でする。
無視をしたいが、甘い声と共に、柔らかな感触に、苦虫を噛み潰したように食い締めていた口元も、思わず緩んでしまう。
「にぃ…にぃにぃ…」
ネジは、足元の声の主を、仕方なしに見た。
「そんな目で見るな…」
三毛の三角耳のヒナタが、ネジをじっと見上げている。
ヒナタは、器用にも猫耳と猫の尻尾だけという、獣変化をして、ネジの足に纏わり付いていた。
キバあたりにもでも習ったのか、いや、それともくの一で、開発した女子技なのか…
ネジの視線を感じて、ピクピクと動く耳に、機嫌よくうねる尻尾に、ネジはクラリと眩暈を感じる。
―――――さ、触りたい…
綺麗な毛並みの三角耳の感触を確かめたい…
きっと、程よく肉厚で、思う以上に深い毛皮で、フカフカの耳を。
腰骨から綺麗に立ち上がり、官能的な湾曲を描く尻尾を掴みたい…
きっと、柔らかな動きからは、想像も出来ない位に肉太な尻尾を。
高まる欲求でネジは、ヒナタの姿に、視線を外せなくなる。
ヒナタは、その差し迫った眼差しを感じて、最後の止めとばかりに、ネジの膝にアゴを乗せて…
「ぅにゃ~~~~ん」
ひと際、甘ったれた声で、鳴けば、ネジはがっくりと肩と頭を落として、敗北を認めるしかない。
「…わかった。オレの負けでいいから―――――心置きなく、触らせろ!」
男らしく且つ、潔くそう宣言すると、足元のヒナタが逃げる隙を与えずに、抱き上げた。
そして、がっしりとホールドし、耳に頬ずり、尻尾を握り締めて、陶酔した微笑を浮かべ、呟く。
「た…たまらん…」
「にぎゃ~~~~!!!」
後は、ヒナタがどんなに鳴き暴れても、ネジが満足いくまで、離してもらえる事は、勿論なかった。
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[ 熊猫 ]
お人形さんごっこ
TAG: 人形 (4)
/ネジ (54)
/熊猫 (11)
/小説 (39)
|DATE: 12/23/2012 00:22:06▲
- [ 本文 ]
-
ヒナタの言葉に、ネジは考えこんだ。
日向は、木ノ葉でも有数の忍の旧家で、例えヒナタが幼い女の子とは言え、一般人のような玩具はない。
玩具よりも、忍具をあたえるのが、当たり前。
だから、ヒナタが、内緒だよ…と、耳打ちした言葉に、ネジは悩んだ。
―――――お人形で遊びたい。
そして、考えて考え抜いた挙句……
シュッ…シュッ…と、煌びやかな帯をネジは、器用に締める。
ヒナタの部屋には、子供の玩具はなかったが、旧家の子女として恥ずかしくないようにと、何着もの着物が揃えてある。
ネジは、其れを部屋に広げて、ヒナタに着付けていた。
「ネジ兄…」
「しっ…」
振袖を着付けられたヒナタが、呼びかけると、ネジは、その紅を塗った小さな唇に指を押し当てて、黙らせた。
「ヒナタさまは、お人形でしょ?お人形は、おしゃべりしちゃいけないんだよ」
ヒナタは、人形を持っていないし、勿論ネジだって持っていない。
だから、人形遊びをしようと思っても、無理なんだが、ネジは、この1つ下の従妹に甘かった。
いつも大人しくて、我が儘を言わないヒナタの望みを叶えるために、ネジは考えに考え抜いた。
人形はないが、だいたい従妹は、お人形みたいに可愛いのだから……
なら、ヒナタが人形になればいいと、ネジは思い至って、人形あそびなら、着せ替えだと、遊びはじめた。
金襴緞子に、綾錦、色とりどりの帯締め、ふんわりとした縮緬の帯揚げ、刺繍を施した半襟…
「さぁ、出来た。ほら、見て」
ネジは、着飾ったヒナタを鏡の前に連れて行き、ご満悦と微笑う。
「うん、可愛い」
ネジが手放しに褒める言葉に、ヒナタは控えめに頷く。
ちょっと…というか、自分が思っていた人形遊びとは、随分と違っているが、ネジが楽しそうならいいかとヒナタは思った。
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[ 熊猫 ]
神殺し
TAG: 三つ目 (4)
/ネジ (54)
/熊猫 (11)
/小説 (39)
|DATE: 12/24/2012 01:49:31▲
- [ 本文 ]
-
「いたい…」
そう言うとヒナタは、蹲ってしまった。
小さなヒナタの背中を擦りながら、ネジは顔を覗き込んだ。
「額?」
紅葉より小さなヒナタの手が、おでこの真ん中を押さえている。
掌を、ぎゅっと押し付けて、痛みを堪えるように、目を閉じているヒナタの様子が、酷く可哀想だ。
先日の誕生日で、やっと四つになったヒナタは、夏に誕生日を迎えたネジよりも、ずっと小さい。
背丈も、身体の細さは、勿論、言葉も動作も、ネジよりも、子供子供していた。
父に連れられ、伯父の家で、初めて小さな従妹に会った時、その幼さにネジの庇護欲がひどく刺激された。
優しい従兄に心配されたヒナタは、痛みにうっすらと涙ぐんだ目で、ネジを見た。
「うん…チクチク、チクチクするの」
痛みを感じている額の真ん中を、押さえたままの手を、ネジはそっと掴む。
