当企画は『NARUTO』日向ヒナタ溺愛非公式ファン企画です。原作者及び関連企業団体とは一切関係ございません。趣意をご理解いただける方のみ閲覧ください。

Mirage☆ Night

TAG: 雪女 (4) /only (26) /重吉 (19) /イラスト (51) /関連(2) |DATE: 10/31/2012 19:33:00

旅の者ですが道に迷い夜も更けてまいりました

嫁にするしかないじゃない(∪^ω^)!!

[ 重吉 ]

Mirage☆ Night

TAG: 雪女 (4) /? (5) /光村真知 (3) /小説 (39) /関連(2) |DATE: 12/27/2012 22:22:10

[ 本文 ]
「旅の者ですが道に迷い夜も更けてまいりました」
冬の夜、そう言ってあばら家の、扉を若く美しい女が叩いた。
そして。



冬のきんと冴えた青から、はんなりと綿白の、あるいは薄黄色の、溶け込んだような青へと。
春の空の青はどこか優しく、自慢の恋女房のようである――と言えば、村の衆から
「惚気はもう聞き飽きた」
と返されるのは判りきっているから、口には出さないが。
もっとも当の女房殿は、この時期になると決まって憂い顔。それというのも彼女は稀なほど暑さに弱く、水がぬるむにつれて体調を崩していく。夏の間中はぐったりと、ろくに日陰から出られぬというほどなのだ。そのくせ名乗る名はヒナタ、村の悪たれどもが面白がって囃し歌まで作って歌い、激怒した息子が駆け出していって大立ち回りを演じたのも今ではいい思い出だ。


その淡い青い空の下に薄紅の、花弁を震わせ桜花の精が言う、
「それは契約、」
本性を現すかのような桜色の断髪を揺らめかせて。
「秘密を守る代わりに、女房でいてくれる、」
雪女 氷女(こおりめ)の類は、時に人里に下りてきて、一方的な契約を交わしていくのだと。
あるいは彼女らは神仙の類で、そうやって人間というもののこころやまことやあいの強さを試しているのかもしれない、と。
一方的な契約を持ちかけて、人がそれにどう応えるのか試す山神は多いのだから。


この冬ようやく見つけ出した雪女も、言った。
「これはある種の約定。だが仕掛けるのはこちらでも、破棄するのは常にそちら」
だからこそ、私たちは代償を請求できるのよ。
代償とは何か。命を奪られるのか。
問えば、何かをひどくふかく悲しむように、三重になった赤い目を瞬かせ
「なお悪い」
答えられた。
「息を吹きかけられて凍らされる。だがそれは、山域に踏み込んだ報いに凍らされるのとはわけが違う。魂までも凍てつかされ、氷漬けられ、輪廻の輪に戻ることはできなくなる」
そうして雪女の、ながい長い永い、生が尽きるまでのほんの慰めの氷人形になる。
年経た雪女ならばそうした氷人形を幾体も、持っていることさえある。まるで童女が集めた千代紙のように。
赤い唇を蠢かせた雪女が吹雪の只中に消えてから、ようやく思い出した。
あれは先の村長の末息子の、女房だった女だ。
熊のような髭を生やした末息子は腕の良い猟師だった。その女房は婀娜っぽい美人だった。仲睦まじく暮らしていたのに、いつの間にか末息子はいなくなった。女房も。自分がほんの子供の頃の話だ。


不意に桜花の精は姿を消してしまった。それで振り返ると、小道をヒナタがほてほてと、やってくるところだった。
ああ、と合点する。桜花の精は春のものだから、女房とは相性が悪いのだろう。
こちらを見つけて、はっと顔を輝かせる、「旅の者ですが道に迷い夜も更けてまいりました」、そう告げてきたあの冬の夜から変わらぬ仕草だ。
自分のもとに足を急がせる、女房はいささかも変わっていない。
村の衆は
もちのよい女
などと言うが。
自分にはわかる。
確かに昔よりは落ち着き、囲炉裏の火にあたふたしたり、煮えた鍋に近づけなくて半べそをかいたりするようなことはもうないが。幾人もの子を産み、育てて肝が据わったからそうなった、というほどのことで。
長い髪には白いもの1本混ざらず、肌は変わらず新雪のように白くふっくらと、触れる手の下で肌理は細やかに、撫でる指に伝わる弾力が衰えることもない。ほかの肌身を試してみようなどと、思ったことはないから比べたわけではないが。
沢山いた子供らもみな育ち、男なら嫁を取り、女なら嫁に行き、独立して、家に残るのは末のハナビだけだというのに。
「あの…お花見を?」
いまだ自分に話しかける時ははにかんだようになる、女房にうんと頷いてふと噴出しそうになる。
気付かないわけがあるか。
「旅の者ですが道に迷い夜も更けてまいりました」、
そう言ってやってきたあの夜から、そもそも火を怖がった。囲炉裏のそばを勧めても、竦んだようになって隙間風のあたる隅から出てこなかった。遠慮が勝っているのか、それともやむを得ず宿を借りた家で、若い男と二人きりなどという状況に怯えているのかと気を回して、深くは追求しなかったのだが。
作ってくれる飯は美味いが、どれももれなく冷えている。冷めている、のではない。冷えているのだ。時には半ば凍っていたりすることさえあった。
夏の間中暑さにへばっているくせに、寒くなってくるとやたらに元気で、くるくるとよく立ち働く。人が厭う冬場の水仕事もまるで平気だが、湯には絶対に入らない。
それでも黙って、夫婦として暮らした。いつかの夜に、彼女が決して言うなと言ったから。
ふと己の手を見下ろした。もう若いとは到底言えぬ手だ。判っている。大抵なら女房の顔を見て、過ぎた歳月を数えるんだろうなあと思えば尚おかしい。
「…? どうか、した?」
隣でヒナタが、娘のような口をきく。
「いや、」
お前を見てたら思い出したんだ、いつかの冬の夜に会ったうつくしいもののけのことを――
言いかけて、口をつぐんだ。
今まで夫婦として過ごしたのと同じだけの時間を、過ごすほど自分に寿命は残されていない。
だからといって彼岸とやらで、ヒナタが来てくれるまで待ちぼうけるつもりもない。
いつか言おうと思う。
笑いかけてやることもこの腕に抱きしめてやることも出来なくなっても、長く永いという雪女の生を、愛しい女が終えるその日までの、ささやかな慰みにでもなれるなら、それ以上に喜ばしいことはないのだから。




[ 追記 ]
重吉さまの雪女から。
「嫁にするしかないじゃない(∪^ω^)!!」
ああコレは確かに嫁にするしかあるめぇよ。
と、いうわけで。
ほかの方々の作品が、圧倒的にネジヒナが多いので、ちょっとひねって誰がお相手とも読み取れるようにしてみました。

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光村 真知

❋COMMENT❋

AUTHOR: 重吉|DATE: 12/27/2012 22:47:30|TITLE: 生きててよかった…(/∀T)

ありがとうございます!!こんな幸せなことが自分の未来に起こるなんて言われたらどんな苦難も乗り越えられそうな幸せです!!夢…?!生きててよかったよママン…(/∀T)