「どれ?見せて」
ネジが優しく促すと、ヒナタは手の力を抜いて、額から手をどけた。
そこには、傷の一つもない、白くつるんとして、すべすべした額がある。
「………」
だが、ネジの白眼は、ヒナタの額にあるものを見ていた。
ネジは、父ヒザシが、悔しがり諦めきれない程に、日向の血を強く引き、才に溢れている。
ヒナタの額の真ん中に、黒と白が玉を作り、帯を引いて、互いを追いかけ合い、混ざろうとも分かれようともしているような奇妙な形をしているのが、ネジには見える。
グルグルと回っている、その塊に、ネジは不安を感じた。
コレは、ヒナタをネジから、取り上げてしまう。
塊の辺りに、ネジが指を置くと、じわりと塊の形が歪に滲む。
まだ、コレは弱いと、ネジは感じた。
だから、今のうちに、コレをヒナタから消さないと…ネジの大事な従妹は、手の届かない処へ行ってしまう。
ネジは、ヒザシに教わったばかりのチャクラを指の先に、集めていく。
「…痛いの…取ってあげる」
「うん」
真剣に慎重に、チャクラを掌へ集中し―――――音もなく、塊は霧散した。
ネジは、ヒナタの額の塊を、チャクラで握り潰した。
だが其れは、選ばれた者だけに開眼する森羅万象の目。
日向の血が、永に望んでいた、万物の支配を許される神の目。
今、第三の目と呼ばれる神眼使いが、滅された。
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[ 熊猫 ]
読心
TAG: サイキッカー (3)
/ネジ (54)
/熊猫 (11)
/小説 (39)
|DATE: 12/25/2012 01:01:56▲
- [ 本文 ]
-
「はい、ネジ兄さん」
「ありがとう」
ヒナタが、差し出した巻物を受け取り、ネジは調べ物の続きを始めた。
目当ての巻物だったらしく、ネジは真剣な眼差しで、集中する。
その様子に、ヒナタは満足気に微笑むと、そっとネジの傍を離れ、他のくの一の元へ戻った。
「よく、分かるわね」
「え?」
ネジとヒナタの様子を、眺めていたくの一が、感心したように呟いた。
その言葉に目を真ん丸としたヒナタに、彼女は以前、ネジと任務を共にした事があると話した。
「ネジって、何考えてるのか、わかりにくいじゃない」
無口で、表情も乏しいネジとのコミニケーションの取りにくさに、頭を抱えお手上げ状態になったのだ。
だがヒナタは、小首を傾げ、苦笑する。
そんなヒナタの様子に、彼女は、くの一らしい事を思いつく。
「あ、それって、読心の術とか?」
「ち、違うよ…」
「え~~なになに?白眼だから?瞳術?え~~教えてよ~~」
執拗く絡む彼女に、ヒナタは、困ってしまう。
それは……ただ、好きだから、ネジの事がわかってしまうだけなのだから。
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[ 熊猫 ]
ドールハウス
TAG: 親指姫 (4)
/ネジ (54)
/熊猫 (11)
/小説 (39)
|DATE: 12/27/2012 00:17:59▲
- [ 本文 ]
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チクチクチク…と、銀色の小さな針で、ネジは、白い布を縫っていた。
「いてっ」
一人暮らしが長くても、余り縫い物をした事はなかったから、ちょっと縫っては、指に針を突き刺す事を繰り返していた。
ネジの指は、修行のせいで皮が厚く、小さな縫い針では血も出ないが、それでも痛みは感じる。
そうして、指を止めると、机の上にある小さな箱から、「ぴー」と高音の鳴き声がする。
ネジは、その声の方へ、苦笑いをする。
「大丈夫、大丈夫だから」
「ぴーぴーぴー」
机にのせてある箱は、机に椅子、タンスと、小さなベットが納まっている。
そして、その椅子に、ちょうど親指くらいの小さな人がいた。
それは…腰までの黒い髪を持ち、色白の肌の少女で、その顔は日向ヒナタその人だった。
「ぴーぴーぴぴー」
ヒナタが、任務で行方不明になって、数日後、どういう事か、ヒナタは親指ほどの大きさになって、ネジの前に現れた。
身体が小さいせいか、声は鳥かねずみの鳴き声のようになり、人語として聞き取るのは難しい。
だが、ネジは会話をしていた。
確かに、鳴き声として聞こえているのだが、なんとなく、何を言っているのか、わかるのだ。
「無理。その大きさで、鋏も針も持てないだろう。時間はかかるが、オレに任せておけ」
ヒナタを気遣ったネジは、慎重に指を頭の上において、そっと撫でた。
「おもちゃじゃなくて、家具もそのうち、ちゃんとしたのを作ってやるからな」
「ぴーぴー」
「気にするな、意外と楽しいから」
お菓子の空き箱の急ごしらえのヒナタ部屋を、赤毛のアン風のカントリー調の部屋に作り変えようと、ネジはウキウキと考えていた。
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[ 熊猫 ]